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Vol.16

クリエイターは誰に必要とされるか?

―広告業界もメディア環境がインターネットの台頭で入れ替わっていったように、これからまた世の中の仕組みが変わるときが来たのかと感じます。

まさに、もう来ていますね。だからここに新しい広告の仕組みが必要なんじゃないですか? もう検索ワード連動広告は古いです。検索は人間の創造的プロセスの入口でしかなく、ほしいのは結果です。ただ、今まではアウトカムが企画書だとしたら、それを書くために検索していた。それが自動化されるとすると、次のポイントは企画書を書くことではなくなります。徹夜でやるようなことは全部AIにやらせようとなる。
僕にも出版社で「明日までに企画書100本考えてきて」なんて言われる時代がありましたよ。でもそれは、本当に100本ほしくて言っているわけではなくて、本当にやろうとするかどうかが試されていた。質を落としてでもたくさん出せるのかが問われていた時代なんです。そういうことはもうなくなって、今は新人がAIに企画書100本書けと言う時代です。その中からいいものを2、3本選ぶような。

―だとしたら、コピーライターもいらなくなる?

非常に難しい質問です。言葉を選ばずに言えば、クライアントの要求するレベルによるのでは…。どれだけ考えて説明しても、理解しない相手だったらコピーライターはいらなくなるのでは?
ただ、僕はクリエイターの気持ちもわかる側ですから、そんな簡単じゃないよとも思います。 “説得する”という仕事は人間にしかできませんよね。

AIに内在する 無意識と意識の問題

最近は、AIが2秒くらいの動画をサクサクつくれるようになっています。これを5つ繋げたらTikTok動画が十分にできます。
TikTokって恐ろしいですよね。次に流す動画をAIが選ぶじゃないですか。TikTokを見ていると、自分がシステム1(本能)で動いている感じがするんです。システム2(理性)は「これ見ててどうするの」と思ってるんだけど、また同じようなものを見たくなったり、これ後でまた見るかも、と思ってハートマークつけたりしちゃうんですよ。
キャビンアテンダントがドアを開ける映像ばかり1時間くらい見続けたことがあります。システム2が気づくまで相当時間がかかりました。TikTokはシステム1をコントロールするための強化学習をされている。でもまだいいんですよ、CAがドアを開ける映像は有限ですから。これがAIによって無限に生成されるようになったら…。そのうち僕たちは棒がただグルグル回る映像を見続けて「いいね」となる可能性だってある。

―著書『よくわかる人工知能』に出てくる『受動意識仮説』(*4)(人間は自分が意識する以前に動いている)は、衝撃的ですね。“好き”は前もって勝手にプログラミングされている、と。

AIを使っていると、そうだろうとしか思えなくなります。すでに起きていることに対してストーリー(意識)がついていく。原始的な理由で起きたことに、ChatGPT的なもので言語化すれば「俺はCAがドアを開ける瞬間が好き」ということになる。
落合陽一さんが、「キーボードで書いているとき、キーボードに書かされている」と言っていました。たとえばホワイトボードに書いているときと、ノートに書いているときではモードが違うじゃないですか。ホワイトボードに書いているときは、ホワイトボードが考えているとも言える。さっきも話しましたが、AIの書いた原稿を自分で直している時って、実はAIに書かされているとも言えるんですよ。

*4)前野隆司(慶應大学大学院 教授)『受動意識仮説』:人間は自分が意識する以前に動いている。“意識”は一連の情報をエピソードとして圧縮・記憶するための装置だとする仮説。(清水亮著『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングの秘密』2016 KADOKAWA参照)

広告の新しいかたちは?

最近知り合った若者ふたりが、プログラムをまったく書けないし、書きたくもないと思っているにもかかわらずIT企業をつくったんです。なぜつくったのかと聞いたら、「バンドで自分の曲を歌っていたのだけど、誰も聴いてくれないから」と。脈絡がなくてまったくわからなかったんですけど、「曲は聴いてもらえないと絶対に売れない」「街中で歌うのは違法性があるからやりたくない」「聴いてもらうチャンスがなければ永久にバンドで稼げない、こんな世の中はおかしい」というわけです。
そこで考えたのが、お金を払って曲を使ってもらうサービス。たとえばミュージシャンが自分の曲と10万円をアプリの中に置くと、インフルエンサーたちがTikTokなどでその曲を使って分配金をもらう。10回再生されたので100円儲かった、のように。これはすごい発想ですよ。広告の新しいかたちだと思います。

―なるほど、逆張りの発想ですね。これまでの広告が生き残る余地はあるでしょうか。

「広告」という言葉がなくなるでしょうね。
結局、生身が大事になると思いますよ。揺り戻しが必ず起きる。コロナで閉じ込められていたから、今みんなが興味を持っているのは生身の体験です。それって実は、広告会社の得意分野でしょう。イベント、体験、古いところではアンテナショップなどに回帰していくのでは。今ではLINE上でやりとりしている相手が本物の人間だと信じられなくなりました。“直接会う”ことに対して、価値がものすごく出るようになる。

日本独自の文化的背景に勝機が

―現在の日本の状況で、どんな勝ち手を見いだせるでしょうか。

日本には、好き好んで自分の本や漫画を出したい人がいっぱいいるという奇特な文化背景があります。僕は世界中のコミックマーケットに行きましたが、自分で描いた漫画を売っているのは日本だけですよ。それも3日間で30万人がやってくる規模で、売る人は毎日入れ替わる。ほかにこんな国はありません。自分なりの「これをつくりました」という態度は、カルチャーとして他国が持っていないものだと思います。
漫画家の友人が、「今のAIは漫画下手だけど、数年で自分よりうまくなるだろう」「そうなったら自分は原作者になりたい」と言っていて、「それでもまだ漫画はつくりたいんだ」と感心したんですよ。そうすると、超人気作家が週刊で10本連載するということが可能になる。ディレクター的な人が増えるでしょうね。
もちろん職人の価値も残ると思いますが、漆塗り職人がいなくなって工場長になっている、みたいなことが起きるでしょうね。

