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箭内: なんとなくアーティストみたいな感じですよね。多田さんって、個人的な興味や未知なるものへの関心を、針の穴を通すように商品と結びつけるじゃないですか。それってどうなってるんですか。

多田: 通ってるのかなあ?

山崎: それは多田の稀有な才能。グッと引きこむ力がすごい。で、興味さえ持ってもらえれば、最後商品のことを言ったときにすごく印象に残るじゃない、人間って。逆に頭からワーッと商品のことを言っても、うざいなあという読後感だけが残ることもある。多田がつくるものはやっぱり多田でね、人が真似できるものではない。

箭内: 唯一無二の芸術家ですよね。

多田: いや、そういうことじゃなくて(笑)。まあ、時代はもっとライトじゃないですか。

箭内: そう思います。

多田: ライトにつくってライトに楽しむ、みたいなね。「そんなに攻めてこないで」という空気の中で、とはいえライトなものでいいやと思えない。ライトでも、“軽犯罪的”なライトってあるじゃない? 面白おかしいギリギリを狙うというか。まあ、箭内もよくやってたけど。

箭内: すみません、やってました(笑)。

多田: 僕も同じような時期に軽犯罪的なものをつくってたんですけど、いまってそういうものを受け入れる感じがないよね。もちろん、いま、そういうのをやりたいとも思わないんですけど、映画もみんな早送りするし、最初から結末がわからないものは観たくないと言う人も多い中で、じゃあ、その人たちに合わせて、そういうつくり方で映画や広告をつくればいいかと言うと、そうじゃなくて別の場所がある気がしていて。

箭内: そうじゃないヒット作もありますよね。

多田: うん、「トップガン(マーヴェリック)」みたいに、トム・クルーズの情熱だけでつくったような映画が突然ボーンとヒットしている。宮崎駿さんのもすごいよね(君たちはどう生きるか)。つまり、アンチじゃないけど、何かが出てきたらそのカウンターも生まれてくるわけでしょ? 僕らが最初にちょっと広告でふざけてた頃っていうのも、その前の時代の真面目ないい作品に対する反動でもあって。あの頃はそれが未知だったし、人が見えない場所にポジションを取るのは広告の定石でもあり、それが自分にとっても快感だったわけ。

箭内: パンクですかね? みんなが歌ってない歌を歌うみたいな。

多田: 囲碁の盤面で言うと、世の中が陣取りをしている中で「ここガラガラじゃない?」っていうところに石を置けるかどうか。それが面白いところだとすると、いまライトな時代だよねっていうことは、そこに碁石がいっぱいあるのかもしれないけど、新しく見える場所がそこから離れたところにあるはずで、それを探したいんですよね。

箭内: いまで言うと、どういうところに未知を感じます? 別の場所というのか。 

多田: 例えば、スポーツはいますごいじゃない? 直近で言うと、日本のバスケがここまで行けるんですか? っていう話から、少し前だと三苫(薫)が世界のトッププレイヤーになるんじゃないかとか。大谷(翔平)にしても、世界一のベースボールプレイヤーが日本人から出るなんて、自分が生きてる時代にはないだろうと思っていたことが起きてるわけですよね。
音楽の世界で言っても、もしかしたら「BE:FIRST」は「BTS」の次を狙えるかもしれないし、韓国で訓練した7人組の日本の女の子たち(XG)が全米のトップチャートに入ったでしょ?

山崎: XGは正直ちょっと衝撃というかうまくいくんだとビックリした。K-POPが席巻しているなかでの日韓合同プロジェクトみたいなのってみんな考えがちだし、ヘタしたら企画倒れになってもおかしくないじゃない。で、その結果をみてみんながネガなことを好き勝手言うみたいな。それが独自の世界観をつくっていきなりMV解禁して世界をざわつかせた。すごいよね。アウトプットのチカラ。

多田: そのための戦略も必要なのかもね。「BE:FIRST」なんかはそこから結構ちゃんとやってる。いい曲をつくって、いきなり「ほら、どうだ!」って投げるんじゃなくて、仲間を取りこんで、自分ごと化させて、共有する仕組みやメソッドからつくっているというか。
ただ、それも本質はメソッドっていうよりも、SKY-HIの日高(光啓)っていう人間の信念と熱量というかね、このままじゃ日本の音楽界は衰退する、日本発で世界に通じるボーイズグループつくりたい、能力があるのにデビューできない人たちがいっぱいいるーーみたいな想いから生まれているものであって、それがあるからこそ仕組みがワークするんだってことも、すごく勉強になった。だから広告でも、単純に自分が好きな何かを届けるんだっていう話ではなく、そこの新しさみたいなものは吸収した上での熱量みたいなもの。それが大事なんじゃないのかな

箭内: でも、そもそもはやっぱり熱量なんですよね。

山崎: SKY-HIの日高さんの話を聞いてて思い出したのがTBSのドラマをつくってる福澤さん。日本のドラマに危機感を覚えてたとえ視聴率が低くても人を描く骨太なドラマをつくるべきと主張してつくったのが「半沢(直樹)」。結果大ヒットしたよね。あれ、当時のヒットドラマの法則に全く当てはまっていなかった。暗い銀行員の話だしね。最近も「VIVANT」つくってたけど熱量を感じた。

たとえば「NewJeans」もクラップとリズムメインで構成された楽曲と彼女たちのギャップに衝撃を受けてなんでこんなグループができたんだろうと思って調べたら、「少女時代」のジャケットのアートディレクションをやってたミン・ヒジンが、世界観から楽曲の方向性まで含めて全部一人でディレクションしたいと言って実現したグループだった。まさに個の熱量。それが当たるか、当たらないかというのはまた別の話である種の勘と言うか。

多田: そうだよね。当たったあとで「NewJeans的」なことをやりましょうというのは、たぶんOKなんですよ。だけど前例のないときに「NewJeans」をイチからつくりましょうということに関しては、おそらくネガな意見や忖度もあっただろうし、ものすごい熱量が必要だったと思う。やっぱり最初に出たものってだれもわからないから、「えっ!?」って思われちゃう。でも、「えっ!?」て思わせることって、広告ですごく大事だったりしない? そこの部分を皆さん、もうちょっとご理解いただきたい。「わからない」ということで蓋をするんじゃなくてね。