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Vol.1

「この番組は、田んぼで発電した電気を使ってお送りします」
TBS GXが取り組む発電事業とは?

「クリエイティブ・エシックス」世界を今より良い場所にするというマインドセットを、僕はそう呼んでいます。
…というとカンヌライオンズ受賞作などを連想しがちですが、日本でもクリエイティブ・エシックスに基づいたビジネスは盛んに行われています。この連載では、クリエイティブ・エシックスの観点から活躍しているビジネスパーソンにその詳細を取材。第1回となる今号では、メディアにも関わらず再エネ発電のために新会社「株式会社TBS Green Transformation」(以下、TBS GX)を立ち上げた、同社代表取締役の法亢 順氏にお話を伺いました。

聞き手:橋口 幸生(株式会社 電通/クリエイティブ・ディレクター)

TBS GX設立の経緯
緑山スタジオ発のコンテンツを世界に打ち出すために。

―「TBS GX」設立のきっかけを教えてください。脱炭素に取り組む企業は多いですが、自ら発電会社を立ち上げるという話はあまり聞きません。

法亢 順氏

そうですよね(笑)。もともとは、脱炭素をもっと進めるために何ができるか検討していた際、普通に緑山スタジオ(横浜市)の敷地内、建物の屋根なんかで太陽光発電をできないか検討していたんです。ですが、いろいろ難しくて。そんなとき、我々の事業パートナーである株式会社UPDATER(以下、UPDATER)から「敷地外で再エネを創る方法もあります。農地の上に太陽光パネルを建てて農業と発電で太陽光をシェアする、ソーラーシェアリングという方法です。環境とも調和するし、農家の支援、耕作放棄地の再生にもなる取り組みです」と提案がありました。再エネを生み出すだけでなく、ほかの課題解決にもつながるなんて・・・私たちはメディアとして自分たちの取り組みをコンテンツ発信でも活かせればと思っていたので、これはやり甲斐ありそうだしおもしろいね!となりました。

UPDATERは、「みんな電力」といって再エネの生産者を消費者が選べるプラットフォームを運営しています。こうしてUPDATERの知見を活用させてもらいながら、思い切って発電事業に乗り出すことにしました。ファーストステップとしては、3年以内に緑山スタジオで使う電力を自分たちで生み出した再エネ100%に切り替えることを目標としています。

なぜ発電まで?をもう少し補足すると、政府は昨年、2040年までに現状の2倍まで再エネの比率を増やしていく方針を打ち出しました。すると、圧倒的に再エネの供給量が足りていないですよね。なので、どの企業にも、追加性のある再エネ、つまり社会全体の再エネ総量を増やす効果のある再エネの活用が求められているんです。

また同時に、TBSは一昨年「グローバルビジネス元年」を謳い、海外にも積極的にコンテンツ展開していくことを掲げています。その制作拠点が、横浜にある緑山スタジオです。自ら生み出した真にクリーンな電気によるコンテンツ制作が可能となることで、緑山を、世界に通用するサステナブル・スタジオにする大きな一歩にしたいと思っています。

緑山スタジオ

―なるほど。ただ、会社をひとつ立ち上げるというのはお金も人手もかかる大きな決断です。社内での反応はどうでしたか。

「なんで我が社が発電事業を?」と頭の上を「?」が飛び交っていた感じでした(笑)。チームで「これでいきたい!」と決断してから然るべきところでの理解を得るまでに、だいたい半年かかりました。

―半年というのは結構早い意思決定ですね。

当初は、我が社のどこに発電事業をやれる人材がいるんだ?というひっかかりもあったと思いますし、始めるからには簡単に引き下がれない。しかし、私たちがやろうとしているのは、再エネ事業の知見のあるUPDATERや営農をしてくださる農家や農業法人、つまり食とエネルギー生産のプロたちと組んで初めて成立する事業です。そして、何より、一つひとつの現場にストーリーがある。「ストーリー性のある発電所」をつくっていき、その姿勢をコンテンツとしても発信することで、TBSのブランドプロミスにもある「社会を動かす起点」になりたい、と、丁寧に説明していきました。

現場ごとのストーリーを届け、
営農型太陽光発電の生む再エネの価値を届ける

―「ストーリー性のある発電所」というコンセプトがいいですよね。「なんでテレビ局が発電をするの?」となったときに、「ストーリー性のある発電所」という言葉があることで、みなさんハンコを押しやすくなったと思うんです。

現地に赴くと、パネルの下で農業を営む人たちから生まれるストーリーを感じます。
例えば、耕作放棄地となってしまった土地を、地権者を一軒一軒まわって借りたり譲り受けたりして、全国から若い就農者を集めて、しかも有機農法で蘇らせようと取り組んでいる人がいます。担い手がいなくなったところを、近くの大学や福祉施設と連携するなどして営農の体制を構築している人たちがいます。

―人間のドラマが見えてきます。

福島の原発事故ですべてを失い、営農型太陽光発電に活路を見出した農家さんがいます。静岡では家業の電気屋さんを受け継いだ女性が、「電気も地産地消に」とレモン畑の上で発電しようと摸索しています。私たちの第一号の投資先の自治体は「オーガニックビレッジ宣言」をして、有機栽培のお米を地元の小学校に無償提供しています。現場ごとに、ストーリーがあるんです。
私たちは、そういう方々のパートナーとなって、それぞれのストーリーも発信できたらと思っています。

―どのように伝えていくかプランはあるんですか?

