ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSについてのお問い合わせ
【CM情報センター】CMの二次利用についてのお問い合わせ

現在、電話・FAXでの受付を停止しております。
詳細は、「CM情報センター」ホームページをご確認ください。

刊行物

TOP > 刊行物 > ACC会報「ACCtion!」 > 広告ロックンローラーズ

第二十回 箭内道彦 ✕ 古川裕也

箭内: 古川さん、60歳になられたばかりですよね?

古川: 今日はお招きいただきありがとうございます。ここに呼ばれたということは、老人に認定されたということですよね。確かに、順調に劣化してますが。年齢は61歳です。ウィキペディアにはなぜか生年月日が2つ若く出てるんです。電通の同期で言うと、岡(康道氏)と中治(信博氏)ですね。

箭内: (笑)。その3人が新人社員研修で一緒っていうのが。改めて電通って人材豊富だなと思ったんですけど。

古川: ある世代に人がかたまって育つっていうのがあるんです。僕らの世代だとディレクターも山内(健二氏)・瓦林(智氏)・黒田(秀樹氏)たちが電通映画社(現・電通クリエ―ティブX)にいましたし、ちょっと上の世代で言っても白土(謙二)さんたちの頃には川崎徹さん、関谷宗介さんたちがかたまってますから。CMプランナーというのは、初期段階で同業のすごい人をどれだけ見物できるかというのと同じくらい、ディレクターですごい人を見物することと、さらにまだお互いナッシングなんだけれど、なんか普通とは違う感じの人と一時期つるんでるのが、一番手っ取り早く何とかなる方法なんですね。最近はそういうのがなくなっちゃったのが残念ですけど。

箭内: そう言えば、20年くらい前に山内さんと仕事でご一緒したとき、雑談の中で「電通の古川裕也って人はいいですよ」って。

古川: それはそれは。

箭内: ディレクターが褒めてくれるとプランナーはうれしいですよね。

古川: 実は一番うれしいかも。

箭内: ちょうど古川さんと山内さんが一緒に、TBSの深夜番組で「純白の家」をやっていた頃なんですけど。

古川: それは、30年くらい前ですね、20年どころか。やってました、昔は。そういうサブカルみたいなのを。何やっても大丈夫なんですよ、ちっちゃい頃は。

箭内: ちっちゃい頃(笑)。僕、ソフトバンクの「白戸家」を見ると「純白の家」を思い出しちゃって。

古川: いや、のんきでしたよね、あの頃は。「カノッサの屈辱」とかCXの深夜番組が話題になっていた頃で、深夜番組をCM系の人とやりたいという奇特な人がTBSにいて、1社提供の30分番組をやりませんかと。それで30秒CMを4回分まとめて2分にして、それを毎週やって連続ドラマにしようとまず思いついた。登場人物がドラマのセリフの途中で突然CMメッセージを言い始めて、終わるとドラマのセリフに戻る、という構造ですね。

箭内: ちっちゃい頃の話から強引にいまの話に持っていくと(笑)、さっきサブカル的っておっしゃったように、それこそサブのおもしろさを満喫してきた古川さんが、真ん中のほうにグイグイ押しやられてきたっていうのは?

古川: 会社に入った頃は小田桐(昭)さん、堀井(博次)さんを筆頭に、三浦(武彦)さん、白土さん、少し後から佐藤雅彦さんもいて、その人たちが目の前にそびえ立ってました。

箭内: 陣取りが終了してた?

古川: そうなんですよ。だから僕らの世代って最初はとにかくケタグリをやらないと道がない、と思ってました。そのうちだんだんそういうメジャーな人たちが現場からいなくなっていって。
気がつくと、いつまでもふつうに広告を創っていて、例えばACCの審査委員長やったり、カンヌも審査4回やったり、なんとなくクリエイティブ全体を俯瞰してみたり。消去法で、そんなことをやるようになってしまったんですね、僕の場合。

箭内: 枯れながらも加速してますよね? 古川さん、かなり走ってるように見えますけど。

古川: いやいや、そんなことない。僕、先天的にマイナー体質で、映画で言うとスピルバーグよりエリック・ロメールの方が好きですからね。いわゆるメジャーにヒットするものにしようと思うと、自分の中のこことここは変化させなきゃいけないってこともわかってはいて。確かにそういう、自分の持ってるものの出し入れのようなことはずいぶん意識するようになりました。
昔のことを知ってる人は「最近、真人間みたいなことやってる」って思うみたいですけど。実は本質はまったく変わってない。

箭内: じゃ、真人間になったと思われてる古川さんに聞きたいことがいくつかあって、例えば「働き方改革」についてどう思われますか。本を出されたり(『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』)、いろんなところでお話されてると思うんですけど、「その答えはクリエイティブ・ディレクターの切れ味にあるんだ」っていう考えにはすごく共感するものがあったので。

古川: そもそも「ディレクション」というのは、クリエイティブの仕事に限らず、"方向性"とか"指示"ってことですからね。組織やチームは、そもそも無数の指示によって成り立っていて、その質と量で組織の全体能力が決まっていきます。なので、ディレクションする人は、何をどのように考えるべきか的確に示すべきで、それによって不毛な労働は確実に減ります。そう考えると働き方改革は、ディレクションの問題だと思います。

箭内: 「なんかいいのよろしく」とかね(笑)。

古川: 「自由に考えていいよ」なんて寛大でいいみたいだけど、実はいちばんダメなCDですね。
いわゆる働き方改革で一番重要なのは、モチベーションの設計だと思うんです。「こんなことやって意味あるのか?」って思わせてしまうのは、ほぼすべてディレクターの責任だと思います。価値が見出せない仕事をさせられることほど、辛いことってないわけで。その話で言うと、ディレクションというのは、どう悩んだらいいか適切な道を示すと同時に、「この仕事やってみたい!」、あるいは「この人と仕事すると成長できる」とか、みんなのモチベーションを押し上げるのも重要な機能だと思います。働き方改革というものは、まず質を語るべきで、量の問題ではないと思います。