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Vol.16

経営者、研究者、プログラマー
清水 亮

昨年来相次ぐ画像生成AIの公開、ChatGPTの流行が連日話題に上っている。いよいよ『AI革命』が現実性を帯びてきた。人類にとって「農業革命以来」といわれる変革の現在地と、その先の未来予想図について、天才プログラマーとして最先端を歩んできた清水亮さんにお話を伺ってみた。AIの進化と、メディアや広告の未来はどうなる?

生成AIで 広告クリエイティブはどう変わるか

激変するコミュニケーションのしくみ

―画像生成AIやChatGPTがもたらした変化について教えてください。世の中が大きく変わっていく中で、私たちは今どこにいるのでしょう?

毎日のように嘘の論文やフェイクニュースが出てきて、大混乱ですよ。そのなかには本物の大事なニュースが混じりもしていて、毎日新しいことが起きている状態。現在地が定まりません。ChatGPTは、実は新しいことでもないんですよ。一般の人には突然現れたように見えるだけで、昔から淡々と進化してきました。だから業界では、みんなが驚いていることに「昔からあるのに」と驚いているくらいです。
大きな変化というのは、普通の人がダウンロードできるようになったということ。ビッグテックのなかに閉じ込められていた技術が民主化されて、いろいろな人が思い思いの改造を加えるようになったんです。今までAIはつくった成果を誰でも使える状態にされてこなかった。そろそろ技術を出し惜しみしちゃいけないという流れになって、ChatGPTは論文発表と同時に公開されたわけです。戦い方が凄いスピードで変化していることは間違いない。

今までも見る人によって広告を変えるということはあったけど、今後見る人によって同じ商品でもクリエイティブを変えるということができるようになるでしょう。同じ映画なのに見る人によってキービジュアルが違うNetflixのように。僕の『シン・ゴジラ』には石原さとみが表示されますが、知り合いの映画監督のところでは怪獣のビジュアルでした(笑)。この人は人間じゃなくて怪獣が好きだぞ、と。パーソナライズされたクリエイティブが始まっています。これがGoogleアドセンスやFacebook広告などに転用されていったら、「広告ってなんだ?」となりますね。

―昔の映画『マイノリティ・リポート』にあったような広告(通りすがる個人の名を呼んでパーソナライズされた広告をしてくる)の世界がもうすぐ現実に?

あのターゲティング広告はすごかったですね。もし僕がクライアントの立場ならやりたいと思いますよ。あとはインフラ。そして広告系のターゲティングは問題視されているので、逆に今はやりづらくなっています。Netflixの場合はいいけど、これが物を売るためのプロモーションとなると、嫌がる人もいるでしょうね。

物の売られ方も変わってきている気がします。「広くあまねく」が第一義ではなくなってきている。たとえば僕が本を書くときは、なるべく多く売れてほしいと書いています。それは本の値段が固定されているから。でも、これだと結局有名人の本が一番売れるんですよね。どんなにいい小説だって、無名の新人の本だったら誰も手に取らないでしょう。僕だってなんのしがらみもない匿名で書いた方がおもしろいものを書けますが、それだと出版社は出そうとしてくれません。
一方で、ネット上のnoteの記事は違うんです。以前は5年分ほど無料で読める記事を出していたんですけど、ある時片っ端から料金をつけたんです。当然、読む人は減りましたが、売れるんですよ。読む人が減った方が儲かる。
以前ミッドジャーニー(*1)のうまい使い方について記事を300円で出したら、あまりに売れるのでどんどん高くしていって、最終的に5,000円まで上げました。それでも売れるので、1カ月で書籍の場合の初版印税を越えたんですよ。これはもう本を書く理由がないぞと。
とくにAIの世界は進歩が激しいし、僕としても新しい発見があるからどんどん追求して有料の記事にする。読みたい人だけがお金を払う。