まずは営農型を知ってもらうところからですよね。農地の上で発電ができるんだ、おもしろい!応援したい!とか、自分たちも挑戦したい、と思ってもらえるような発信がしたい。メディアとして取り組む意義はここにあると思うので。
緑山スタジオはドラマ制作の拠点です。また『SASUKE』などの人気コンテンツの収録も行なっています。こうした知名度のあるコンテンツが、たとえば栃木県の田んぼで生み出された電気を使って制作されたことを発信できたらおもしろいなと思っています。

―この田んぼから番組が生まれたんだと聞くと、なるほどと思えますね。

「太陽光発電」と聞くと自然環境を破壊しているメガソーラーが時折ニュースになるので、そんな光景を思い浮かべる人もいると思います。でも営農型のパネルの多くは、遮光が三割程で、広がっている光景、雰囲気がまったく違います。近年は夏が暑すぎるので、パネルがあったほうが日陰ができて農作業も少しラクになりますし、農作物にとっても高温障害を避けることができるといった検証が進んでいます。
千葉県の農地を視察した際には、パネルの下で育ったブルーベリーのほうが高品質だったという話を聞きました。作物によって向き不向きはあると思いますが、ぶどうやイチジク、レモンなど、果物は親和性が高いものが多いようです。
また、放牧された牛にとっても真夏の日陰になり、アニマルウェルフェアの観点からも有意義であると注目されています。

農業の持続可能性や食の安全保障につながり、人や動物の幸せにもつながる取り組みだということを、映像としてお見せして関心を持っていただけたら。

中山間地の荒廃、農業の持続性、エネルギーや肥料の高騰――
日本の抱える多くの課題に直結する取り組み

―酪農家の方も、収入が安定しなくて大変という報道がありますよね。

橋口 幸生氏

今、とくに荒廃の進んでいるのが中山間地域です。先進的に営農型に取り組んでいる方にお話を聞くと、段差があって田畑にしにくい所は牧草地として活用できると。酪農も畜産も安定した収入が難しくなっているなか、中山間地を牧草地にして放牧もして、営農型で再エネも生み出していければという話をされていました。ちなみに、緑山スタジオに6月から供給される電気は、妊娠した雌牛が出産までの期間を過ごす、福島県の牧草地で発電しているものです。

―営農型太陽光発電は、食料やエネルギーの安全保障といった日本の課題が詰まっているんですね。

そうですね。食料やエネルギーの安定供給に寄与する本当に意義ある取り組みです。「日本が抱えるさまざまな課題を解決したい」という思いを皆さん本当に強くもって取り組んでいらっしゃると感じます。

―実際に農地を経営されている株式会社アグロエコロジー(以下、アグロエコロジー社)について教えてください。

アグロエコロジー社は有機農法にこだわっている農業法人です。農業の担い手がいなくなった耕作放棄地を借りたり譲り受けたりしながら、有機農業をしたいという若者を全国から募って育成している。その方針、考えに強く共感しています。

―農業の中でも、有機栽培に取り組まれているのがおもしろいですね。

土壌をちゃんと育てていきたいという思いがあるそうです。畜産、放牧もされていて、牛の堆肥でつくった肥料を農地で使っています。中東情勢の影響で飼料の高騰が問題になっています。農業の危機という報道もありますが、だから今こそ農業のやり方を変えていくべきだと。
有機栽培は手間がかかりますが、輸入に頼らず自分たちの資源だけで回していける農業です。食の安全という面でも、多くの方の共感をいただけるのだと思います。

―大企業が有機農法に取り組むのも世界的な潮流だと感じます。海外では「CONTRACT FOR CHANGE」という、麦農家の有機農法への転換を支援するキャンペーンを、アンハイザー・ブッシュ・インベブがやっていました。バドワイザーなどを製造しているグローバル企業です。アンケートをとると、有機農法に転換したい農家は結構いるらしいんです。けれど、転換には3年かかるうえ、買い手がつくかどうかもわからない。やりたいけれどできない人がたくさんいるなかで、アンハイザー・ブッシュ・インベブが3年後の買い取りを保証するという取り組みです。これは広告業界でとても注目され、大きな賞をたくさん獲りました。
そのような世界の流れが、日本にも来ていることを実感しました。

海外では企業の取り組みも進んでいますね。そう、有機農法の課題は、どうしても手間がかかる、コストがかかってしまうから、それなりの価格で売らないといけないことです。広く誰にでも買いやすいものではない面もある。
先ほど申し上げた「有機米を給食に」の事例は栃木県塩谷町なのですが、今後、企業や国のバックアップがより進むといいですね。大企業がどんどん参入すれば、有機栽培へのハードルが下がり、値段を抑えられるようになっていくでしょう。