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Vol.17

書評家・SF翻訳家・ SFアンソロジスト
大森 望

ビジネス開発や広告の周辺で、未来を予想する手法としてSF研究が注目されている。SF作家の持つ世界観の構築に必要な想像力や知識とはどんなものなのか? どんな動機で、SF小説を書こうとするのか? どんな未来がSFから読み取れるのか?数多くのSF小説に関する著作、訳書を持ち、アンソロジーの編者としても活躍する大森望さんに話を聞いた。シリーズ世界累計発行部数2,900万部越え、注目のSF小説 劉慈欣『三体』の翻訳にもたずさわっている。

SFは広告発想の役に立つか?
『三体』翻訳者がSF小説を語る

SFプロトタイピング ー SF小説が“来てる”理由

―広告業界周辺やクリエイターが、「最近SFがスゴイ」と気づき始めています。

大森:“SFが来てる”って空気は、広告業界に限らず、ビジネス界全体から感じますね。WIREDがSci-Fi プロトタイピング研究所を設立したり、BAIRAL*1がSFプロトタイピングを研究したり、企業がSF作家クラブに依頼して、未来に関するショートショートをSF作家に書かせてウェブに載せるとか、企業のブレインストーミングや会議にSF作家を招くとか、そういう事例がここ数年増えています。
広告業界に限らず、同じ業界のなかでずっと仕事をしていると、その枠の中でしか発想できなくなりがちですよね。実効性があるのかどうかはともかく、発想に柔軟性をもたせようという試みだと思います。SFをビジネスに導入するこうしたSFプロトタイピングの試みは、もともとアメリカで始まったんです。
最近多いのは、社員に空想的な小説を書かせて自由な発想を訓練するもの。SF作家の話を聞いて終わりではなく、実際にその発想力を身につけようという試みです。SF作家が企業から出されたお題に応えて小説を書く、あるいは社員と一緒にアイデアを出して小説にする。SFプロトタイピングをテーマにしたビジネス書だけで、もう4〜5冊出ていますね。
たとえば、日産は早くからそういった取り組みを行なっていて、SF作家に未来のクルマを書いてもらうのと同時に、社員が書いたものも一緒に本にまとめています。畑違いの人にとってはそういった体験が新鮮だし、その体験が何年後かに活きればいいと思われているんでしょうね。発想力を育てるというところで、少しは役に立つのでは-。藁にもすがるじゃないですけど(笑)、新しいことをしないと生き残れないという危機感があるのかもしれません。ここ3~4年はこういった案件がとても増えています。

―日本ではSF作家と思いきや、時代ものを書いたり、ライトノベル出身だったりと、シームレスになっているようですが。

そこは昔から変わらないんですよね。星新一だって、SFだけを書いていたわけではない。ミステリーもホラーも書いています。小松左京も伝統芸能ものや紀行本、文明論などSF以外の作品がたくさんあります。ただ、1960年代、70年代には、彼らはすべての活動をひっくるめて「SF作家」と呼ばれていた。今SF作家と名乗っているのは、主にSFの賞を獲って出てきた人たちですね。
逆に、ライトノベルやネット小説出身の人はあまりSF作家と呼ばれない。異世界転生ものや『ソードアート・オンライン』のように多方面で大きな収入を生み出しているコンテンツの作者でも、SF作家とは名乗っていません。逆に、『地図と拳』の小川哲さんはハヤカワSFコンテストの出身ですけど、直木賞を獲ったのは歴史小説。直木賞を獲るとなかなかSF作家と呼ばれなくなる。宮部みゆきさんだって東野圭吾さんだってSFを書いてる。SF作家と認知されるかどうかは、SFを書いているかどうかと必ずしも一致しません。

*1) 「BAIRAL」(B’AI RA League)は、東京大学BeyondAI研究推進機構B’AI Global Forumの若手による自主研究会。AIと社会の関係について、理論・実践の両側面から検討している。

「センス・オブ・ワンダー」―面白いSF小説が生まれる条件とは

―面白いSF小説が生まれる条件ってどこにあるんでしょう。

私たち60年代生まれは、1970年の大阪万博に強烈なインパクトを受けた世代です。子ども時代にスーパージェッターやマグマ大使、鉄腕アトム、仮面ライダーやウルトラマンなどのSFドラマを大量に浴びて育った。長じて、この世代は、SFを好む人のボリュームゾーンになっています。
SFは、経済成長期に繫栄するジャンルなんです。アメリカでも1940~50年代に経済が上向きになって、中流階級の生活様式ができて、SFが黄金時代を迎えた。そこから20年ほど遅れて、日本は60~70年代ですね。大阪万博から『日本沈没』が発刊される1973年くらいまでが、SF小説のピークでした。そこから2000年ごろまでは緩やかな下り坂になる。

―「SF冬の時代」とおっしゃっていますね。

そうですね。1990年代がどん底だったと思います。一方、中国では、共産主義でギチギチに締め付けていたところから、中国的な資本主義がきて急速に経済発展をするようになって、90~00年代にどんどん作家が出てきました。文革の影響もあり、日本から30年ほど遅れて黄金時代を迎えた感じですね。