*1)ミッドジャーニー:テキストの説明文から画像を生成するMidjourney,Incの画像生成AI。

AIと人間の境界線が溶けあっていく感覚

―小説だってAIが書けるようになりますね。

はい、長文を書かせるには技術が必要ですが。先月noteに「GPT4を使って8万字の書籍を半日で書き上げる方法」という記事をリリースしたのですが、書きたいテーマと著者のプロフィールを入れれば、4万字くらいの原稿が勝手に出てくる。あと4万字は自分で足して。少し慣れれば誰でもできますし、同じテーマでも毎回違う原稿が出てきます。
その原稿をベースに自分の文章をかぶせていくのですが、だんだんどっちがどっちの文章かわからなくなってきます。AIと溶け合うような感覚です。AIの文章は「そうだよな」ということが書いてあるし、足りない場所はまたChatGPTで出せる。ずっとこれをやっていれば全部できあがってしまいます。
論文も、まったくの嘘でもそれらしくできてしまうので非常にまずい。今後AIで生成された論文ばかりが出てくる可能性もあります。嘘か本当かを見分けなければいけない問題は、AI業界が一番切実です。

―アメリカのアートコンペティションでも、優勝したのが画像生成AIだったということがありましたね。(*2)

もうついていけませんよ。プロでも見分けるのは難しい。
最近絶望を感じているのが、AmazonでAI生成美少女写真集が大量に売られていること。幸いまだ人気にはなっていませんが、これって人間性の否定ですよ。グラビアアイドルは自分の生活を削って生きている。人を惹き付けるのは、その人の生きざまだと思っていたんですが、それがAI生成物でいいとなれば…。そこと切り離して視覚的情報だけで事足りるという世界観は、ちょっと…。もうよくわからなくなりますね。
最近は曲をつくるAIもある。初音ミクには人間のプロデューサーがいますが、すべてをAIがやったときに本当に人の心は動かせるのだろうか、とか。

*2)ジェイソン・アレン氏が画像生成AIで生成した「Théåtre D'opéra Spatial」がコロラド州のColorado State Fair(fine art competition)で優勝し話題となった。

AIに クリエイティブは生成できるか

コルクの佐渡島庸平さんと「漫画AI」というプロジェクトを立ち上げました。AIによって漫画というものを再構築しようとしています。今のところ、画像生成AIがつくった漫画はドヘタです。なぜなら、ネット上の海賊版の同人誌を見て、これが正しいと判断しているから。
僕たちは、佐渡島さんの抱えている漫画家さんの作品を中心にAIに学習させて、漫画だけが持っているリズムやセリフ回し、表現手法などと学ばせようと考えています。それによって、新しい漫画の在り方をつくれないかというプロジェクト。佐渡島さんの持っている、物語をつくるノウハウをGPTに反映させたらどうなるか。

―質のいいものだけをラーニングさせるということですね。

日本ではAIが学習することに関しては著作権法上の特例が適用されていて、基本的に著作者の許可なくなんでも学習させていいことになっています。ただ、その結果ボタンを押すだけで漫画がジャンジャン出てくるとなったときに、それがおもしろいかというと、おもしろくはならないと思うんですよ。最後の1ミリ、人間性の上澄みが見世物になるのではないかと。

個人的に思うのですが、おもしろい話はひどい目に遭った人しかつくれません。梶原一騎(*3)だって、とんでもない目に遭っているし、『グラップラー刃牙』の板垣恵介も元自衛官。元自衛官の漫画家は事実多いんですよね。
世の中には想像を絶することがたくさんあって、どれだけ酷いフィクションでも、実際に起きたことよりは敵わない。リアリティは人間の想像力だけでは生まれない、実体験がないと。
日本で漫画が発展したのも、戦後を経験したからだと思っています。発達した時期も戦後でしょ。

*3)梶原一騎:漫画『巨人の星』『あしたのジョー』などの原作者

どうなる、GAFAMの寡占的支配

―生成AIがどんどん出てくると、GAFAMが寡占してきたビジネス界は崩れるのでしょうか。たとえば人々が検索をしなくなるとか、ホームページに行くという習慣がなくなるとか。

