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箭内: つくり手の怠慢じゃないけど、熱量と違う場所で仕事しちゃってるんじゃないですかね。

山崎: うん、そうだと思う。

多田: さっき未知なる場所はどこか?という質問に何故スポーツ選手の話を出したかっていうと、自分にとっての今感じる未知なる場所は「その先に世界が地続きで繋がっているかどうか」ってことだからなんだよね。スポーツや音楽とか日本がこれまでただ憧れていたフィールドがあって、今やそこで奇跡を起こすことが可能な時代になった。それなら俺たちもできるって考えてもいい、ということなんだよね。できないかもしれないけど、考えてもいいはず。

山崎: おお、今起こっている漫画みたいな出来事を自分ごと化する。うーん多田らしい。いいね。
大谷選手が2刀流を目指すと言った時に、「なに寝言みたいなことを言ってるんだ。プロを甘くみるな」と全否定した老人の野球関係者がいたけど、結果今だもんね。
「(沈みゆく)広告界でなに夢物語言ってんの?」って冷めた人もいるかもしれないけど、結果がすべて。

多田: 本田圭佑さんがワールドカップ優勝をマジで目指す公言していたよね。あれも実は「自分が」とは言ってなくて「日本が」と言っていた。同じように僕がそれをできるといい出したんじゃなく、この業界が日本の中だけでぐるぐる回ってる感じを無くしたい。そうすればその先に出てくる結果が変わってくるはずだから。

山崎: それを実現する制作者が出てきたら、風向きは変わるし可能性はゼロじゃない。おじさんなんか急にウキウキしてきたな(笑)もう既存の枠の中で頑張ろう、ではモチベーションが上がらない人も多いだろうし。世界に向かう時、向こうに合わせるのではなくてドメスティックを突き詰めた方がいいんだろうね。

箭内: そうですね。「世界一を目指さないのは君の怠慢」という歌詞を山P(山下智久さん)に書いたことがあって、同じことを東京藝術大学の学校案内にも書いたんだけど、まさに「できっこない」という先入観と早合点を、鮮やかにぶっ壊してくれる誰かが現れることで世界は次に進みますよね。多田さんや山崎さんにはそこに挑んで欲しいな。世界中の人たちが「無理」と思い込んでいることを、世界と互角に、じゃなくて「世界一の世界初」を。WBC決勝試合前の大谷翔平の至言「憧れるのをやめましょう」のように。

多田: 俺たちが、というより正直若い人ほどチャンスがあるよ。これだけ情報化社会の中で、いくら日本がFAREASTだとしても、今の世界のことはそこそこ体に入っているはず。世界をある程度吸収した上でのドメスティックだよね。そのための武器は「短さ」と「笑い」だと思ってる。ここで言ってる「世界」というのは、レベルの差を言ってるんじゃない。昔、なんとかカンヌで賞を取りたいと思っていた憧れではなくて、単純に活動のフィールド。
エンタメにおいて、予算は圧倒的な差はあるけどアイデアで日本が負けているとは思わない。
「笑い」でいえば今の若手はめちゃくちゃ高度なことをやっていると思う。漫画だって日本のものはストーリーがぶっ飛んでて面白い。圧倒的なオリジナリティがある。だから「笑い」で山崎は世界を制覇できるかもしれないよ。

山崎: いやいや俺はダメだけど、たしかに「笑い」は日本の武器になるよね。(ゆりやんとか明るい安村とか)この前のキングオブコントのサルゴリラも面白かった。

多田: 「サカナ」という単語1つであんな笑えるかね普通(笑)。

箭内: (笑)そう、ましてクリエイティブやアートは体格も関係ないし。

山崎: 「漫画」も日本強いよね。そういえば、この前小学館の新人コミック大賞を受賞した漫画家で広告代理店のプランナーしている若い制作者のひとがいたな。
そういう才能を持った子たちも活躍できるかもしれない。ちなみに「短さ」って?尺のこと?

多田: 単純に尺のこともあるけど、つきつめると「凝縮度」ということかな。日本ってゆるくつくられて、「まあこんなもんでしょうコレは」とされていたモノをぐっと凝縮して完成させるという才能が昔からすごいんだと思う。短歌、川柳しかり、その延長にコピーもあるし、CMだってある。
凝縮されて密度の濃い笑い、というものでは世界一なはず。それは世界からしたら逆に未知なるもので、こちらからすれば真っ新の更地に見えるんだよね。

箭内: 仰る通りだと思います。

山崎: なるほど。集中持続時間が短いいまの視聴者と濃縮されて密度の濃いコンテンツは相性いいと思う。
昔に比べて広告の数がものすごく増えて予定調和の広告が大量生産された結果、広告の嫌われ方はハンパない。メッセージを尺のなかに入れることに必死で、みたいものへの変換、短尺のエンターテインメントがなされてないもんね。
さっき多田が言った「人がみえない場所にポジションをとるのが広告の定石」という原点も、なんとなく忘れてしまってる気がする。いまないものをやる、という身近なハードルを設定するだけでもかなり広告の質は変わってくると思う。意外性には視聴者を集中させる力があるから。みる人をあっと驚かせるあの快感を味わうと、やめられない仕事なんだけどね。
最近は左脳的企画書だけで仕事を完結させる傾向にあるからアウトプットが広がらない。最近広告の離職率も高いと聞くし、自分がいま大学生だったらこの仕事を目指すかなと思う時もある。
なんか面白そうなことができそうな気配がないから。

多田: いずれにせよどこかで見たようなもの、聞いたようなものが世の中をガラッと変えたことは、どんなジャンルであろうと一度もないと思う。広告はその力が目的に直結していく仕事で、しかもチャンスがたくさんある恵まれた場所だということを、若い人は特にシンプルに捉えた方がいいと思う。

箭内: ここからが広告の可能性と真髄がまさしくピュアに問われる時ですよ。広告がネットで嫌われ、関心を持たれなくなったり、胡散臭いと言われたりしても。逆に今がチャンスだと思います。広告クリエイティブをつくる能力と稀有なバランス感覚は、もっともっと社会に、世界に、役立てていくべきですね。

山崎: 個々の制作者の未知なる場所はそれぞれあると思うし、そこを掘ることで制作者自身がワクワクしてテンションやモチベーションが上がる方向に向いていけば、結果この仕事がもっと楽しくなる可能性は、きっとあるはず。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター
1964年生まれ。59歳。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科教授

多田 琢(ただ・たく)

クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
1963年9月20日生まれ。
87年早稲田大学第一文学部卒。同年(株)電通入社。
99年クリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を設立。
大和ハウス「ダイワマン」「かぞくの群像」、サッポロ黒ラベル「大人エレベーター」、YMfg「企業」、ロト「ロトもだち」などのシリーズCM、ペプシ 「桃太郎」など。また『新しい地図』のブランディング、映画の原案・脚本やSMAPのビジュアルディレクションなども手がける。

山崎 隆明(やまざき・たかあき)

株式会社ワトソン・クリック
クリエイティブディレクター
京都府生まれ。日大芸術学部卒業後、電通入社。
2009年Watson-Crick設立。
クリエーター・オブ・ザ・イヤー、ACCグランプリ・ベスト企画賞、TCCグランプリ・最高新人賞、
ニューヨークフェスティバルほか受賞多数。
SMAP『チョモランマの唄」、関ジャニ∞『Candy My Love』などの作詞・作曲も手がける。