―SFに傾倒する人と、しない人はどう違うのでしょう。何がきっかけで「SFを書こう!」と一歩を踏み出せるのでしょうか。

日本のSF作家に理系の人が多いわけではないんですよ。でも、科学や論理、技術に対して興味を抱くかどうかは大きいと思います。たとえばアポロ11号の月面着陸を見て、あそこにたどり着くまでの技術や宇宙環境に興味がわくような人がSFを好きになるんじゃないでしょうか。

―企業からセミナーを依頼されるのは、まさにそういう視点が欲しいのだと思います。「この角度から見たことある?気づかなかったでしょ」というような意識や知識は、どうして身についたんでしょうか。

SF的なものの見方や発想は、日本人ならだれでも、鉄腕アトムやドラえもん、ガンダムやエヴァンゲリオンなどで染みついています。僕らの世代であれば、高校時代にスター・ウォーズが来て、リアルな宇宙の映像に触れて興奮した。お笑いを好きな人が芸人になるのと同じで、子どものときからSF的なものに触れてきた人が、SFを読んで、やがて書くようになる。
『三体』の劉慈欣も、小松左京の『日本沈没』やアイザック・アシモフの『ファウンデーション』、アーサー・C・クラークの『2001年宇宙の旅』などを学生時代に読んで夢中になり、自分でも書き始めたそうです。

―SF的なものの見方に共感や刺激を覚える人ですね。

「光の速度が秒速30万キロってどういうこと?」とか、「宇宙がものすごい勢いで膨張している。最終的にどうなるの」とか。生活の中にある素数や物質、それらがどんな仕組みなのかと根本的な理屈を考えていくと、不思議なことはたくさんあります。SFに触れることで「わっ」とびっくりするような感覚を「センス・オブ・ワンダー」(驚きの感覚)と言いますが、それを感じるかどうかが根っこにあるんだと思います。
小松左京さんはよく「環境破壊なんて45億年の歴史からすれば一瞬。1千万年も経てば人類なんて痕跡も残らないんだから」と、時間的にも空間的にもものすごく広い視野で話をしました。そういうスケールの広がり、あるいは何百億年先の未来まで考えるのが好きな人には浮世離れしたところで感動できる回路がある。

―大森さんご自身が最初に感動したSF小説は何でしょう。

最初は星新一の『ボッコちゃん』。新潮文庫から出たこのショートショート集は、200万部以上売れています。この中に「おーい でてこーい」という話があって。突然山の中に謎の穴が開いて、「おーい でてこーい」と声をかけても返事がない。何を捨ててもいっぱいになることがない。それで人間はいろいろなものを捨てて、なかったことにして、最後は処理に困った核のゴミまで放り込む。核廃棄物は1950年代から解決困難な問題として知られていて、それがいまだに解決していないというのもすごいですよね。最後は、ある日、空の遠くから「おーい でてこーい」という声が聞こえてきて……というオチ。SFのショートショートのパターンのひとつで、結末と最初がつながるタイプ。小学生でもよくわかる、この手の発想の逆転に感動するんですよね。解決不能な問題を人間にかわって都合よく解決してくれる魔法など存在しないから、自分でなんとかするしかないという、あたりまえの教訓話なんですが、今から70年近く前に核ゴミ問題に着目していた点がSFならではです。

―大森さんは翻訳だけではなく、ゲンロンで創作講座の主任講師をやったり、編者として多数のアンソロジーを編纂されています。SFをもっと広めよう、ベースを上げようという意思でやられているのですか。

はい。僕が子どもの頃には筒井康隆編の『日本SFベスト集成』という年度別のアンソロジーがあって、それが一種の教科書でした。そういうパッケージがあると初心者も日本SFの全体像を把握しやすくなります。だから『年刊日本SF傑作選』*2というタイトルで年度別ベスト集の刊行を始めて。さらに本格SFを発表できる舞台が少ないので『NOVA』*3という文庫判の書き下ろしSF競作集をつくったんです。最新号は女性のSF作家特集。女性だけで1冊つくれるくらい書き手が増えています。

―なるほど、広がってますね。大森さんのスクールから出た作家もいますよね。

「ゲンロン SF創作講座」はゲンロンの東浩紀さんから、新人の育成をしたいと話があって始めました。お金を払ってまでSF小説の創作講座を受けたい人がどれくらいいるのか懐疑的だったんですけど、フタを開けてみたら募集開始30分で満席になる人気講座に。年間20万円以上払ってもいいという人が毎年50人以上いるんです。本当に作家になりたいわけでなくても、少なくともSFの書き方を身につけたいというニーズがある。自分に投資したいという人が増えているのでしょうね。広告業界にもコピーライティング講座とかたくさんあると思うんですけど、実利性のとぼしいSFの講座にこんなに人気が出るとは思いませんでした。

*2) 『年刊日本SF傑作選』は、2007~2019年に創元SF文庫から刊行されていた年度別SFアンソロジー(大森望・日下三蔵編)。毎年十数作に及ぶ日本語SF短編・中編を収録する。2020年からは竹書房文庫『ベストSF20**』(大森望編)に引き継がれた。

*3) 『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション』は、河出書房新社刊行の書き下ろしSF短編のアンソロジー(大森望編集)。2009年刊行開始、第一期(第10巻まで)は、第34回日本SF大賞特別賞、第45回星雲賞自由部門受賞。