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第二十六回 箭内道彦 ✕ 江川悦子

箭内: まずは文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞おめでとうございます。もうたくさんお祝い言われてると思うんですけど。

江川: ありがとうございます。ちょっとびっくりしています。

箭内: 江川さんは、映画やテレビドラマ、そしてCMとさまざまに活躍されてますが、僕らを助けてくださってる江川さんが受賞されたのはとてもうれしいです。なんか、勝手にすいません(笑)。

江川: いや、そういうふうに言っていただけると、とてもうれしいです、私も。

箭内: 江川さんのお仕事だと、見ていてすぐにはわからないケースも多いですからね。たとえば「鎌倉殿の十三人」なんて、楽しみなドラマだなって思って見ていたら、エンドロールで江川さんのお名前、偶然拝見したり。そういうのもうれしいですよね。

江川: 「クレジットは見たけど、中で何やってたの?」って聞く人もたまにいますね。

箭内: でも、それこそが江川さんの力なんじゃないかと。見ても特殊メイクだとわからないぐらい自然な映像がつくられていたわけで。まずは受賞の感想からうかがってみたいんですが、表彰式があったんですね。

江川: はい。私、スピーチさせていただいたんですけど、基本的にはやっぱり人とのつながりで、いまがあるというお話をしました。この仕事はロサンゼルスのスクールに通ってから、40年以上続けてきたのですが、その間に出会った人って、もう数えきれないくらいでね。そういう方々との出会いがあっての現在ですから。感謝なんて言葉では薄っぺらく思えてしまうんですけど、そうとしか表現のしようがないんです。

あと、いまはデジタルメイクだったり、違う分野も融合しながら頑張っているところですから、新たな人たちとの出会いも期待しているということや、それを続けるには健康でなきゃいけないし、なにより平和じゃないといけないなって近頃つくづく思うので、そういうこともお話したんですけど。

箭内: 完璧ですね。この対談連載は過去の話というより、現在のお話をうかがう趣旨ではありますが、江川さんの会社(MAKE-UP DIMENSIONS)のホームページに、これまでのヒストリーがすごくよくまとまってるじゃないですか。あれはぜひね、ここにリンクを貼っておいて、皆さんに読んでいただくといいんじゃないかな? と。

すごく面白い小説を読んでるような気持ちになりました。特殊メイクの第一人者にどうやってなったのかっていうこととかね。さっきおっしゃった出会いを江川さんが運命や偶然も味方にしながら、自分からつかみ取りに行ってらっしゃる姿もわかって、まるで“朝ドラ”みたいだなと。それは若い人に知ってほしいことだと思います。

ところで、うかがってみたいんですけど、“特殊メイク”って僕らが考える以上に広いですよね? 関わられたお仕事で言うと映画の「ゴーストバスターズ」のマシュマロマンなんかは、特殊メイクだってすぐわかりますけど、「おくりびと」なんかだと、どこがそうだったのか? 言われないとわからないというか。

江川: よくありますね、「あれも特殊メイクだったんですね」なんて言われること。むしろ私は、そういうもののほうが多いかな? と思うぐらい。最近は特にそうです。時代劇も始めちゃったものですから。
時代劇に関わるようになったのは、坊主メイクがきっかけだったんです。ビートたけしさんが東條英機役をやるとき(ドラマ「あの戦争はなんだったのか」)、坊主を改良したメイクをしたら、「軽くてリアルだから、時代劇にもいけるんじゃないの?」っておっしゃってくださって。たけしさんには、映画「血と骨」だったり、CMだと「ReBORN」(トヨタ)の秀吉だったり、老けメイクから若いメイクまでさせていただいてるんですけど。

箭内: 「アウトレイジ」も参加されてましたよね。たけしさん、江川さんのことを高く評価してらっしゃるんだろうと。ところで先ほどおっしゃっていた、「どこやったの?」って言われるような、さりげない特殊メイクは気になりますね。

江川: 気づいてもらえないっていうのは、メイクがうまくいってるということでもあるんですよね。かなり前に、朝ドラである役者さんに老けメイクをさせていただいたとき、その方の友だちから電話がかかってきて、「お前、老けたな」って言われたそうなんです(笑)。

箭内: 最高ですね、それ。

江川: そういうお話を聞くと、やってよかったなって思います。禿頭ひとつでも、結構バージョンがあって、かつらとセットでメイクしたり、あとは五分刈り頭ですね。戦争中のちょっと刈りこんだ頭なんですけど、役者さんっていろんな仕事を掛け持ちしてらっしゃるから、実際に刈りこみができないケースも多いんです。それがうまくいってたら、もう全然気づかれないというか、本人の頭と思っていただけるんですけど。

箭内: (村上)虹郎君が出演したカロリーメイトのCMも特殊メイクですよね?(「夢の背中」篇)。

江川: あ、そうです。あの坊主頭、たぶん2~3種類やったんじゃないかと。ちょっとずつ髪が伸びていく設定でしたから。ああいう五分刈り頭は意外と多いです。なかなか皆さん、そういう髪にできないらしく。

箭内: すごいですね。江川さんの特殊メイクによって脚本や演出の人たちの可能性が無限に広がるというか。江川さんがいれば、安心してコンテにできたり、プレゼンできるって絶対みんなあると思います。江川さんが何とかしてくれるだろうって思って。

江川: それはちょっと褒めすぎです(笑)。私としては「お役に立てればいいな」のひと言ですけどね。

箭内: でも、あんまり上手じゃない特殊メイクだったら、見てる人一気に冷めちゃいますよね。

江川: 確かにバレバレなのは困ります。クオリティは頑張ってほしいなって思うときがたまにあります。