ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSについてのお問い合わせ
【CM情報センター】CMの二次利用についてのお問い合わせ

現在、電話・FAXでの受付を停止しております。
詳細は、「CM情報センター」ホームページをご確認ください。

刊行物

TOP > 刊行物 > ACC会報「ACCtion!」 > ロコ情報スペシャル!

ロコ情報スペシャル!
(岡山篇)

“堅い”公共交通の広告常識を突破!
「なんだ!?」なクリエイティブと施策で集客アップを実現

岡山県内全域(一部広島も)に5つのバス会社を持ち、県内のインフラを支える両備グループ。乗客が毎年2~3%の減少をみせるなかでのコロナ禍。一気に30%減となり、「今までと同じプロモーションではだめだ」と思い切った施策が地域を越えて評判を呼んだ。広告会社からアイデアが持ち込まれたのが2021年11月、始動が2022年1月12日という驚きのスピード感で、「赤字続きの公共交通事業の再起を懸けた挑戦」と崖っぷち感をあらわにして始めたこの企画。SNSでほかの地方から「うちでも走らせてほしい」と要望をもらうほど、バスのイメージを変える施策となった。

アイデア披露から始動まで2カ月!
崖っぷちで始めた仰天企画

 岡山市は交通分担率がマイカー56%と非常に高く、路線バスを使う人はわずか2%です。そこへコロナ禍となり、運営の厳しい路線の一部は廃止にせざるをえない事態に。ほかの路線を残すために何ができるか。100人中2人しか乗らない乗客を、ひとりでもどう増やしていくか。
 そのためには、これまでのプロモーションとはまったく違うアプローチをする必要がありました。
 今回のプロジェクトは、中川(元屋廣告社)が持ち込んだアイデアです。それまでともに仕事をしていたわけではなかったけれど、松田(両備ホールディングス 代表取締役社長)とランチをするなど顔なじみではありました。「普通のアイデアではダメだ、失うものはない!」と勢いで、フリップ芸人のように40枚のネタを披露。
 そのうち10案ほどが、「おもしろいからやってみよう」と採用されることになったのです。これだけ数があれば、ひとつのプロジェクトとして走らせたい。ネタ披露から始動まで2カ月あったかなかったかというスピードで、最初の企画に向けて動きだしました。同時に博士と助手のキャラクターを立てて、テレビCMも作成。これが「ACCフィルム部門地域賞」や「ぐろ~かるCM大賞」を受賞したのは、本当に「まさか」という驚きでした。

幹部仰天!
想定外のくだけたプロモーション

 従来の集客に向けたアプローチは、「バスにのってCO2削減」「渋滞緩和しよう」といった社会課題にまっすぐ向けたものでした。必要なことではありますが、乗客からすると自分ごと化しにくく、届きにくい側面も。
 それならば、「バスに乗るとおもしろい」と提案しようというのがアイデアの発端です。移動の間に幸せを感じる時間がある、または出会いがある。そんな機会を創出するという切り口にしました。
 タイトルにもこだわりました。自虐的かつ駄洒落ではありますが、瀬戸内エリアとかけて「瀬戸ぎわ公共交通、今正念場ッス!」。両備グループは瀬戸内を盛り上げたいのに、バス事業が瀬戸際です。正念場でピンチなバスです、と。状況をおもしろく伝えようという意図ですが、正直プレゼンのとき恥ずかしかったことは否めません。

テレビCM「瀬戸ぎわ公共交通!正念場ッス!」篇

 両備グループはバスだけでなく、タクシー、フェリー、路面電車、街づくりと地元のライフライン企業のため、従来の広告は「安心、安全、まじめ」と堅いイメージが主でした。突然このようなくだけたプロモーションを始められたのは、プロジェクトリーダーが社長だったから。他の幹部が何も知らない状態でCM放映をしたので、それを見て驚いた方からあとでお叱りを受けました。「両備をつぶす気か!」と(笑)。
 CMは15秒しかないので、情報を詰め込むよりもシンプルでインパクトのある演出を意識したんです。ただ「ピンチだから乗って」というだけでは弱いので、マッドサイエンティストとアンドロイドの助手を主役にし、彼らのおもしろい研究がバスに実装されるというストーリーに。
 これが県民の方から好評をいただき、「おもしろい」「両備が変わった」とポジティブな意見が幹部の耳にも届いたことで、最終的には社内での評価も上がりました。このCMでイメージを変えることができ、内輪だけでなく地域外から賞で評価されたのは本当にうれしいことでした。

1話ずつHPで公開しているデジタル絵本の「バス太郎。」
バスから生まれた、バス太郎。将来の乗客となりうる子どもたちに、バスの魅力をおもしろくわかりやすく伝える狙い。

“異質”な試みが
グループ全体のブレークスルーに!

 両備にはグループ内にクリエイティブサポート部があり、そこでデザイン監修したものを世間に発信してきました。その際、グループロゴは必ず使われます。今回はまったく使われておらず、むしろそんなことに拘るな、との社長のひと声で始まりました。本当に異質。異質なことをやってみたら、注目や評価をいただけた。バス会社の「まじめで堅くて古い」イメージは、これくらいしないと打破できないのだろうと実感しました。
 公共性を損なえないなかで、どこまでできるかを探りに探った結果が出た。なかには30分お叱りの言葉をくださるお客様もいましたが、突き抜けたことをすれば当然そのような反応もあるかと思います。
 社長の松田は「バス業界の常識は、世間の非常識」とよく話します。本来提供されるべきホスピタリティが、提供されていないのではと。バスに乗っている時間の付加価値を意識するよう、言われていました。
 この試みがきっかけで、グループ内のほかの社も柔軟になっているのが見受けられます。石橋を叩きながらモノづくりをしてきた、タガが外れた。「バスのチームがあそこまでやったんだから」と。タクシー部門も自分たちで広報チームをつくり、おもしろいことを考え始めています。

企画バス車内