―日本のものづくりといえば手作業の細やかさが世界に誇れるとされてきました。でもそれがさほどマネタイズできていませんね。

手作業の細やかさは誇れるものですよ。マネタイズには、データセットの精度がものを言うようになります。データセットこそが、AIの差異を生む唯一のものです。「このデータとそのデータはどう違うの?」に答えを出すのがデータセット。それをどのくらい丁寧につくれるかが肝となります。
この、丁寧さが日本人特有。文化的背景や生真面目さが必要で、漢字を含めた日本語も理解している必要があり、外国の人がさくっと代替できません。だから僕はデータセットの精度の点で、日本は圧倒的に強くなる可能性があると思う。

日本人はね、Twitterもブログも世界で2番目にたくさん書いているんです。人口比でいけば中国やインドが上位に来そうなものだけれど、そうはなっていない。なぜ日本人はみんな本や漫画を書こうとするのか?
その根底には、「一億総中流社会」という幻想があります。中流幻想は根強い。世帯年収500万の家と2,000万の家があってもその感覚はあまり違わない。統計学的に言えば、全員が中流にいるわけがないのだけれど。
だからね、手塚治虫が紙とペンだけで億万長者になったと聞くと、自分にもできると思うんです。手塚治虫は医者で、実際のところエリートですよ。でも「自分もできる」と希望が持てる。それが日本の底力にあるのではないかと思うんです。

―敗戦で階級制とか貴族とか潰れましたもんね。

そこがよかったんでしょうね。極端に上にいる人はわずかしか残っていなくて、あとほとんどの人は「やればできる」と思っている、その文化的価値は大きい。
『ハリー・ポッター』のJKローリングスだって、17社回ってやっと日の目を見ることができた。日本ならそこまでがんばらなくても自主出版を簡単にできちゃう。日本人は不思議ですよ、頼まれなくても書く。

もし、いま広告会社にいるとしたら

-日本の広告をどう思いますか? これまでで好きな広告は何でしょうか?

昔はいい広告がたくさんありましたね。YouTubeで “昔のCMまとめ”とか見ることがあります。録画した番組で撮れていたコカ・コーラ『Coke Is It』のCMは、番組をリピートするたびに見ていたので思い入れがあります。80年代を代表するような能天気さで。
あとはファミコンソフト『たけしの挑戦状』(*5)の広告。あのゲームをつくった人と先日会ったので思い出しました。あれはゲームとしてはひどいんだけど、プログラムがものすごかったんです。今でいうところのメタバースの元ネタのようなゲームです。ゲーム内でカラオケ店に行って、コントローラーのマイクに向かって歌わなくてはいけないシーンがあるんです。子どもが知らない歌ですよ。それを歌わせるために、たけしがCMで歌うわけです。メタバースですね。結局、歌うとヤクザに「へたくそ」と殴られるんですけど。

-メタバース(ゲーム)の一部をCMが担っている。斬新ですね(笑)。
最後に、若い広告クリエイターにメッセージをお願いします。

多分仕事が変わっていくのだから、今から考え方を変えた方がいいですよ。そして先輩の言うことは聞かないこと。何の役にも立たなくなるから。
僕もね、それまでゲームのプログラマーをやっていたのをやめて携帯電話をやりはじめた99年に、先輩たちから「もったいない」「この分野ならトップなのに」と留められた経験があります。まだ携帯電話がiモードで100万台くらいしか普及していない頃でした。でも僕は、この何もできない携帯電話にこそ未来があると思ったんです。複数の次世代ゲーム機の開発チームに誘われたけれど、それをお断りして。

それと、生成AIを見て広告会社を辞めた若い人を知っています。でもね、辞める必要はないんじゃないかなと思うんですよ。彼は会社をつくると言っていましたけど。会社をうまく使えよ、と言っておきたいですね。
広告業界は、ほかの業界が持っていない、持ちたくても持ちえないコネクションをたくさん持っているじゃないですか。辞めてから気づいても遅い。僕がもし今30代で広告会社にいたら、喜んで目の前の仕事をやりますよ。その仕事にAIを絡めた方が、ゼロから立ち上げるよりはるかにいい。とにかくダメと言われても、すべての提案にAIを混ぜますね。力を磨くすごいチャンスだと思いますよ、まちがいなく。
大企業は最終的に誰が運営しても大丈夫なようにつくっているわけで、そこが強みなんです。そこを学ばずに出ていくのはもったいない。

*5)『たけしの挑戦状』:1986年タイトーが発売したビートたけし監修のファミコン用ゲームソフト。攻略本なしではクリア困難な内容から、レトロゲームにおける「クソゲーの代名詞」と評される。

インタビュアー:丸山 顕
執筆協力:矢島 史
photo:村上 拓也

清水 亮 (しみず りょう)
経営者、研究者、プログラマー
1976年長岡生まれ。米大手IT企業で上級エンジニア経験を経て1998年に黎明期の株式会社ドワンゴに参画。以後、モバイルゲーム開発者として複数のヒット作を手がける。2017年に国内大手メーカー系列の研究所とジョイントベンチャーを設立、代表取締役社長に就任。
「ヒトとAIの共生環境」の実現に情熱を捧げる。主な著書に『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)、『教養としてのプログラミング講座』(中央公論社)など。