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グスーヨン

タクシーを拾ったら、液晶モニターの映像メディアに遭遇したという経験はおありだろうか。そこで放映されているタクシーちゃんねるの人気プログラムが、ニヒルなおじさんとおませな女の子の掛け合いが何とも言えない「グとハナはおともだち」である。アイドルやお笑いタレントが“ハマってるもの”として紹介したり、ネットやテレビ番組で取り上げられるなど巷で話題を呼んでいる。そのニヒルなおじさんである業界の風雲児・グスーヨン氏が考えるメディアとは、コンテンツとは? グ監督のオフィスでのインタビューは、3時間半に及んだ。

人気コンテンツ「グとハナはおともだち」の誕生

―タクシーエム-TVで人気の「グとハナはおともだち」ですが、ハナちゃんとのなれそめは。

16年間の付き合いがある広告プロダクションの友人がいて、仕事辞めたいだの、結婚の相談だの受けたりして(笑)。で、結局結婚しちゃって、生まれたのがハナ。彼らは鎌倉に住んでいたんです。僕はちょこちょこクラブイベントなんかの企画もしてて、プロデュースした海の家のビーチパーティーに行ったら、「近所だから顔出しますよ」って家族で来てくれて。見かけ的にかなりガラの悪いパーティーだったんです(笑)。なのに、当時4歳のハナが来て、場違いなんですけど。でも意外とああいう連中って子供にやさしくて、かいがいしくカニ取ってあげたりとか……。ハナは、その中にいても全然たじろがない。本当は人見知りが激しい子なんですけどね。僕はハナを子ども扱いしないから、そうすると向こうもこっちを大人扱いしないというか、タメな感じで。

―このコンテンツそのまんまですね。なんでグさんに心を開いたんでしょうね。

今の親子って友だちみたいな関係で、対等なんですよね。でも子どもって、そうされると図に乗るというか、わかるんですよね、図に乗っている自分を演じているというか。だから僕に会って“そうじゃない何かが現われたな”って興味の方が勝ったんですかね? パパの友達みたいな位置づけじゃなくて、ゾウさん、グさん、みたいにひとつのキャラクターの位置づけにポコンと入った。だから遠慮もないし、ずっと対抗心丸出し。

―その子をタクシーちゃんねるに使うというのはグ監督から?

そうですね。それまで“大人が思う良い子ども”というのがどうも嘘っぽいとずっと感じてたんですよ。泣ける子どものドラマとか・・・僕が知ってる子どもはもっと残酷だし、酷いし、優しさや無垢なところと共存している。で、ハナを見た時に「あ、こういうことを表現しなきゃ、発信していかなきゃいけないと。大人は、ずっと大人の都合のいい子どもを育てようとするんじゃないかな」と考えたんです。子どもを何とかしたいって言っても、実は子どもが何を考えてるかなんて知らないじゃん、もっと知ろうよっていうことで。天才子役とかなじゃなくて、もろリアルなナマの子どもを発信していかないと、嘘っぽいというか、気持ち悪いというか。

どんなナンセンスも、もとにリアリティがあるから広がりや深さができる。広告表現もそうですけど、このリアリティを置き去りにして手法やギミックばっかりで表現している。臭いものに蓋をして、見ないふりでやるから浅くなる。極端に言うと、これでは世界のカルチャリズムの中では賞は絶対に獲れない。タイやインドネシア、韓国などは頑張ってますよ。

―『グとハナ』ですが、スクリプト通りに撮っているんですか?

シミュレーションは散々しますけど、本番でネタを振っても引っかからなければ二度と戻ってこないんです。いくら言わせようとしてもダメです。だからネタをA4で3枚くらい用意して、引っかかるまで次から次にぶつけていって。それがバレてハナが「次」っていう時もありますけどね(笑)。すごく集中力いりますね。飽きちゃうから頑張っても2時間半。成長しても、ハナがやれるならいつまででもやりたいんですけど、タクシーちゃんねる自体が(経営的に)なくなりつつあるんですよ(苦笑)。

タクシーちゃんねる
「グとハナはおともだち」から
全動画コンテンツはこちらで視聴できる
[gsuyeon chronicle]
http://www.gusuyeon.com/contents.html

―そもそもこれは広告?それとも番組ですか?

これは番組です。広告してない。売るものないんで。目的がないから、子どもを使って「最近こういう内輪話し見てないね?」っていう。ハナは、なんでもすぐに本気にするからおもしろい。
「空はどうして青いんですか?」って訊かれると、僕は「黄色じゃないからじゃないですか」と答える。
ハナは「そうか」って納得する、納得するところなんだ、そこは?(笑)しかも「なんでグさんは、そんなにいろいろ知ってるの?」だって(激笑)。
 あと心の話も面白かったですね。「心はどこにあるの?」って訊くと、「(ハナ:胸をさして)ここだよ」「(具)それは心臓じゃないの?」「(ハナ)あ、そっか。(頭をさして)じゃあ、ここか?」「(具)頭は考えているんだよ」
「(ハナ)じゃあ、(胸と頭をさして)こことここにあるんだ」って言う。「(具)心はふたつあるのね!?」「そう!」。
その視点はなかったですねぇ。なぜか俺は心は一つだとずっと思いこんでいた。いくつもあってもいい、構わないのに、心は一つという幻想に気づくわけです。本人は全然考えてなくて。本人なりに考えてはいて、心というものとしては、わかっている。「本当にわかって言ってるの?」って突っ込みたい。

―小学生になって、彼女の魅力の引き出し方は難しくなってますか?

その通りです、複雑になってきているんで。自意識が出てきて。これくらいの年齢でも、向こうがこっちを面白がってくれていれば聞きだせるんですけど、拒絶されるともうダメ。小学2年生なりの面白さが絶対あるはずなんですけど。僕がダメダメで、それを引き出しきれない。あれこれ試しているんですけど、「あ、これだ!」っていうのが見つからない。
仮説に基づいて問題を作るんですが、仮説が外れると全部外れる。だから、もっととんでもない仮説を考えないとハマらないんだと思う。

―スクリプトを用意して、シミュレーションしながら、演じつつ、監督もやってるってわけですね?

そうですね、これ、他の監督がいないから。だから、すっげえ疲れるんですよ、反射神経のみ。本人の自意識が微妙なところに、しかも女の子だから、ませているし。毎回外れますね、考えて行くんですけどね。「そこじゃないんだ」「食いつかないな」となる。僕が「え、何それ?」って言うと「(ハナ)知らないの??」っていうのはあるんです。自意識があるんで、おっさんが知らないことを自分は知ってるっていう。マウンティングですね、犬の。マウンティング感はあるんです。だから、そこをもっとガバっとくるようなところでうまく乗せないといけないのに・・・「え、知らないの?」から、どこに持っていけばいいのか(苦笑)完全にスキル不足ですね。

―8歳は、確かに難しい時期ですね

ここで迷っていたら、演出家としてはダメでしょ(笑)。これからどんどん難しくなるから。天然の子はいいかもしれないけど、ハナは全然普通の子ですからねぇ。将来の夢もまだ女子アナ志望が珍しく続いてますね。平気で『行列のできる法律相談所』で言ってました。
「すきな女子アナは?」「(ハナ)カトパン」「どこの局?」「(ハナ)フジテレビ」「ここ、どこの局が知ってるよね?」「(ハナ)うん、日テレ」「知ってるんなら、構いません・・・」。
平気ですから。そこは、自分が知ってることを言いたい、っていう。