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Vol.2

Creative Project Base
代表取締役
倉成英俊

あの人のノート、いったい何が書かれているのだろう?世を騒がせるクリエイターの思考法をのぞき見したい。第二回は、様々な業界を横断したオルタナティブなチーム&プロジェクトづくりが話題の倉成英俊さんに、仕事を多数ともにする本誌編集長・安達と、編集・一森が話を聞きました。

チームで共有し、書き足していくノート

―個人のノート以外に、チームみんなで読めるノートづくりをされていますよね。

 Bチーム(※プロフィール参照)に関しては、メンバー各人が得たおもしろい情報をみんなでクラウドに上げています。「ポテンシャル採集」と題して、みんなで集めた情報が現在3061個。たとえば、教育担当は教育、AI担当はAIの情報、美容担当がコスメ情報を載せています。最近僕がアップしたのは「ホスピタルアートディレクター」。病院にデザイナーが常駐していて、近寄りがたい院長の白衣をペイントして近づきやすくしたり、入院する人が部屋に飾る絵を選べるようにしています。そんな風に自分のB 面からの情報を、それぞれ共有しています。

―そもそも、Bチームってどうやって出来上がったんですか?

 最初は、電通総研の中にキュレーションチームをつくってほしいと言われたんです。でもキュレーションサイトがもう世の中にあるのに、半歩遅れて部署名にするような電通はどうなんだ、と。だいたい、広告業界から出てくる「さとり世代」とか「おひとりさま消費」とか、ターゲットをくくることでそこの第一人者になって稼ごうというようなことは、世の中の人に対して失礼だと思います。人類70億人全員違うのに、勝手にくくったりするのは見ててイヤだったから自分ではしたくない。そういうことではなく、「この流れはいいな」と一個人で思えるようなものしか提唱しないという方針だったらやってもいいと言いました。
 会社からは、2年以内に新しい概念を提唱して当てるという成果を求められての発足でした。そうなると、人集めで半年、リサーチで1年、コンセプトづくりと提唱で半年。この普通のやり方だと、成功は五分五分だなと思い、このプロセスはなしだなと。一番時間のかかるリサーチをゼロにできないかと考えたときに、情報をすでに持っている人たちを集めればリサーチなしでもいいじゃんと気づいたんですよね。
 ネットもそんなに発達してなかった20年前、友だちとオスロに行ったときに、国際電話で木村年秀(現在Bチームに属する、別名DJ MOODMAN)さんのデスクに電話して「今ノルウェーなんですけど、どこのクラブ行ったらいいですか?」と聞いたことがあったんです。そしたら、一瞬で情報を教えてくれて。その時の経験が元になっています。Bチームのメンバーは、リサーチいらず、というか日々、人生でリサーチ済みなんです。

 私的活動をしているとか、趣味がすごいとか、大学で専門的な専攻をとっていた等の、 個人的な“B面”を持っている社員に集まってもらえばリサーチはいらないわけです。最初、8人くらいでソファに集まって、自分の頭の中にあることだけを話すということをしたら、その1時間半くらいですでに相当おもしろかった。これはイケると、徐々にジャンルを広げてメンバーを増やして、フォーブスでコンセプトを発表する連載(電通Bチームの NEW CONCEPT採集)も始まりました。
 同じ時代に同じ空気を吸って生きている人たちの活動だから、業界が違おうが水面下で価値観はつながっているし、方法論には共通点がある。ビジネスというより、一国民、一地球人として「それいいよね」という流れだけを提唱しています。
なにより、Bチームという組織づくりのアプローチが新しかった。働き方改革がそのあと起きて、たまたまですけど先手を打てていました。2年という制約があったから産まれた苦肉の策だったのだけれど。

―発明ですよね。

 その前身に、「新規事業連携コンソーシアム」がありました。2009年から、自分たちはクリエーティブ局の新規事業部的立場(ビジネスデザインラボという部署)だったんですが、クライアントさんたちの中にも当然新規事業部があるから、その人たちのところにいってお茶をしてネットワークし始めたんです。各社の“新規事業部同盟”ネットワークを作って、半年に1回イベントを開いて、プレゼン大会をする。初めは電通の会議室でやってたんですが、その後廃校の教室を借りたり、プラネタリウムでやったり。今も60社くらいがつながっています。この経験があったから、違う角度の人が束になると新しいことができるというのはわかっていた。それを応用したわけです。
 みんなが違う才能、情報、資産を持っていてそれを共有する――それらはある意味ノートですよね。それぞれの頭のなかが互いのノート。開けば一気に未知のことを教えてもらえます。

