
Xinobi AI/非常勤取締役
品川女子学院/顧問
サツドラホールディングス/社外取締役


日本の伝統的な酒文化を未来へつなぎ、発展させるためのアイデアを募集します。コミュニケーション企画の枠を超えた、リアルイベントや空間デザインなどの体験の創造、プロダクトやサービスなど実効性のあるご提案を広くお待ちしています。
■課題設定の背景
2026年現在、日本酒やワインを含むお酒全体の消費量は、長期にわたって減少を続けています。国税庁によれば、成人一人あたりの酒類消費量はピークだった1992年度の101.8リットルから2022年度には75.4リットルへと約2割減少し、厚生労働省の調査では、いまや成人の過半数(約57%)が日常的にはお酒を飲まないという結果が出ています。「最近の若い人はお酒を飲まなくなった」と言われるゆえんです。背景には健康志向の高まりもあり、SDGsの目標3.5でも「アルコールの有害な摂取」の低減が掲げられています。さらに北米を中心とする若い世代では、あえて飲まない生き方を選ぶ「ソバキュリアス(sober curious)」がライフスタイルとして広がりつつあり、これもまた新しい現象です。
そうしたなかで、日本では生産と消費の間にいくつものギャップが生じています。日本酒の酒蔵は、ここ20年でおよそ毎月3蔵のペースで廃業し、生産量も半世紀前のピークと比べて約4分の1にまで縮小しました。しかも日本酒の製造免許は現実的には新規取得が難しいため、一度失われた蔵を取り戻すことは容易ではありません。焼酎でも同様の縮小が進む一方、近年は「ジャパニーズウイスキー」の世界的ブームで新たな生産者が増え、同じ蒸留酒のクラフトジンにも新しい造り手が次々と生まれている活況な話題もあります。さらにナチュラルワインの流行を追うように「日本ワイン」にも火がつき、山梨・長野・北海道では、ぶどう栽培から醸造までを一貫して担う造り手が増え続けています。日本酒は2024年12月に「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産へ登録された一方で、その担い手である蔵は1ヶ月に3蔵減り続けている、この対比こそ、いま日本の酒が置かれた状況を象徴しています。
他方、消費の現場に目を向けると、若い世代を中心に、ハイボールやレモンサワー、抹茶サワーといった飲みやすく安価なアルコールは堅調に注文され続けています。同時に、繁華街で新しく開業する飲食店ではナチュラルワインの需要が強く、ライフスタイル誌でもたびたび特集が組まれています。比較的安価なハイボールやサワーと、単価の高いナチュラルワインが同時に伸びる——この二極化に、日本酒業界はやや戸惑っているのが実情です。
お酒は、日本の文化に深く根ざしています。日々の食事だけでなく、祭り、冠婚葬祭、子孫繁栄や五穀豊穣を祈る神事など、暮らしのさまざまな場面に登場してきました。適量を保てれば、お酒がもたらす酩酊はむしろ人々のQOLを高めるとも言われます。私たちが普段は意識しないところで、お酒は長く生活文化の一部であり続けてきたのです。
「日本酒や焼酎が飲まれていないだけだ」と捉えれば、課題は日本酒や焼酎の側にあるように見えます。しかし、このまま業界全体が新しいアルコール飲料の波に押し流されていけば、日本の酒を飲む人が減るだけでなく、造る人も減っていきます。新規参入が閉ざされた構造のもとでは、それはやがて「日本の酒文化そのものが消滅しかねない」という、現実的な危機につながります。
「能登の酒を止めるな!」はこうした文脈の中で生まれています。2024年1月1日の能登半島地震では石川県の酒蔵の1/3にあたる11蔵が被災しました。ほぼすべてが半壊・全壊し、酒造りが未だに再開できていないところがほとんどです。ここ能登半島には400年前から能登杜氏と呼ばれる杜氏集団がおり、今でもその技術的な系譜は北陸地方に留まらず県内外に多大な影響を及ぼしています。自然災害という抗うことのできない事象に対して、私たちの伝統文化である日本酒造りが失われようとしている、そのことを止めるための取り組みとして開始しました。
地方の問題は、日本の問題です。こうして健康志向が高まり、飲酒人口が減り続けるなかで、日本の大切な文化が失われようとしている。この危機に対して、私たちには何ができるのか。地方創生・食文化・伝統文化という視点と、私たちが生きる資本主義とグローバル化の潮流。その両方を両立させるための仮説を、これから考えていきたいと思います。














