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さのけん、そしてフィッツジェラルド

タクシーちゃんねるはテレビより強制的に見せるでしょ。テレビはつけないといけないけど、これは乗ったら映るから。すごい嫌な人もいるみたい。「うるさい、消してくれ」って人もいるみたい。暴力ですもんね、暴力的に見せているから。

―監督はテレビとかタクシーちゃんねるとか、暴力的な方がやりたいですか。自分に向いていると思います?

そうだと思います、媚びるのが下手なんで(笑)。「これを見ろ」「意見は聞かない」というほうが。誰かに評価されたいというのが、若い時期はあるじゃないですか、一生懸命やってて認めてほしいというのがあったんですけど。パタリとなくなったですね。

―それは何歳のとき?

小説を書いているときに。小説は自分と向き合わないといけないので、ドロドロになるんですよ。何で俺は在日に生まれてここにいるんだよ、ってところから入るので。いろんなことを一回ほじくり出してみてたら、「別にいいか、認められるのは」ってなる。なぜかと言うと、認められるには、認められる材料がないといけなくて。それが「無いや」って気が付いたんです(笑)。「今まで認められたい」と思っていたけど、「材料が無いじゃん!」って気がついたんです。やべぇ!って

佐野さんがダメだって言われたら、僕ら仕事できないじゃないですか。そもそもほぼすべてにネタがあるんですよ。少しは変わっているかもしれないけど、“あんなような”、“こんなような”って、ネタがある。アンチテーゼだったり、何かから出てきたものだったり。ポコっと出てきたものじゃなくて、環境があって出てきたものだから。

―まわりからの評価が気にならなくなった時、自分を振るい立たせるものは何なんでしょう?

モチベーションというよりは、認証欲求そのもの自体があまり意味のないことだと発見してすごく楽になったんです。認められたいと思うから、意味があるわけで……、元々がないとまるでなくなっちゃう。禅問答みたいでしょ?そもそも意味があることをやらなきゃいけないのか?今やることは、やらなければならないことをただ粛々とやっているだけ。やらなきゃいけないことに気がついちゃったんですね、たぶん。認められることが目的ではなかったと気づいた。
お金もそうなんです。めっちゃ金持ちになりたいと思っていたのに、限界もあるわけで。身のほどとか、身分相応とかという話もあって。ザッカーバーグみたいになるって、ムリですから。サッカー選手も身体能力からしてムリだし。コンテンツもそれと同じだと思ったんですよ。ある程度勉強もしてしがみついてきたけど、「ムリじゃん」って。そうすると、自分ができることって他に何があるんだろう。プロデュースも、やったことないからできない。結局、できないことだらけ。じゃあ、できることからコツコツと。

同時性、スコット・フィッツジェラルドがそう言っていたんですけど。「知性とは相反する、もしくは矛盾する2つのことを同時に信じることができ、しかも知性を失わずに働きかけることである」って。要するに、明るい未来などないことを十分に知っていながら、明るい未来を切り開く覚悟をすること。
これは、人間は愚かなところもあるけれど、優しいところもあるよという場所の理論の話ではなくて、一緒なんです。「一緒のこと」っていうのが、今の自分にすごくフィットしたんです。目的が認証欲求でなくて、何かを求めて産まれてきてから、何か目の前にあることで偉そうにしたい……という。そこに大層な大義名分があったかというと、ない。後で付けているだけ。よくよく考えるとなかったじゃん、って。それが自分にフィットしたんです。
小学校ではいじめられっ子で、その後はいじめっ子になっていって、不良になってっていう迷いがすべて納得できたというか、全部腑に落ちたんです。モチベーションがまったくいらない。感情不要論。
「人間の唯一の、人であることの利点は理性があることである」、って親父が言ったんですけど。親父はキリスト教会の長老だったんで。小学3年生の頃に渡された本がカントですから。まったくわからん(激笑)。親父は哲学科ですから、もともと哲学が好きなんでしょうけど。弟もキリスト教哲学科ですから。(※3)そういうところでケンカしなきゃいけない、議論をしないといけないから自然と達者になったんです(笑)。

(※1)女優桃井かおりさんが監督した映画「無花果の顔」は、2007年ベルリン国際映画祭でNETPAC賞を受賞した。
(※2)第55回ACC CM FESTIVAL(フィルム部門Aカテゴリー)でグランプリを受賞した東海テレビ放送「総集編 〜戦争を、考えつづける〜」のこと。
(※3)具秀然監督の実弟具光然氏は、小説家、コピーライター。脚本家として「偶然にも最悪な少年」「The 焼肉ムービー プルコギ」「ハードロマンチッカー」に参加している。

具 秀然(グ・スーヨン)

CMディレクター、映画監督、小説家。
1961年山口県下関生まれの在日韓国人二世。
(株)デルタモンドから(株)サン・アドに移り、26歳でCMディレクターに。
94年GOO TV COMPANY ltd.設立。
資生堂メンズスタイリングムース、TBC「脱いでもすごいんです」など話題作多数。
小説「ハードロマンチッカー」「偶然にも最悪な少年」を執筆し、自らが監督をして映画化。
2012年よりタクシーちゃんねるで「グとハナはおともだち」放映開始。