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箭内: なるほど、砂漠の旅芸人。その言葉が突破口になったんですね。そのとき僕、高校生だったと思うんですけど、当時すごいもの見たなと。それがいまだに語り継がれるというのは……。未来に対して仕掛けようというか、ボールを投げるような意識も多少はあったんですか?

長沢: いや、それはなかったんですけど、コピーはアートだと思ってやってましたね。小説や作詞のように言葉で表現する分野はいろいろあるけど、それらと同じ水準で書けないとアートじゃないと。そこまで行きたいなと思ってました。

箭内: 僕もまさに同じことを思うんですけど、いわゆる芸術的な文章を目指すということとは全然違うんですよね。

長沢: 違いますね。その存在そのものがアートだということです。この小説がいいねということと、このコピーはいいねっていうのは、やってることは違っても同じ水準だと言いたいだけで。いずれにせよ、そこまで行けたらハッピーだし、言葉を道具に表現している世界で、コピーライターのコピーがそれよりも劣るなんて考えは必要ない。でも、それぐらいの努力や切磋琢磨が必要だってことなんです。

箭内: なるほど。ほかにコピーで大事なことはなんですか。

長沢: うん、コピーはね、多様性ですよ。何を書いてもいいよっていうのが、出発点なんです。それを失っちゃうと、決まったルールに縛られたものしか書けなくなっちゃう。

箭内: 定型みたいなものもありますよね。

長沢: そう、ある意味、コピーの定型に入っていっちゃう。

箭内: 伝統芸能みたいな? それもいい部分もあるんでしょうけど。

長沢: そうやらないと、会議を通らなかったりね。

箭内: 長沢さんはどうやって通してきたんですか。本には通らなかったエピソードも書いてありましたけど。

長沢: 私、幸いにもそういう会議に行ってないんです。サントリーはおおむね一人の担当に通せばいいわけだし、パルコの場合、話すのは向こうの専務と石岡(瑛子)さんだけ。そこで決まる。石岡さんってそういう人じゃないですか? 会議が嫌いだから。そういう境遇に恵まれたところはあります。

箭内: そしたらエネルギーはすべて書くことに使われていた?

長沢: いや、そんなこともなくて遊びもね。お酒が好きで毎日飲んでた。よく無事にすんだなってくらい。
そう言えば渡辺裕一くんってね、ペンギンのアニメを使った缶ビールの広告(サントリー)なんかで一緒に仕事したコピーライターは、初対面のとき散々飲んでから私の事務所に来たの。眞木(準)くんに紹介されて、『can・can』っていうPR誌のコピーを見せたいと思って来たんですけど、シラフだと恥ずかしかったみたいで。
以降、彼と最低でも週1回はね、朝まで飲んでた。あのペンギンを主役に映画をつくることになったとき、私、原案を書いたんです(『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』)。渡辺くんはさっさと逃げちゃったから(笑)。

箭内: へえー、映画の原作まで。あの…長沢さんの語り口のせいなのか、お話を聞いてるうち、だんだん僕も一緒に飲んでるような気持ちになってきました(笑)。

箭内: 作品集つくりませんかって、最初に鈴木光太郎さんから話がきたときどう思いましたか。

長沢: びっくりだね。もう80の峠越えてますから。ちょっと遅いかもなっていう気持ちがあるのと、自分の仕事についてまとめたものを発表したことがないので、なんだか面白そうという色気の両方ありました。

箭内: 作品集を見た人が、この人にコピー書いてほしいと思って長沢さんにお願いをしたら書いてもらえますか。

長沢: いないでしょ?(笑)間違った方向へ行くんじゃないか心配になる。

箭内: いや、これだけのものを世の中に手渡してきた方ですし、作品集の文章もキレキレでしたけど。

長沢: 長年やってきたので染み付いちゃってるんでしょう。蓄積は相当ありますから、どのへんを突いていこうかな? とか、そのへんの感覚は全然衰えてないと思うんですけど、イチからコピーを書く仕事となるとちょっと違ってね、相当深いところまで降りていってジャッジしないといけない。ちゃらんぽらんな仕事だったら数分でできちゃうかもしれないけど、それは問題あるんですよ。コピー年鑑なんかを見ていると、有名なコピーライターでも昔取った杵柄っていうのか、いままでのストックを流すようなコピーをやってるだけでね、新たに発掘はしていない。でも、そういうふうになっちゃうんだよ。お金が入ってくるんだから。

箭内: これ、言える人なかなかいないですね……。

長沢: まあ、TCCも25年くらい前に辞めちゃったしね。そもそも仕事ってあんまり好きじゃないんです。周りには現役を退いてから経営者になったり、ほかのことを始めた人もいますけど、私はなんにもナシでね。のんびりしてるのが好きだったものですから、60ぐらいから隠居生活っていうか、米づくりをやったり、バラ園のボランティアをやったり。それでインターネットに出てこないんでしょう。