箭内: もともと書くことは好きなんですか。それともずっと苦しい中で書いてらっしゃったのか。
長沢: いや、苦しいってわけじゃないんですけどね。面白いときは面白い。とはいえ、コピーライターは逃げられない。仕事が一人で完結してますから、私がやらなかったら代わりにだれか書いてくれるわけにいかない。そういう恐怖感もあって、だったらやるしかないじゃない? と。いつもそういうところにいた感じですね。最初に長谷川(好男)くんと国鉄の仕事をやったときからそうだったし、石岡さんとのパルコの仕事もそうでした。
箭内: 長沢さんに、頼りたくなるっていうのもあるんですかね?
長沢: それは歳の差もあるかもしれない。石岡さんや(高杉)治朗さんは年長だけど、長谷川くんは3つ下で中島(祥文)は同い年。あとはみんなもっと若くて、戸田(正寿)くんもサイトウマコトも10歳近く離れてますから。
箭内: コピーという大変なパートを長沢さんにお任せできるので、後輩のアートディレクターたちがのびのびと、自由に仕事できたところもきっとあるんでしょうね。
長沢: 自由にやってましたよ。浅葉(克己)ちゃんにしてもね。コピーは考えなくていいんだから。
箭内: さっき「いいものはいま見てもいい」っておっしゃってましたけど、ご自身のコピーで一番好きっていうのはあるんですか。そういう仕事のされ方をしてないような気もしますが。
長沢: どうでしょう? 人からいいって言われたものが、いいような気もするんですけど。でも、石岡さんなんか「いいわね」なんて一回も言ったことないな。褒めない人。「これ、いただくわ」くらいのもので。
箭内: 「いただくわ」は、どう考えても「いいね」ですけどね。
長沢: でも、こちらとしては、何がいいのかわからなくなりますよね。パルコも最初の頃はね、100本とか書いて持っていってました。「モデルだって顔だけじゃダメなんだ。」なんかは、そんな寄り道をしてましたね。そのあと「裸を見るな。裸になれ。」があって、「鶯」(鶯は誰にも媚びずホーホケキョ)くらいから1本だけ。「これです」って。「あゝ原点。」は本当に追い詰められて、三田にある石岡さんの事務所へ行く途中、地下鉄の階段を上がっているときに出て来たんです。だから、CMに間に合わなくて。
箭内: いいお話ですね。最近のこともおうかがいすると、いま、どんな感じで過ごしてらっしゃるんですか。
長沢: 薪割りの日々だね。歳とると筋肉がどんどん消えていくんですけど、薪割りは筋肉がついていいかなと思って。
箭内: そういう方にとって、いまの広告の世界がどんなふうに見えてるのか気になります。
長沢: 全然見えてない。もうどんどん遠くなるばかりで。
箭内: 若いコピーライターにアドバイスとか? 酒飲めでもいいんですけど。
長沢: 知らないもん。若いコピーライター。
箭内: 知らなくてもいいんですけど(笑)。
長沢: うーん、僕なんかは世界と一緒に行動する感覚が持てる時代でしたけど、いまはスマホの中で行動するから。ちょっとわかりにくいんですよ。その世界で行動することに慣れちゃった人間は、さて、その後どうするか? オフにすることも必要になってくるかもしれない。でも、少し飽きてきたんじゃないの? そうでもないのかね。
箭内: 飽きてきてますね。メッセージを受け取る側もちょっと疲れてきてるというか…。いま、いろんな人から伝えられちゃうから。
長沢: うん、整理がつかなくなってくる。そういうとき人はどうやって叫ぶんだろう? あまりに不自由な方向に行っちゃうと、爆発するんじゃないかな。
箭内: いや、薪を割るっていうのもいいと思うんです。ある種の身体性が必要というか。今日お話うかがって思うこととして、やっぱりこの本は、広告界に一石を投じるというかね、長沢岳夫ブームが起きたらすごく面白いと思います。これ、ピュアなものじゃないですか。セルフプロモーションというか下心みたいなものが全然なくて。ある意味、運命的というか、必然性のあることだと思うんですよね。
長沢: 恥ずかしいよね。だから自慢話だけはしないようにと。ま、ちょっとしちゃってますけど(笑)、作品集って「オレがいるぞ」みたいな感じになりやすいから、それだけはやめようと。
でも、完成するとうれしくてね。ずっとライバルだと思っていた西村佳也さんが、初めて私のこと褒めてくれたり、十文字(美信)がコピーのことで冴えたこと書いてくれたり、もう寄稿者の人たちみんな感動しちゃった。これはいい本ができるなと思いました。励まされたような気がして、こっちもどんどんノっちゃったようなところがあるね。
箭内: あと、ブックデザインで井上嗣也さん(カバー)と葛西薫さん(アートディレクション)が協力してるって、とんでもないコラボですよね。
長沢: 忙しいのにね。私、嗣也さんとは仕事で縁がなかったんだけど、この本でついにご縁ができたんです。しかもカバーのビジュアルは、水をモチーフにした円。もう、めでたし、めでたしだね。
箭内道彦(やない・みちひこ)
クリエイティブディレクター
1964年生まれ。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人、福島県クリエイティブディレクター、渋谷のラジオ名誉局長、東京藝術大学美術学部デザイン科教授。
長沢岳夫(ながさわ・たけお)
1943年東京生まれ。1967年慶應義塾大学経済学部卒業。
1969年デザインオフィス・ナーク入社。1972年あっぷるはうす設立。
1976年長沢事務所設立。
[主な事績]
1970年より長谷川好男と国鉄(現JR)の仕事を始める。その仕事で、1972年東京コピーライターズクラブ(TCC)最高新人賞。同じく国鉄の仕事で長谷川好男が1974年東京アートディレクターズクラブ(ADC)最高賞を受賞。長沢はTCCクラブ賞。1973年より石岡瑛子とPARCOの仕事を始める。その仕事で石岡瑛子が1975年にADC会員賞受賞。長沢はTCCクラブ賞。1979年高杉治朗、浅葉克己とのサントリーオールド「羊飼い編」の仕事でCD、コピーを担当。その仕事で高杉、浅葉はADC会員賞を受賞。長沢はTCCクラブ賞。1983年高杉、戸田正寿、杉山恒太郎とサントリーローヤルの「ランボオ編」を制作。CD、コピーを担当。高杉、戸田がADC最高会員賞を受賞。長沢は最高会員賞制作者賞とTCCクラブ賞。その他タケダ製薬、ブリヂストン、AGFなど。1986年から葛西薫とサントリーモデレーションキャンペーン開始。2022年まで36年間続ける。(文中敬称略)
著書:What is Copywriting? 長沢岳夫作品集(リトルモア)


