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ロコ情報スペシャル!
福岡篇

2005年に創業した「しくみデザイン」は、参加型デジタルサイネージを日本で最初にビジネス化したパイオニア企業。最近では、自社プロダクトの「Springin'(スプリンギン)」が学校教育の現場にも導入され始めています。
東京に一極集中しがちなテクノロジーカンパニーが、福岡から世界に向けて新たな価値を発信していると聞きおよび、代表取締役の中村俊介さんにお話を伺ってみました!

メディアアートの先駆@福岡

 創業以来、クライアントの課題に対してインタラクティブなデジタルサイネージを提案し制作する事業を手掛けてきました。当初は、ほかに同業他社がないような時代です。Webカメラの前で体を動かすだけで演奏できる楽器アプリ「KAGURA(カグラ)」という自社プロダクトを持ってはいたのですが、当時のパソコンにカメラはついておらず、ネット決済も一般的ではないような時代背景で収益になるほど販売できるような状況ではありませんでした。

 デジタルサイネージを必要とするクライアントのほとんどは東京と大阪です。そんななかで福岡に拠点を置いているのは、僕が福岡で大学院を出たから。出身は群馬で、名古屋大学で建築を専攻し、「建築はあまり向いていない」「ひとりで完成できるものをつくりたい」と感じて、九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)の大学院に進みました。デザインの研究室に入ったのですが、自分はデザインではとても周りに敵わないと気づき、世界中でもまだほとんど手を付けている人のいなかったメディアアートにならチャンスがあると、勝手に研究と創作を進めていました。
 そのときにつくったのが、「KAGURA」の大元になる作品です。デジタルコンテンツの賞やベンチャーのコンテストに出品したところ、両方でグランプリを獲得して、特許も取得。当時のベンチャービジネスブームの波も相まって、人のすすめに従い補助金の申請もしてみたら、審査を通過しとんとんと「起業しなきゃいけない」状況になっていたんです。条件は、「福岡で起業」ということでした。

サイネージ例:(左)『チコちゃんに叱られる!』品川駅構内イベント、(右)福岡県青少年科学館 宇宙コーナー「スイングバイ」

福岡にいることで、できること。目指すこと。

 クライアントからは「いつ東京に来るの?」とさんざん言われていましたし、行けば仕事が何倍にも増えることもわかっていました。けれど、無理をしていっぱい仕事がしたいわけではない。営業は置いていませんが、口コミとリピーターで仕事が回っていたんです。
 もうひとつは、福岡にいることが同業他社との差別化になってもいるんですよね。福岡はとてもイメージがよく、喜んで出張に来てくれる人たちがいます。そして市内に同業者がいないために、自治体から気にかけてもらえています。何かあれば声がかかって、それに応えることができる。
 たとえば、当社のビジュアルプログラミングアプリ「Springin'」を学校に導入してみてはと提案すれば、話を聞いてくれます。普通は、一般企業が教育委員会にアポイントを取るのも難しいでしょう。関係値があるから、表敬訪問すれば県知事や教育長が出てきて話を聞いてくれる。自治体と仕事ができる点でも、福岡にいる価値は大きいと感じています。実際に、この4月から福岡市内の全公立校でSpringin'がダウンロードできるようになりました。

 そして福岡で感じるのは、ここにはいろいろなコミュニティがあるけれど、たとえば「スタートアップの人たち」「制作会社などクリエイティブな人たち」というようにはっきり分かれて存在しているということ。でも僕は両方に足を突っ込んでいるので、双方が混じる機会が出てくるんですよね。福岡はそこまで大きくないので知っている人同士も多い。うまい具合につながることがあります。東京に比べれば圧倒的に人材不足ではあるのですが、僕らくらいの年代で長く事業を続けている人たちが福岡を引っ張ろうとしている感じがあります。

「KAGURA」デモンストレーション

 ただ、いつまでも「福岡」とくくられるのではなく、日本全体、地球全体のひとりになりたいと考えています。ここは、東京もソウルも距離感としてはあまり変わりがありません。地理的な要素も含めて、最初からグローバルな視点で考えることができていると思うんです。ただ、今は外へ向けたプロモーションを行なっておらず、どのタイミングで展開していくのか見計らっているところです。世界の人にSpringin'を届けるために、ユーザーや知名度を上げる手段として上場を考えるようになりました。
 KAGURAなど展示会で海外に持っていくことがあるのですが、外国でとてもウケがいいんです。「やっぱり日本人はクレイジーだな」「すごいな」と言ってもらえる。けれど日本人にその自信は見受けられません。本当はクリエイティブな国なのに、ちゃんと発揮できていない。得意なはずなのに、日本発のものがどんどん少なってきているのが悔しいですね。
 日本発のツールで世界を席巻できると、自分たちにはそれがつくれると信じています。

みんなが「つくる側」にいる世界をつくる

 そもそも、「人類をアップデート」したいというのが目指すところです。今は、多くの人が誰かのつくったものを消費するばかりになっている。でも、人間の4大欲求のひとつは「創造」であり、本能だと思っています。それが一部の特別なクリエイターだけのものになっているのは、本来の姿ではありません。誰もが、つくる側にまわれるように。楽しんでモノをつくるのが当然の世界をつくりたい。みんなをクリエイターにしたいという思いから、最近では自分のことを、「クリエイタークリエイター」と呼んでいるんです。
 ネックとなっているのは、プログラミングです。難しいと思われているから、一般の人になかなか手をつけてもらえない。だからそこをショートカットできるものとして、Springin'をつくりました。プログラミングをがんばって習得しなくても、インタラクションのあるデジタル作品を感覚的に楽しくつくれるようになるツールです。
 面倒で難しいことを、いかに簡単で楽しいものにするかがテクノロジーの仕事だと思っています。
 TikTokなどは、人々の“映像をつくってアップする”敷居を相当下げました。けれど“ゲームをつくって人に遊んでほしい”となったら、普通の人ができるようになるまでの道のりが長すぎたんです。だからプログラミングのために言語を取得しなくても、イメージベースでできるものをつくりました。アイコンも、感覚的にわかるような物理現象や自然現象をそのまま模して。
 そして、できた作品は誰かに届けるところまでしないとクリエイターにはなれません。作品をマーケットに届けるところまでできてようやく、ひとつのアプリとして成立すると考えました。作品を売り買いできるところまで含めてプラットフォームをつくり、気軽にシェアできる文化を生み出したかったんです。