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『金龍のしっぽ Project』実施に向けて
辿ったつては会社の先輩→友人→伴侶→友人→金龍製麺社長の奥さん→社長

― 一番のターニングポイントとなった『金龍のしっぽ Project』について教えてください。

「金龍のしっぽ」のことで裁判になっているというニュースを見たときに、すぐ後輩に前述のアイデアを送りました。切られたしっぽの断面は、『ドラゴンボール』のフリーザのしっぽみたいに――というところまでイメージが湧いたんです。
さらには、絆創膏を貼れば絆創膏の広告にもできるぞと。切れた場所はみんなが見るし、スマホのカメラも向く。そこを広告媒体にすればいいじゃないか!と思いつきました。大喜利のように、包丁でも傷薬でも、なんでも広告できるメディアにしてしまえばいい。実際に、包丁の広告は実施しました。

―社長の奥さんの誕生日パーティに潜入したんでしたっけ。まるで漫画のような!

正しくは、社長の奥さんの友だちの誕生日パーティですね。
なにしろ、本社ビルは工事中でしたし、連絡する窓口が一切なかったんです。企画書をお店に持って行って、ラーメンをつくっている店員さんに渡すしかなかった。
ただ、社長にお会いできれば絶対に説得できるとは思っていました。
「報道を見ました。ネガティブな世論も数多く出ています。それをガラッとポジティブに変えていきましょう」と。どうせ、しっぽは撤去するしかないのだし、やって損なことはありません。ところが、あちらからのお返事はいくら待っても来ないし、社長に直接お会いする手段もない。
社内でも「社長までのルートはないか」と聞きまわっていたところ、関西勤務歴の長い者が「社長の奥さんの友人の奥さんが知人。今度社長の奥さんの友人の誕生日パーティがありますよ」と教えてくれて。

―と、遠い……!その方はよくそんな先のほうまでつながりを把握していましたね!

ちょうどパーティ会場が路面店の雑貨屋さんで、テラスもあってみんなワイワイという雰囲気だったので入りやすかったです。もちろん紹介してもらったうえで入れていただいたのですが、社長が来ない可能性もあったので、会えたのは本当に幸運でした。メディアにまったく出ていない方なので、周りの方に風貌を聞きながら待ち続けて。

―すごすぎる。どの企画でもこの熱意をもって?

これは異常なくらいの熱意でした。やらない未来より、やった未来のほうが100%いいものになると確信していたので。
アクティベーションやプロモーションは、言ってみれば賑やかしです。なかには「それは絶対に必要なのか?」という企画もある気がするんです。だからこそ、「それがないよりある世の中のほうが絶対にいい」と思える企画をしたい。
そして金龍ラーメンの場合、いつしっぽが切られてしまうかわからないので、とにかく急がなければならなかったんです。

【金龍製麺様への自主プレゼン提案資料(一部抜粋)】

―プレゼンが叶って、社長の反応はどうでしたか。

資料は見てくれていたようで、「これはあなたでしたか」とおっしゃっていました。社長も、何かはしたいと思っていたと。それならば、ぜひやりましょう!と。

実施の際は、情報の出しどころを複数にしたほうがスケールすると思ったので、まずは1週間前に「切ります」と告知をしました。これだけで関西では全局で取り上げられ、予想以上の反応に驚きました。
実施当日、しっぽを切ったのは30年前にこの龍を製作した業者さんです。龍の目につけた涙は、細かいギミックをデザイナーと議論しながら決めました。つくり込み過ぎず、あくまでも金龍製麺さんが主体的にやっている手作り感に気遣いながら。情報の出し方についても、どこまで出すべきかなど細かく設計しました。

「しっぽを切った犯人は道頓堀のカニ料理屋のカニだった!」というストーリーを思いついたのは、龍を製作した業者の工場です。打ち合わせのときにまだ取り付ける前のカニが置いてあるのを見て、これは使えるのではないかと。ちょうど実施日の2週間後に納品予定だということで、カニ料理屋さんに交渉しに行きました。すぐに「おもしろい!」と了承してくれて、カニがしっぽを持つ流れに。

―フットワークがすばらしいなあ。

自分たちのクリエイティビティは
広告の枠を超えて世界を変える力がある

―今後やってみたいことはありますか?

我々がつくる広告やコンテンツは、消費されていくものです。もちろん、時代に合う言葉や広告があるはずで、消費されるのは当然ですが、ずっと残るものをつくりたいという思いがあります。「静岡市プラモデル化計画」や、ニューヨークの「Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)」など街に残るいいものがつくれたらクリエイター冥利に尽きますよね。「THE FIRST TAKE」など仕組みが残るものもすばらしい。

―金龍のしっぽも残りますね。

はい。社長に「涙はいつまでつけておけば?」と聞かれたときは、ずっとつけていたほうがいいとお話しました。これが期間限定だと、言ってしまえば広告キャンペーンで終わってしまいます。それより、街で起こった出来事になったほうがいいと思うんです。ずっと残って語り継がれるほうが、ファクトも強くなる。

―では、最後に若いクリエイターへのアドバイスをお願いします。

一番強いのは、広告しないでも売れる商品です。結論は、広告の枠を脱しようという話なんです。自分たちのクリエイティビティやアイデアは、広告界だけではなくもっと役立てられる場所があるはずだと思う。もっと助けられる人が、実はいっぱいいます。世の中には、「ベストじゃないな」という結末のものがいくらでもありますよね。
例えば、オーバーツーリズムなどの社会的問題への対策。そういうものに、自分たちのクリエイティビティがもっと活用されたら、もっとおもしろい世界がつくれるんじゃないかと。
広告だけでなく、いろんな場所に拡張されていけばいいと強く感じています。

―解決の仕方がチャーミングだったり、ユーモアがあるものはいいですよね。

そうですね。大阪という地域性もあって、賛否あるなかでも最後にみんなが笑ったならノーサイドになるのでは、というのもある。だからもっと広い視野でいろいろなものを見て、もしかしたら自分たちが関与できるかもしれないという見方で世の中のニュースや場所やトピックスを見て、実際に動いてみたらおもしろいことが起こるのではないでしょうか。

―宮原さんの、営業マインドと情熱に刺激を受けましたし、何よりも広告は未来を変えられるというお話に勇気をいただきました。ありがとうございました!

text:矢島 史  photo:村上 拓也

宮原 広志
株式会社 博報堂/クリエイティブディレクター
1983年広島県生まれ、早稲田大学理工学部卒。2008年、博報堂入社、自動車/飲料の営業職を経て、2014年にクリエイティブ職へ。アクティベーションを軸足に、CM、デジタル、PR施策など、幅広くなんでも企画し、いかに人を動かすかを追い求めてます。ピンチを逆手にとり、好転させるアイデアが得意。
ACC グランプリ、PRアワード ゴールド、Spikes Asia ブロンズ、やってみなはれ!佐治敬三賞、日本マーケティング大賞、宣伝会議賞ゴールド、販促会議賞グランプリ、等。