第二十二回 箭内道彦 ✕ 篠山紀信
篠山: 今日、何なのかわかってないんですけどね(笑)。
箭内: 「広告ロックンローラーズ」と言って、走り続ける人たちにいまの話を聞く連載なんですけど。
篠山: そんなこと言ったって箭内さん、私のこと昔の人だと思ってるでしょ?
箭内: いや、そんなこと思ってませんって。
篠山: そう、全然違うんだよ。もうね、ロケンロー!最近の私の傑作はなんと言っても(東京)藝大の前で撮ったーー
箭内: 撮っていただきましたね。藝大の学長と美術学部長、小学館の社長に小学生の制服を着てもらって門の前で。
篠山: うん、35ミリでパパッと撮ろうと思ったら、そこのディレクターっていうのかな? エラい人が、「ちょっと君、これ35ミリじゃダメだよ、エイト・バイ・テンで!」って。
箭内: オレ、そんなこと言いましたっけ?(笑)。
篠山: まあ、そういうことにしておいたほうが、話は面白いじゃない? こういうところでする話ってほとんどウソだからさ。本当のこと言う人は、たいした人じゃない。
箭内: そうなんですね。昔ある人から「テレビで本当のこと言っちゃ、ダメだよ」って言われたことあります。あと「いいこと言おうとするな」って。
篠山: だいたいテレビに出るってのがダメだよ。
箭内: すみません(笑)。でも、今回みんな驚いたんです。このシリーズに篠山紀信さんが出てくれるって言ったら。ダメもとでオファーしたんですけど。
篠山: いや、箭内さんが藝大のポスターの仕事をくれたからさ、何かお返しをしないとまずいなと思って。
箭内: 僕は逆に撮ってもらって感謝っていう気持ちです。むしろ僕のお返しというか、「篠山紀信はいまも最高にロックンロールだぜ」っていうことをここで広告したいなと。
篠山: いいね、ロケンロー!
箭内: ところで篠山さんはおいくつなんですか? もう80歳見えてきてます?
篠山: まあね。でも実は120歳っていう説もあって、「きんさんぎんさん紀信さん」っていう3人姉弟だっていう噂もあるから。
箭内: 常に面白いですよね(笑)。僕、「篠山紀信」にどう接したらいいのか、実はまだわからないんです。こうやって目の前にしても、なんか「本人じゃないんじゃないか?」とすら思えてきて。
篠山: そう、本人はなかなか出てこないよ。篠山紀信は5、6人いるって評判だから。このあいだは、エイト・バイ・テンのうまいやつが行ったんだ。
箭内: でも真面目な話、篠山紀信をマネできる人っていないでしょ?
篠山: だれもマネなんてしないでしょ。
箭内: じゃ、「だれも自分に追いつけない」みたいな自負がある?
篠山: ないない。そういうことはあんまり考えないの。追いつくとか、マネされるとか、そんなことどうでもいい。
箭内: うわー、オレ、小さいなあ。すみません、小さいこと聞いちゃって。じゃ、篠山さんは広告ってどう思ってます? これ、ACCと言って広告に携わる人たちの会報なんですけど。
篠山: いいじゃない、広告。だって私は広告写真から始めたんだから。でもオレの言ってること、全然役に立たないよ(笑)。
箭内: いや、役立つと思うんですよ。最初はライトパブリシティに入ったんですよね?
篠山: うん、なんで広告写真から始めたかって言うと、写真を始めたのは1950年代の最後の年でね。とにかくイケイケドンドンの時代だったじゃない? で、そのときに…でも、そこから話すと3日くらいかかるけど?
箭内: ちょっと端折りながら(笑)。
篠山: まあ、写真家になったのはたまたまなんですよ。私はお寺の次男なんですけど、次男っていうことは跡を継げないじゃない? 坊さんほどいい商売ないのにね。
箭内: 坊主、丸儲け?
篠山: 丸儲けだし定年がないでしょう? だからオレもなりたかったんだけど、家は兄貴が継いでほかのことをやらなくちゃというので、大学を受けたのね。ところが落っこちちゃって。
箭内: もしかして東京藝大受けたとか?
篠山: 受けないよ、そんなチャラい大学(笑)。もっとちゃんとした大学です。
箭内: 写真、関係ないんですね。
篠山: うん、そもそも芸術と関係ないんだ、オレは。芸術をやろうなんて全然思わない。そんな危険な仕事。
箭内: 危険な仕事(笑)。
篠山: 危険だよー。才能なくちゃダメなんだから。オレなんて真面目に勉強で行こうとしてたんだけど落ちたんだよね。それで「浪人するのもねえ…」と思って新聞を見ていたら、日大の写真科(藝術学部)の募集広告が目に入ったの。そのとき写真っていう言葉にすごいピンときた。直感でね。この業界は賑やかで面白いんじゃないかなって。
ところが、大学でほとんど教えてくれないんですよ、写真の技術を。写真の講義なんて、週に1時間か2時間しかなくて、「外国語はドイツ語とフランス語がありますが、どちらを選ばれますか?」みたいなね。もっと頭にきたのは、大学には体育の時間っていうのがあって、跳び箱を跳べって言うんだよ。突き指でもしたらどうやってシャッター押すんだっていうね(笑)。それで「この学校、ちょっと違うんじゃないかなあ」と思って、10月から専門学校に行ったんです。
箭内: 1年のときに?
篠山: うん、専門学校っていうのは、いろいろ教えてくれるから。ライティングや細かい技術的なことを。結局はたいして役に立たない初歩の初歩なんだけど、私がもっと初歩だったからね。それで昼はちゃんと日大にも行ったんだよ? 動機は不純で卒業証書がほしかったから(笑)。