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マカロニえんぴつ「メレンゲ」MV
撮影ができた奇跡!

鈴木麻雄さん
プロデューサー/P.I.C.S.

1990年8月14日生まれ。大学時代、知人よりピクスプロデューサーを紹介され、卒業後2015年P.I.C.S.入社。
PM時はMVを中心に、CM、LIVE、OOHなど映像作品を多数担当。

大河臣さん
ディレクター/えるマネージメント

1986年生、東京都出身。
「関わるヒト、すべてが幸せに」をモットーに2011年より映像作家として活動。
VFXや光学の知見を活かした画力溢れる空間演出を得意とし、広告やMV、展示作品など、演出領域は多岐にわたる。

バンドショットは湖上で
見たことのないものをつくりたい

 プロデューサーの鈴木に「メレンゲ」MV制作の話が来たのは昨年12月半ばです。今冬の「JR SKISKI 2020-2021キャンペーン」に使われる楽曲ということで、依頼されたのは「冬を感じさせる」映像であること。かといって、CMイメージである「雪山」とは違うロケ地であること。印象に残るような変わった場所で、ビジュアルとしてパッと記憶に残るような、今回でいえば「氷上のMV」のように一言で言える映像にすること。
 そんな条件をディレクター4名にお話しして、それぞれ企画を出していただきました。そこから選ばれたのが大河案です。それをキーワードにロケ地を探しながら、凍った湖の上でバンドショットを撮れたらおもしろいのではないかというところにたどり着きました。そんなMVを、僕らは過去見たことがなかったので。

 ただ、ロケ地探しは簡単ではありませんでした。北海道まで行けば多々ありますが、スケジュールや予算があります。もっと近郊で、でも北海道に負けない場所。
 なかなか見つからず、フィジビリティ上候補に上がるのはほとんどが雪山。ギリギリまで制作部で探した結果、長野県の女神湖が本州で一番早く氷結し、人が乗ることもできると発見しました。人どころか、1月半ばから2月にかけては氷上ドライブイベントを開催するため、意図的に氷を厚くするのだそう。
 あきらめずにギリギリまで探した甲斐がありました。

すべての障壁をかいくぐった奇跡

 ところが、決まっていた撮影日1月5日というのは、通年女神湖が氷のコンディションを整え始める最初の日だったんです。本来であれば間に合いません。ただ偶然、この冬は12月半ばに氷がしっかりとできていた。ひとつめの奇跡です。
 とはいえ、もし撮影前に雨が降ったら、氷がもろくなるので中2日人が入れなくなってしまいます。雨だけでなく、雪が降ったとしても、今度は氷が隠れてしまい湖上の意味がなくなってしまう。さらに当日晴天ではないと、氷が鏡面化せずコンクリの上のように見えてしまいます。
 年間の晴天率が高い場所だから、とそれを信じてかけに出ましたが、スタッフはみんな祈るような気持ちで当日までを過ごしました。幸いにも、すべての条件がクリアされて撮影に臨めたことは、まさに奇跡!
 もう一点言えば、数日後に緊急事態宣言が発令されました。もしかぶっていたらやはり、できなかったことでもあるのです。

滑らない長靴のエキスパートに

 氷の上で撮影なんてしたことがなかったので、「滑らない靴」を総出で探しました。リハーサルのときに10種類の靴を持ち込んで、ディレクターも率先して履き「どれが一番滑らないか」を検証しました。勝ち残った靴をスタッフ分50足用意して、本番に臨みました。
 こうやって今までにやったことのないことばかりしていると、新たなノウハウが毎回生み出されていきます。ピクスでは各制作陣横のつながりを密にしていて、情報交換をするようにしています。案件の当事者が煮詰まっても、周りのアドバイスで解決するのは日常茶飯事です。

 当日は広大な湖上でドローンも使ってダイナミックに撮影したので、PM(プロダクションマネージャー)は7人を配備しました。いくら滑らない靴とはいえ氷の上で走ることはできないので、エリアをブロック化して統率をとって。7人でもギリギリでしたね。
 一度突風で資料を飛ばされてしまって、端のほうまで追いかけたスタッフは「氷がきしんだ」と言ってました。割れて落ちるようなことはないと思いますが(笑)。
 制作がギリギリまで粘ってあの場所を見つけた、そこでしか撮れない見栄えをいかにつくるか意識した。その甲斐のある結果が出せたと感じています。

〈特別対談!〉プロデューサー×ディレクター×ACCtionアートディレクター

ここからは、ACCtion編集を担当する電通の一森アートディレクターが、顔見知りのよしみでおふたりにあれこれ聞いちゃいました。

制作チームのマインドが
映像を決める

一森: この作品の成功は、さまざまな条件が満たされることが前提です。奇跡が起きて、満たされた。それって信用されていないとやらせてもらえないですよね。チームに信頼がないと。

鈴木: だからこそ、画のためにギリギリまでロケ地探しをしたとも言えます。

大河: 例えば今回のグループチャットをさかのぼると、「このタイミングですみません、いい場所を見つけてしまったので共有します」とある(笑)。大変なのに、ノリノリでがんばってくれている。制作部一人一人が、僕ら演出部や技術部と同じ気持ちでがんばってくれているんだととてもうれしくなりました。
 これは、鈴木君がPM時代にそういうマインドでがんばっていたから、後輩たちに伝わっているんだと感じるんです。

鈴木: PM時代は、PMが画を決める50%を担っていると思ってやっていました。

大河: 作品が世に出て取りざたされるのは監督だったりします。でもそこにたどり着くまでの道のりのほとんどを作るのは制作部で、制作部のがんばりは100%画に出ます。だから常々、「一人一人が画に関わっている自覚を持とう」と話すし、スタート地点を作ってくれる制作部に感謝と敬意があります。

演出とPMの信頼関係

一森: おふたりの関係は長いんですか?

鈴木: P.I.C.S.に入社して1年目から大河さんにお世話になっていますね。
大河さんは、カメレオン的というと稚拙ですが、クライアントさんごとに言われたことをちゃんと面でとらえて、そこに自分のよさを当てていく方です。どの案件も真摯に向き合ってくれて、似た作品がない。そしてCGがとにかく上手なんですよね。

大河: 恥ずかし。

一森: 大河さんからも鈴木さんに告白してください。

大河: (笑)もともと鈴木君は「映像大好き!」という人間ではないんですよ。でもそこがいい。素人代表というマインドがあって、映像のプロの視点だけでなく、コンシューマーの視点を忘れずに持っている。それは大事なことだと思うんです。あと、前に一緒に飲んだとき、どれだけ勉強してるか、どれだけ作品を見て、そのチームを覚えているか、酔っぱらって語ってくれたよね。それは一緒に仕事していてわかります。

鈴木: 僕はスタートが劣等感なので……。グラフィックも映像も、一切勉強していない状態で入社しているんですよ。「映像大好き!」って、こんなに周りにディープな方々がいるなかで、とても言えません。

(笑)

 だから、胸を張って「映像が好き」と言えるようになるために勉強しています。まだまだ発展途上で。

大河: ただし、楽しくはあるんだよね。

鈴木: それは、もうめちゃくちゃ楽しいです。仕事でストレスとかないですもん。

一森: 業界のすごい人たちのなかで、劣等感は誰もが抱えていますよね。今日は、勉強しようって思わされました。ありがとうございました!

text:矢島 史