企画バス、12のアイデア
「降車ボタン芸」爆誕
当初のフリップ芸で40案のうち10案が採用されましたが、旬やニーズに沿うなかで実現したのはこのなかの2案。第1弾の「幸運のプラネタリウムバス」は天井がプラネタリウムになるもので、「どこで乗れますか」という問い合わせもあり乗客数は通常のバスと比べて40%増。
もうひとつは瀬戸内国際芸術祭に合わせた「アートな路線バス」で、車内に若手アーティストの絵画を飾り、実際に購入もできるという企画。アートは総額で67万円の売り上げとなりました。


ほか新たな企画として、3月の卒業シーズンには通学でバスを使ってくださる学生さんに向けて「贈る言葉ッス」を走らせました。これまでにない規模で学校の協力を募り、沿線のバスにはすべて贈る言葉の書かれたポスターを掲出。この企画は、今年は広島県の福山市のバスでも行われました。
また企業とのコラボで、サッカーチームJ2のファジアーノ岡山を応援する「地域課題解決しバス!」というものも。スタジアムにお客様を取り戻したい、同時に試合の時の周辺渋滞を解決したいという課題に向き合う企画で、車内には選手のサインが飾られ、降車ボタンを押すと「ゴール!」と流れます。
このあたりから、降車ボタンで何かするとウケることを学習して、以降「降車ボタン芸」が花開いていきます。「YO!YO!」とラップが流れる企画や、「商売繁盛バス乗って来い!」とお囃子が流れる企画もありました。バス業界でこういう雰囲気はなかなかないと思います。公共交通なのでさまざまな方が乗ることを考えれば、できることはなにかと熟慮する必要があり、制限は多くありますが降車ボタンなら、と。
12回を通してさまざまな企画が話題を呼び、コロナ前と比べて70%に減っていた乗客数が、プロジェクト後は84%にまで回復しています。


とにかく大変だったスケジュール
ギリギリで走らせた1年間
この1年を振り返って思うのは、「よくできたな」。その月の記者発表をしながら、翌月と翌々月のことも走らせて。企画会議では後半になるほどタガが外れて、「これじゃ宇宙一じゃない」「突き抜けなきゃ」とアイデアが出るのはいいけど実装が無理でしょう、というようなことばかりでした。
記者発表では実際のバスも披露するのですが、前日の夜遅くに資料ができて、当日の朝に実装が完了するというギリギリ感。毎回、「奇跡的にできた」と思います。単発ではなく継続できたことで、評価につながったと感じています。
公共交通の分野では、ことを起こすのになかなか承認が進まないということもままあります。ただ今回はとにかく時間がないので、「それなら今日決定しないと」と社長と直接話せたことが大きかった。社長のスケジュールを1年先まで月2~3ミーティング分押さえていました。その定例会から逆算して、すべてを動かしていました。普通のルートでは難しかったのではないでしょうか。
クリエイティブとしては、県外出張の折にいろいろなバスに乗るなど日常の中にバスを取り入れていました。都内と郊外で乗ることの違い、時間帯による利用者の行動、どんなことがあればうれしいかと、考えながら。もともと、両備には「乗り物を楽しく」という企業風土があったんです。タクシーが黄色いことに合わせて「カレー」「きりん」「黄ニラ」などデザインで遊んだり、フェリーのデッキにブランコや足湯があったり、デザイン顧問に水戸岡鋭治さんをお迎えしていたり。
これらのこともあって「楽しく」は実現したのかもしれません。今回のプロジェクトで生まれた企画バスには、「もっと乗りたかった」という声もあります。毎月変えていたけれど、そのまま走らせてもいいのではないかと。岡山に来ると「おもしろいバスがたくさん走っているな」となればいいなと考えています。




中川 秀昭
株式会社 元屋廣告社/プロデューサー
地域に密着した広報業務、地域ブランド開発、地元岡山における第二広報室、広報案件の相談パートナーを目指すクリエーションプロデューサー。

平本清志
両備ホールディングス株式会社
バスユニット統括カンパニー乗合バス統括部
両備グループバスユニット各社の経営企画、事業改善を担うバスユニット統括カンパニーにて、乗合バス事業を担当しています。