去年の9月くらいから、世の中の流れが検索から生成に変わり始めました。AIが本当に必要になるときに何が起きるかというと、調べ物をしなくてもよくなるんですよ。
検索が流行ったのは94年くらいから。まだ家庭にインターネットがなくて、大学の計算機を使ってwww.の何がどこにあるのかリンクを調べたりしていた。
その後Yahoo!やアルタビスタなどのロボット型検索エンジンが出てくるんですけど、5回くらいクリックしないと目的のページに行かないんです。それでスタンフォードの学生が、引用数が多いページほど上の方に来るようにGoogleの前身である『バックラブ』をつくってアルタビスタに持っていきました。
でもまさに、広告が原因で拒否されるんですよ。当時のインターネットサービスはマネタイズの手段が広告しかなかったので、何回もクリックさせてPV数と滞在時間を上げることに価値があったからです。
諸々あって、『バックラブ』はGoogleになり、Yahoo!に売り込んで受け入れられた。ところが検索連動広告(オーバーチュア)が生まれたら、Yahoo!がもうGoogleいらないと追い出してしまったんです。切られたGoogleが仕方ないから自分たちも検索連動型広告をやろうと言って、気づいたらYahoo!を抜いていた。これらは、広告の設計が変わったから起きたことです。メディア史的にとても重要なポイントで、アルタビスタはKPIをPVと滞在時間に頼っていた古いビジネスモデルから一歩も出られなかった。広告の目的は何だと考えれば、クリックしてもらうことなのに、そこに気づかなかったんですね。

―そのGoogleがAIで今回遅れを取ったのはなぜでしょうか?

生成系AIに関してはGoogleの方が技術的に先行していました。とはいえ、グーグルフォトで黒人をゴリラとタグ付けしてしまった問題で、叩かれがちになってしまいました。これは巨大さゆえの弱点なんですよね。巨大な組織は叩かれる。
Googleは、論文は出しても一般人が使えるように公開していなかったんです。そうしたら「できるのに公開しないってなんだよ」と思った人たちが世界中にいて、「じゃあ自分たちでやってやろう」となった。単独の会社よりも無数の小さな個人の集まりが強いというのは、ソフトウェア業界で何度も繰り返されています。
Googleが及び腰になったことと、OpenAIが権利を独占しようとしたことへの反動として、2021年に市民運動が起きました。最初はマニアックな集いだったけれど、世界中から半自動的に50億枚のデータを集めて学習させたんです。世の中には「俺が出すよ、何億でいいんでしょ」っていう人がいるんですよ。それでステイブル・ディフュージョン(画像生成AIの一つ)がイギリスから出てきた。
ChatGPTが出てきたときに、またしてもOpenAIが独占しようと細かい使用ルールを設けた。たとえば「このChatGPTを使って出た結果をもとに、これに対抗するモデルをつくっちゃいけない」とか、「学術使用に限る」と言い出して。いま世界中から「そんなの関係ねえよ」「俺たちが出すよ」という人たちがボコボコ現われています。先週の金曜日(2023年3月31日)なんて、1日で3つの大規模言語モデルが発表されたんですよ。泥試合ですよね。もうついていけないでしょ。

―ビッグテックの戦争だったものが泥試合となって、小さいプレイヤーが参入し始めているんですね?

生成AIで広告の仕組みは根本的に変わりますよ。だって生成物に広告が入っていたら嫌じゃないですか。マイクロソフトはBingのチャットに広告入れると宣言したからびっくり。生成されたものにおすすめ情報が入っていたら嫌ですよ。AIに描かせた漫画の中にプロダクトプレイスメント入っていたら嫌だ(笑)。コミュニケーションは根本的に変わるはずです。

―今後GAFAMの寡占的支配は外れるんでしょうか。これまでAIやディープランニングに大きな投資をしてきていますが。

外れてほしいとみんな思っていますよ。元GAFAMにいた人もたくさんリストラされて、敵対側に回っているだろうし。

みんなこのことをすぐに忘れちゃうんですけど、2000年代前半に一番研究開発費を投じていた会社はノキアです。けれど2006年にお金をかけていなかったアップルがiPhoneつくったんです。勝つのは、いつもお金のない人です。
お金のない人がやる工夫に、お金のある人が工夫せず闘っていったら絶対に勝てません。お金のある人はお金の使い道を探してしまうけど、一番間違ったやり方だと思います。マーク・ザッカーバーグもスティーブ・ジョブズも、みんなお金のないところからスタートしているじゃないですか。