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箭内: なるほど。それに絡めてお尋ねすると、江川さん自身がやってみたいこと、つくってみたいものってあるんですか。江川さんはみんなから来た球を、フルスイングで打ち返し続けてると思うんですけど、逆に江川さん発というか、「この特殊メイクやキャラクターで何か考えられる監督やプランナーいたら、いらっしゃいよー」みたいな。

江川: 言ってみたいですけど(笑)。まあ、考えることはあるし、やりたいことはあるんですけど、そういうのをうまくアピールするのが下手なんですよね。でも、これからはもうちょっとそこも積極的に攻めるじゃないですけど、キャラクター付きの企画みたいなものは何年前からか温めているものがあって。

箭内: じゃあ、差し支えなければそのうちのひとつくらい。ヒントだけでもくださると。

江川: そうですね。ひと言で言うと、宇宙人かもしれないし、ちょっといままでにないオリジナルの妖怪かもしれない。そういうのも面白いなって思うんです。宇宙人ってね、いくらでもつくれるんですよ。深海魚の図鑑なんかを見ていると、ものすごく面白いのがいて想像が膨らみます。そういうのを形にできたらいいな、なんて思ったり。すでにいろんな方がやられてますけど、老けたり若くなったりを行き来するキャラクターもいいですね。

箭内: 僕、今日お話うかがうまで、メイクで若くすることができるっていうのは意外と知らなかったので、それで何か考えてみようかなって思いましたけどね。

江川: そうですか、じゃ是非。若づくりはいろいろ工夫してきて、いまいい感じになってるんです。昔は下地を引っ張り気味にして、その上に人口皮膚を貼ったりすると、完成したときはいいんですけど、演技して笑ったりしちゃうと笑いジワが表の人工皮膚にまで響いてうまくいかないこともたまにあって。どうやればそれを軽減できるか何度も試すうちに、完成度も上がってきましたので。

箭内: 老けたり若くなったりいろんなケースがあると思うんですけど、江川さんに特殊メイクをしてもらったビフォア・アフターで、演者さんたちに共通するリアクションって何かあります?

江川: たとえば、老けメイクですと「うちのおじいちゃんみたいになった」とか。そういうのもうれしいんですけど、やっぱりメイクをすることで、「役に入りやすくなった」という感想をいただいたときが、お手伝いできてよかったなって一番思います。

箭内: そうですよね。ちなみに仕事の比率で言うと、どんな感じなんですか。映画とドラマとCMで。

江川: いまはわりと均等にいただいてますかね。ただ、ちょっと分類が難しいのは、作品ごとに入り方が全然違いますから。去年の「青天を衝け」っていう大河ドラマなんかだと、主役の方に最初は中剃りっていってある種の坊主メイクをするわけですけど、明治時代になると散切り頭になって、晩年になるにつれ老けメイクみたいな。そういうふうにどっぷり関わる作品もあれば、ドラマの中で最後の最後に老けメイクだけお願いしますというものもあったり、CMだと基本的に一日、撮影に参加したら終わりだったり、仕事によって毎回様々ですから。

箭内: 最後に、これを読んでるCMの人たちに何かアドバイスいただけませんか。僕ら映画やドラマの世界は知らないわけですけど、いろんな分野の現場を見てきた江川さんなら、広告を本業とする人たちに何か伝えられることがあるんじゃないかと。辛口でも構いませんので。

江川: なかなか難しいご質問ですけど……そうですね。いまって時間がどんどんなくなってるんですよ、実は。特にこの数年は制作時間が短縮、短縮になってきていて、本番数日前にいきなり「なんとかなりませんか」みたいなご依頼をいただいたり、打ち合わせ段階から参加している場合も、最後の結論がなかなか出なくて、結局、本番まで4~5日みたいなケースがあったり。

そういう場合も、可能な範囲でどうにかご対応するのですが、自分としてクオリティ100パーセントじゃないかもしれないっていう、その状況はよくないと思うんです。必ずしもCMの現場だけではないんですけど。

もちろん、クライアントさんもあれば、いろんな事情があることは承知していますが、「腹は据えましょうよ」って思うことがあります。ちゃんと前もって決まっていて、余裕のあるお仕事もあって、それはすごくありがたいんですけどね。デザインを十分練って準備する時間が取れますから。

箭内: 重要なアドバイスだと思います。見切り発車って言ったらあれですけど、「これをやるんだ!」っていうふうに、ものをつくる側が強い気持ちを持って進めるのはとても大事ですね。

江川: そうですね。そういうふうに進めて行けたら、みんなハッピーなんじゃないかなと思います。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター
1964年生まれ。58歳。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科教授

江川悦子(えがわ・えつこ)

米国ロサンゼルス在住中、Joe Blasco Make-up Center、Dick Smith Advanced Make-up Courseにて特殊メイクを学び、その後「メタルストーム」「砂の惑星・デューン」「ゴーストバスターズ」「キャプテンEO」「ラットボーイ」などの映画作品にスタッフとして参加。
1986年帰国後、特殊メイクアップ、特殊造形でのパイオニア的工房、株式会社メイクアップディメンションズを設立、現在に至る。