おもしろい物事の姿勢や考えかたを、応用したい

 人と共有する前の自分だけのネタは、7、8年前からEvernoteに溜めています。リサーチしたこと、ツイッターで見かけた名言などのコピペ、あとは思いついたことや、仕事別の議事録も残していますね。
 ここから抜き出してBチームの定例会でしゃべることもあります。最近だと、経済が停滞していることを表す「ゴルディロックス」という言葉について、その由来がおもしろかったから書き込みました。イギリスの「3びきのくま」という民話に出てくる女の子の名前で、くまの家に入って飲んだスープが熱くも冷たくもなかったことから、経済のそういう状態をゴルディロックスと呼ぶようになったという話。
 絵本や童話からビジネス界に来ている単語はけっこう多くて、5W1Hは「ゾウの鼻が長いわけ」という童話から来ています。知りたいことを何でも教えてくれる6人の召使の名前が、「なにさん、なぜさん、いつさん、どうやってさん、どこさん、誰さん」。これを読んだ人が「これはビジネスに使える」と言い出したのが始まりだとか。5W1Hって嫌いだったんですよね。「5W1Hで考えてみよう」って打ち合わせで言われたことがあって、ちょっと今からみんなでどうやって考えようかとワクワクしているときに、穴埋め問題の受験勉強みたいになるからやめてよ、と嫌だったのだけど、この話を知ってからけっこういいなと思うようになったんですよね。
 こういうことを、ポテンシャル採集のページにメモしています。

デザイン系で言うと、TACOMA FUJI RECORDSというグッズを出しているブランドがいいなあと思って書きました。架空の音楽レーベルで、グッズをつくって売っている。こういうの、いろいろ応用できるなと思って。また彩文館という出版社は、アイドルのファースト写真集を出すことに命をかけているんだと聞いて、そのマインドがおもしろいからメモしました。命をかけてアイドルを抜擢している、この姿勢は応用できると。

―7、8年分のメモが1枚に羅列されているのがいいですね。トピックをつなげて化学反応が起きそう。

 書くことで脳に刻まれるから、頭の中でつながるという可能性はありますね。

新聞の切り抜きもノート

 以前は新聞の切り抜きをノートに貼っていました。今は新聞をスマホで撮っています。それらが溜まったこともあり、noteで日経新聞の記事のリンクを張ってコメントするという連載をすることになりました。記事そのものを貼ると想像が膨らまないので、一言だけ切り抜いて貼る。すると世界がぶわっと広がるんですよね。なので連載の名前は「一言切り抜きfrom日経」。
 最近だと例えば、文化面でイランの映画監督が言っていた言葉で、「頭上にミサイルでなく本を降らせていたら。足元に地雷でなく小麦をまいていたら」とか。公開することによってより、記憶に刻まれるようになって。

―どうして切り抜きを始めたんですか?

 十数年前、APECの仕事をすることになって、日経読んでおかないと太刀打ちできないなと思ったのがきっかけです。そのうち「錦織選手のこの一言いいな」みたいに細かいセリフを切り抜くようになりました。フィギュアスケートの鈴木明子さんの振付師のセリフもいいんですよ。試合前に「アキコは今から鳥だ。」と魔法をかけた。自分がコピーライターだったから、こういう短い言葉を見つけられるし、何より、好きなんですかね。

どう生きていきたいかを見直すノート

アナログのノートには、マインドとして忘れたくないことを書き付けています。人から聞いたことやアドバイス、色んなものからの実際の切り抜きなど。家に15年分くらいとっておいてます。
 たとえば宮沢賢治の『どんぐりと山猫』のなかで、どんぐりの背比べの勝敗を「一番ばかで一番めちゃくちゃなのが一番えらいんだ」とつけるシーンがある。その通りだな、俺もそうしよう、と思ったり。
 志村けんさんの本に、コントをおもしろくするためにその前のネタをわざと殺すと書いてあったのものも。ずっとおもしろかったら緩急がつかないから。トークセッションでも連載でもキャンペーンでも、そうですよね。

 あとこれは信じられないかもしれない話ですけど、10年前、北斎展で飾ってあった屏風の前に立った時に、「世界を面白くしろ」と聞こえたんですよ。頭の中で。これは北斎さんから言われたなと。この言葉も書いて、勝手に自分の使命としました。

―おお……そのノートはいつ見返すんですか。

 イヤなことがあったとき。見返すと前向きになれる言葉が書かれているので、常にかばんに入れています。要は、自分をコントロールするためのノートですね。なにかいい言葉を聞いたときにもすぐに書く。

―倉成さんは乱れのないフラットな人だと思っていたのですが、そういうよりどころを持っていたんですね。

 楽しそうに仕事しているように周りからは見えるらしいけど、新しいことをするっていうのは命がけの戦いですよ、日々。企画ってそういうものでしょう?正しいことを正しい、正しくないことを正しくないと、仕事を通じて世の中に投げることじゃないですか。ノートを見れば前向きになるし、どうやって生きていきたいのかを忘れないでいられる。そして、これおかしいんじゃない?ってことに対して闘うと、さらに仲間が増えるということもある。だからなんとかやってこられている感じですかね。
 こうして振り返って気づきましたが、どうやら「チーム内で情報をストックするためのノート」「自分の情報のノート」「人生のためのノート」と3種類あるみたいですね。