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教育界にニーズがあった

 そういうわけで、Springin'は教育のためにつくったプロダクトではありません。むしろ、勉強する必要もなくできるというのが正しい状態だと思っています。
 ただ、プログラミング教育が小学校で必修化されるとなった2020年の前年に、ダウンロード数が突然急増しました。何のプロモーションもしていないのに、一気にそれまでの8倍に。ちなみに今(2022年4月)時点では、約91万ダウンロードとなっています。このことで可能性を感じて、それまでの受託ビジネスから一気にスタートアップに舵を切りました。もともと、自社プロダクトで仕事をしたいという希望があったんです。
 増えたユーザーの8割というのは、子どもでした。まずは私立小学校の先生たちが「プログラミングを学ぶツールとしてよい」と広めてくれたんです。新しいものをすぐに試せるのは私立校。学校で扱ったことによって、子どもたちが家でもやるようになりました。
 僕らは学ばなくても使えるようにつくっているのですが、教育側にニーズがあることを知ったわけです。たしかに今の教育現場で使われているものの多くは、言語を理解しないと使えない「Scratch(スクラッチ)※」なので難しい。「子どもに教えて」と突然言われても、先生も困るのではないでしょうか。教育現場の方から「子どもたちが生き生きと取り組んでいる」と聞き、ここを支えるべきだと思うようになりました。今、学校にはGIGAスクール端末が配布されていますが、活かせているところは多くないと思います。
※マサチューセッツ工科大学(略称MIT)メディアラボで開発された教育用プログラミング言語。

 ただ、教育のためとなると、当初のアプリの目的と違うので、違う機能が必要になります。指導マニュアルや教材が必要とされますし、子どもの作品は世界に公開ではなく、先生に提出できるようにしなくてはならない。そういうわけで、「Springin' Classroom(スプリンギンクラスルーム)」という別サービスをつくりました。教育事業を手掛けるようになった始まりです。

プログラミングそのものより、
つくる楽しさを知るツール

 illustratorやPhotoshopがあるからデザイナーは食べていけるようになったし、動画のツールがあるから誰でもYouTuberになれる。でもこの分野だけは、素人でもプログラミングのための開発環境を扱わなければならなくなってしまう。それはしんどいし、つくりたいものがわからないままつくろうとしても意味がありません。学校の端末にSpringin'のようなものが入れば、プログラミングのためではなく表現のために動くことができます。ゲームだけではなく、PowerPointのように解説するためのツールもつくれる。声や動画を入れ込んだり、見る人の選択で分岐をつくることもできる。
 新しい表現ツールとして認められたことで、福岡市など複数の自治体で使われるようになりました。教育委員会の方と最初に話したときは、「もうプログラミングツールは購入済み」と言われていたのですが、説明すると「新しい表現ができる」「プログラミングを勉強させようと考えすぎていた」と理解してくれました。使うため、表現力を上げるためのツールとしてとらえてくださった。
 ご依頼を受けて、福岡県のプログラミング教育推進協議会委員にもなりました。自分は教育者になりたいわけではないので、教材を量産するつもりはありません。本当は教材なんかなくても自由にやるべきだと思っています。教材がないとできない、という時点でツールの敗北というくらいの気持ちでいます。ただ、「それがないと困る」という人がいるというのが、「Springin' Classroom」という「Springin'」とは別サービスを展開した経緯になります。
 TikTokで稼げる人が出たように、Springin'のゲームで稼げる世界をつくりたい。学校で体験したことのある人たちが稼げる場を持つというのが理想です。子どものゲームや動画漬けを心配する親御さんも多いですが、つくる楽しさを知れたら、つくる側に回れると思います。いい作品をつくろうとすればとても頭を使うし、アウトプットのためにインプットもするようになっていきます。アウトプットの楽しさを知るということが、すべてにつながっていくのだろうと思います。

本当はゲームクリエイターになりたかった大人、子どもにつられてハマって人気クリエイターになったお母さん、82歳のおばあちゃん――などさまざまな人たちがゲームづくりに没頭し、Springin'の世界で活躍しています。親子で互いにゲームをし合って、家族のコミュニケーションツールにしている人も
text:矢島 史

中村俊介
1975年生まれ。名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)在学中にメディアアーティストとして様々な賞を受賞、体の動きを音楽に変える「KAGURA」で特許を取得。博士(芸術工学)取得後、2004年九州工業大学HITセンターに講師として招聘され、教鞭を執る傍ら翌2005年にしくみデザイン設立。
米インテル社主催の技術コンテストや欧州最大の音楽フェスSónar+Dのスタートアップコンテストで日本人初の世界一を獲得する他、国内外30個以上のアワードを受賞。クリエイターの立場から世界中の子どもたちを創造的にするクリエイティブ教育に力を入れている。