ロコ情報スペシャル!
静岡篇
地方CMながら全国で話題となっている静岡新聞社・静岡放送(SBS)のキャンペーンCM『超ドS「静岡兄弟」篇』。創刊75周年の静岡新聞と開局65周年を迎える静岡放送を擬人化した自虐おじいちゃんネタで、人々に強烈な印象を残した。地元で確固たる地位を築いている老舗メディアが、なぜ、どうやってこのCMを作り上げたのか?株式会社静岡新聞社/静岡放送株式会社の奈良岡将英氏にお話しをうかがった。
県民に根づくキャンペーンを
当社は2000年からブランディングに取り組みはじめ、2004年から毎年ブランディングCMを作っています。2014、15年と「ど真ん中+静岡新聞SBS」という意味で「ドS」キャンペーンというものをやっていたのですが、今一歩県民を巻き込めないまま打ち切りに。その「打ち切ります」という全面広告を15年の大みそかに大きく出し、明けて1月4日に「超ドS」キャンペーンを始める告知を新聞のラッピング広告で行いました。メディアとしてこれまでの姿勢、どこか「言わなくても見てもらえるもの」という意識が残っているような過去を超えていくという意思表示であるとともに、勝手ながら「県民の一人ひとりもこれまでを超えていこう」という呼びかけでもありました。メディアとして静岡を盛り上げていこうという使命を持ちつつも、それには県民の力が何より必要だということで。
―あのCMができた経緯は。
CMの中にもあるように「時代の波をとらえてきた」「文化を作ってきた」という側面は、確かにインターネット登場以前にはあったのかもしれません。けれど実際は周りの変化の方が速くて、今静岡に暮らす人々ひとりひとりに合ったメディアになれているのかというとそうでもない。75年・65年やって来て、人間に例えればおじいさんです。「今」を表す女性ふたりにぽつんと取り残されている、あの状態で身の振り方を考えねばならないと。
―女性ふたりのリアリティがすごいですよね。
キャスティングがすばらしかった! 撮影中もアドリブがすごくて、笑いが絶えませんでした。リアリティで言えば、私が大学や専門学校でヒアリングすると、あの女性ふたりと本当に同じことを言うんですよ。ウェブがメインで、新聞読んでいる人はほぼゼロ。テレビを見ている人は、専門学生で8割、大学生では6割くらいだったかな。一人暮らしだと家にテレビがないという人もいますし、生活スタイルが変わってきていますよね。
(左)ホーム画面、(右)ニュース画面
―そういった若い層にどのような働きかけを。
見るものが多様化しているので、みんなのいるところにこちらから出て行かなくてはなりません。例えばYahoo!ニュースやLINEでの配信、GYAO!での動画配信など、届く道筋に出し始めました。けれどこれでは、生活者と直接的な接点が持てないんですね。そこで、2009年に制作したブランディングCM「インコ式静岡新聞」から着想を得て、女子中高生をターゲットにしたスマホアプリを作りました。私にもちょうどその年齢の娘がいるのですが、観察してみるとまずスマホのアラームで朝起きて、そのままベッドでLINEのチェックをするんです。ベッドから出てしまうとあとは朝ごはん食べて、身支度して、ニュースを見ることはない。これはLINEの前に食い込むしかないなと思い、鳥のインコが起こしてくれて、短いライトなニュース3本を読みあげてくれるアプリにしました。まずは、ニュースを取る習慣を持ってもらいたいということで。今のところ伸びはまだまだなのですが、全国の鳥好きに刺さっているようです(笑)。女子中高生はまず、友だちが使っていて「いいよ」という情報がないとアプリを入れてくれないんですよね。
―一方でCMの方は、県を超えて全国で刺さりました。挑戦的なCMですが、社内でよく案が通りましたね。
ブランディングを始めた当初から、クスッと笑わせて、ゆるんだところにメッセージを投げるという手法で作り続けていたんです。私の仕事は、クリエイターのいいアイデアをいかにそのまま世に出せるかだと思っています。クリエイターが面白がって作るものが、一番面白い。クライアントがネガティブチェックをどんどん入れると、形が変わってそもそも何のためのCMだったのかわからなくなってしまうじゃないですか。
2004年からCMを作り続けていますが、役員会にコンテを出すと、当初は「新聞社としてこの表現はどうなんだ」という意見も多かったんです。けれど12年も続けているとだんだん言われなくなってきて、時には笑いが起きたりすることも。と同時に、県民からも「CMがおもしろい」「次はどんなのだろう」と期待をいただくようになりました。CMの効果を、KPIなどの数字で変に追及するよりも、継続することの大きな意義を感じています。このCMに関しては、プレゼンに社長も同席してもらって即決しています。社長がOKを出したことが、このCMの生まれた最大の理由ですね。