会報 ACCtion!

第2回 田井中 邦彦
- Kunihiko Tainaka -

1968年株式会社電通入社、大阪支社ラジオテレビ企画制作局勤務。2001年関西支社クリエーティブ局長、03年本社クリエーティブ・プランニング・センター長。入社以来クリエーティブ一筋に歩み、08年専務取締役関西支社長、10年顧問。大日本除虫菊、朝日新聞、関西電気保安協会、ダスキンなどの広告を手がける。朝日新聞「くわしくは」(1988年)、ダスキン「きんさんぎんさん」(1992年)でカンヌ国際広告祭銀賞、大日本除虫菊「コックローチ」でACC最優秀賞(1995年)、公共広告機構「震災支援/井戸水」でACC郵政大臣賞(1995年)など、受賞多数。1994年にはクリエイター・オブ・ザ・イヤー、2010年ACC鈴木CM賞を受賞。日本の西と東の広告を知る人物である。

☆等身大のメッセージは心の垣根を通りやすい

関西電気保安協会のCMは本物の保安協会のおじさんと主婦が「電気の安全の話をしている」。普通の人のフツーの言葉、話し方が見ている人に飛び込んでくる。広告の中で素人参加型のジャンルを確立した保安協会の広告は今見ても面白い。素朴さで人を惹きつける。堀井さんと川崎徹さんの二人ではじまったこのCMは「無い無いづくし」から誕生した。関西電気保安協会の仕事は協会員が一軒一軒、家庭を訪問して電気や器具の安全を無料でチェックしてくれるという、本当はありがたいところなんだ。でもその名前が世の中に知られていないために、せっかく訪問しても家の中に入れてもらえなかった。広告を出してなんとか知名度をあげたいが制作費も潤沢ではない。もちろんタレントさんは使えない。音楽を作る金もない。そこで苦肉の策として協会員さんにでていただいて、訪問先での実際の仕事ぶりをありのままに撮影した。サウンドロゴも自分らで作った。CMは成功した。あっという間にお茶の間の人気者になった。この広告が最初に広がったのは小学生から。彼らが「関西電気保安協会」と唄い、それが主婦に、最後に男性にもひろがった。テレビは性別や年齢をセグメントしすぎない方がいいのかも知れない。広がったコミュニケーションをどう使うかにかかってくる。これこそコミュニケーションデザインの発想だ。以後30年以上シリーズとして続いた。この仕事を通してテレビというメディアの特性を勉強させてもらった。ユニークさとユーモアは心の扉をたやすくこじ開ける。

☆表現に嘘は持ち込まない

財団法人:関西電気保安協会/出典:ACC CM 年鑑'89CMにでてもらっている保安協会員の方たちはだいたい70歳以上の人たちだ。彼らのセリフは普段使っておられるありのままの言い方だ。訪問先でこんな問いかけをする。例えば「関西電気保安協会ですが、お宅のアースはちゃんとついてますか?」それに対して主婦役の女性が一言突っ込むの。後は、どんな反応でもいいから何か応えてくださいというフォーマットで構成されている。ほんものの咄嗟の反応がほしいので撮影はぶっつけ本番の一度だけ。一つのテーマで25人くらいは来てもらっていた。その中でCMに使えるのは一つあればいいいほうだった。おじさん「漏電遮断器をつけましょう」主婦「ところで漏電ってどんな字ですか?」おじさん「さんずい偏になんていったかなあ・・・」これなどは秒数オーバーでボツになった部分を見直してCMになった。

☆テレビのええかっこしいはすぐに見破られる。

知名度がいきわたると次に言われたことは若い人を使ってほしいということだった。CMのおかげで関西に名前が知られたんだけど歳をとった人ばかりが出ていると「高齢者の協会」と思われてしまう。というのが理由だった。協会の若い人でやってみた。結果は面白くなかった。若い人はテレビに映るということで無意識にエエカッコをする。ところがテレビはそういうところまで映しだしてしまう。お年寄りの人たちはそんなことにはまったく無頓着である。無防備で、でんと構えていられる。顔も話し方も味がある。そしてつい引きずり込まれてしまう。見る人の気持ちに飛び込んでくる。この差は明快である。結局今まで通りということになるのだが、何年かに一度は必ずこの問題がでてくる。

☆クライアントと制作者との間でこの手の問題は少なからずある。

うまくいってればいってるほどありがちといえる。送り手に欲がでてくる。でもそのメッセージを広げてくれるのも無視するのも受け手なのだ。送り手は見てほしい自分を出そうとするが受け手は冷淡である。「そこを何とかするのがクリエーティブの役割だろ?」「そ そうですよね」

☆普通の人が発するとてつもない言葉

言葉で企画する堀井チームは言葉を考えるだけでなく、発見することにも努めた。企画でいろいろな言葉がでてくるとき、その選択は撮影現場まで持ち越した。つまり実際の状況で試してみて、面白ければそれを残していった。言葉って誰がどういう状況でどんな言い方をするかにかかっている。机上ではなかなか判断しにくいものもある。時に驚かされるのは素人さんの一言だ。「関西電気保安協会です」「あぁ関西電気保安協会さんですか」「そうですか」。この後の言葉は現場で出てきた。「そうですよ」これが効いた。こういうなんでもない言葉は企画している時には出てこない。例え、出てきたとしても面白いかどうか判断に迷うだろう。「アースはちゃんとついてますか」「スピーク イングリッシュ?」「 a  a  Where are you come from?」70歳を超えるおじいさんが咄嗟の状況で英語の教科書のフレーズを言ってくれた。机上では思いつかなかった。

☆長年積み重ねてきた広告は、かなりの価値がある。

クライオアントにとって無形の資産だと言える。だから、たとえ一作でもコミュニケーションの緩みがでるのは残念である。一方クリエーティブ制作者も毎回、必死に作っていても常にいいものができるとは限らない。それでも目の前の広告に全力疾走するしかないのである。そこからしか先は見えない。

わしら広告 ノーテンキ派