Vol.12
藤原麻里菜
YouTubeチャンネル『無駄づくり』が注目を集めている。独特の間と奇想天外な発想で、見る人に笑顔と脱力感をもたらすお笑い系コンテンツとして、海外のファンからも連日「高評価」が寄せられる。世間にむかって「無駄いいじゃん」「つくればなんでもいいんですよ」と7年間無駄な発明を続ける発明家・藤原麻里菜さんに話を聞いてみた。「YouTube NextUp 2016」入賞、総務省「異能vation」採択など、彼女の唯一無二の活動は多方面から称賛されている。今年クリエイター必見の著書『考える術』を出版し、ますます目が離せない。
『無駄づくり』とは
―『無駄づくり』*では、発明品紹介動画を7年間続けていらっしゃいます。「こうなったらおもしろいな」というシンプルな発想で、日常のストレスを「無駄」によって解消されていますね。最近の発明では「風に舞うビニール袋」が失礼ながら珍しく完成度が高くて驚きました。あれが市販されていたら買ってしまいそうです。
「風に舞うビニール袋」は、天気をつくる機械というのを見たのがきっかけです。外のことを卓上で起こせるって、ガジェットとしてオモシロイなと。私は風に舞うビニール袋を見るとテンションが上がるので、それを再現しようとしました。
―他にも身近な欲望をかなえるガジェットをたくさんつくっていますね?「目覚ましを止めるマシーン」「彼氏にキスで起こされるマシーン」あたりは大笑いしました。欲望にストレートで。ところがいざ使ってみると散々ってところが、新種のお笑いのオチみたいです。
『無駄づくり』の初期のころの作品は、電子工作を始めたばかりの頃で、単純な動きでつくれるものはないかと、技術から安直に考えてました。
―それが今では3Dプリンタまで使って、技術も格段に上がっています。電気工学や制御系の知識はどうやって学んでいるんですか?
もちろん技術を先に知っているケースもあります。でも逆に、「アレやりたいな」で調べて技術を学ぶことが多いです。それで膨らんでいく。だいたいが独学で、本を見たりネットで調べたり。人に教えられると忘れてしまうので、なるべく人に聞かずに調べるようにしています。それでもわからないと、最後の手段で詳しい人に聞きますけど。
―「帰って4秒で就寝」**もそうですが、笑える動画が多くて、お笑いコンテンツとしてすごく上質で新しいと感じました。ところで最近吉本興行をお辞めになっていますね?なぜでしょうか?
もともと、お笑い芸人を目指してNSC(吉本総合芸能学院)に入りました。でも舞台の上では、自分のやりたいことを思うようにできなくて。メジャーになりはじめていたYouTubeにチャンネル開設をしてみました。高校生の頃から変なブログを書いていたりしたので、インターネットの文脈が自分の性に合っていたんです。
最初はその「帰って4秒で就寝」レベルの工作だったんですけど、やっていて楽しかった。しかも周りの人が「オモシロイ」と言ってくれたんです。どうやって検索したのか謎ですが、見てくれる人が徐々に増えて、それがずっと続いている感じです。
『無駄づくり』はもともとひとりでずっとやっていた部分があって、よしもと所属というのを一旦辞めればさらにやりやすくなるかな、と考えました。
―これまでの劇場やテレビで見るお笑いとは違って、他では見たことのないお笑い系コンテンツだと感じました。『無駄づくり』の狙いは何ですか?
私のつくるコンテンツの目的は、“見た人に笑ってもらう”です。
いま自分のやっているような、オモシロイのかオモシロくないのか、よくわからないような雰囲気のものが、私は一番好きなんです。でもそれは舞台やテレビには向いていません。YouTubeというプラットフォームが自分に合っていた。
好きなのが、デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』で、主人公がエレベーターのボタンを押しても全然閉まらないシーン。その時の間(雰囲気)が好きなんです。そういうことをやりたいと思ったんです。テレビでは難しいし、映画を撮りたいでもない。その雰囲気をどう表現するかと考えた結果、『無駄づくり』の世界で変な動画を撮っています。
―なるほど、映画体験がベースにあるんですね。『空中カメラ』の音楽がその世界観にすごく合っていますね。絶妙な編集も効いてます。
* #無駄づくり(https://www.youtube.com/channel/UCHFvKf-ATrhs3jbjj793N6w)
** 段ボールを使った工作のような初期の発明品
「無駄」との出会い
―そもそも、どうして『無駄づくり』という言葉や概念に行きついたんですか?
高校生の時は勉強ができなくて、音楽・映画・ゲームが好きだったんです。でもそれらって、親から「ゲームばっかりやらないで」「映画見てないで勉強しなさい」と後回しにされていくものじゃないですか。でも私にとっては、それが生活のメインであってほしいほど好きなもの。「無駄」って思われていても、その捉え方はみんな違うし、そここそ愛すべきものではないか、とずっと思っていたんです。
最初に「無駄」という言葉を意識したのは、中学生の時ファンだったSAKEROCKのホームページがきっかけです。ある日なぜか、「スケジュール」「ブログ」のタブの並びに「ムダ」と入っていて。クリックしても何も出ないのでなんだろうと思っていたら、その後に「MUDA」というアルバムが出たんです。言葉としていいな、と初めて認識しました。SAKEROCKには、物事に白黒つけない中間を楽しむような世界観を見ていたので、「無駄でもいいじゃん」と言ってもらっているようでした。
無駄というワードがずっと自分のなかにあったので、チャンネルをつくるにあたってアイデアとして最初に出てきたのが「無駄づくり」です。
もともと工作がすごく好きで、でもその割に技術がまったくなくて。でも、『無駄づくり』と言ってしまえば失敗してもいいじゃないですか。お笑いとしてもオモシロイ。うまくいかなくても続けられて、人に見せられる。このフレームの中だから続けていられるのだと思います。