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箭内: 演劇のほうはどんな感じなんですか。

山内: 12月に「ワクチンの夜」っていう新作の公演があるんです(城山羊の会)。これはですね、2回目のワクチンを打った夫婦がいて、奥さんがその夜に発熱するんですけど、夫のほうは全然平気で、その家の義理のお父さんがいろんなことを言い出してーーという、なんてことのない話なんですけど。
先ほども言ったように、ワクチンに対して批判をしたり、肯定したりは一切なくて。ただワクチンを打ったら発熱したという。でも、その行為自体は案外ドラマチックなことで、そこからいろいろ出来事が波及していく。そういうお芝居です。

箭内: 新作が目白押しですね。でもCMの頃から、山内さんって"作品"をちゃんと残してるなって、僕ら周りから見て感じてました。ちょっとコンコルドに話を戻させてもらうと、あのシリーズはみんな大好きで、胸がすくような思いをしている気がするんです。時事ネタをただエッジとして使ってるんじゃなく、短い尺の中で「人間ってヤツは…」は、ということを感じさせてもらったり。勝手な解釈ですけど、山内さんが世の中がちょっとよくなったらいいと思うよって言ってくれてるような気がして、気持ちが救われるというか。

山内: 僕自身には「世の中がよくなったらいいな」という気持ちはあんまりなくて。CMとしての落としどころを守っているつもりなんです。だから、コンコルドが救ってくれるとか、希望を持たせてくれるっていうふうにはしたい。

箭内: なるほど。コンコルドが救っているんですね?

山内: そう。

箭内: でも、チャーミングに仕上がってますよね。それは山内さんの自身の持つチャーミングさだと思うんですよ。怒りに髪を逆立てながら殴り書きする、みたいなことじゃなくて、「こんなのどうですかー?」っていう。その感じが、いま、世の中にすごく足りないような気がして。そのあたりって、どういうふうに考えてらっしゃるんでしょう?

山内: どうなんですかね?
いまの話を聞いて思い出したのは、ナンシー関さんですかね。ナンシー関は僕はとても好きで、ナンシーさんが亡くなった頃(2002年)から、なんか世の中がつまらなくなったというか、ぎすぎすしてきた気がして。

箭内: そっか、ナンシーさんか。

山内: ナンシー関さんを目指してるわけではないんだけど、いまの話を聞くとね。ウィットとか、そういうことですよね?

箭内: 確かに一気にウィットがなくなりましたね。ナンシーさん亡きあと。

山内: そんな気がしますね。ほかにもあると思うんだけれど、あそこがあからさまな分断の始まりだったというかね。

箭内: あからさまな分断は今日のこの瞬間もどんどん増えていってますから、コンコルドになんとかしてほしいって思ったりね。

山内: それでね、コンコルドはついに辞めたんです。

箭内: えっ?辞めたんですか!
なんで辞めちゃったんですか?

山内: コンコルド側はやってほしかったんですけど、もう22年ですからね。さすがに、僕からお願いして。

箭内: うわあ、それはCMという文化にとっての大損失じゃないですか。

山内: そうですか?

箭内: ちょっと待ってください。それ、考え直すとかないんですか?

山内: うーん、やっぱり、ビンボーな創作にもっと集中して入りたかったんです。コンコルドはね、企画から入るでしょう? 何カ月もとられて相当疲れる。撮影も大変だし。

箭内: コンコルドが断られるんだったら、もうだれも山内さんにCM、頼めないですよね。

山内: いや、わかんない。昔と全然逆で、企画があるほうがやれる可能性あります。ゼロから入っちゃうと本当に大変だから。コンコルド以外で最後にやったのは澤本(嘉光)さんで、静岡新聞(超ドS静岡兄弟篇)。

箭内: おじいちゃんがカラダを鍛えるやつ?

山内: そうそう。あれは大もとに澤本さんの企画があったから入れた、というのはあります。

箭内: なんか寂しいような。我々の自業自得のような。

山内: いやいや。全然。演劇をやりながらいろいろできればいいんですけどね。やれる人もいるじゃないですか。宮藤官九郎さんとかドラマの台本書きながら、演劇の台本も書いて、バンドもやって、みたいな。すごい人がいるわけですけど、なかなか真似はできないです。演劇に移行してからも、ソフトバンクとかはやってたんですけど大変すぎて。あるとき夏がすべて潰れてしまって演劇ができなくなっちゃって。それで、これはもうダメだなと。

箭内: 演劇って、僕はそんなにたくさんは知らないんですけど、宮藤官九郎さんの演劇のポスターつくったり、パンフレットつくったりとかしていて面白いなあと思うのは、キャストの人の写真を撮るときに、まだ何も決まってないんですよね。本番の衣装なんかもわからないまま、どんな撮影をするか決めなくちゃいけなくて。だいたい、みんなそんな感じなんですか?

山内: 演劇はまったくそうですね。まず劇場をおさえるんです。次がキャスティング。それからタイトルで内容は一番最後ですから。キャスティングとタイトルが決まってから書き始める。

箭内: ある意味、フルで当て書きなんでしょうね。

山内: 当て書きですね。だから演劇というのは、ふたを開けてみたら失敗だったということもよくある話。チケットは全部売れているのに「なんだこりゃ?」みたいな。

箭内: へえー、でも、面白い世界ですね。広告とは全然違うというか。

山内: そうなんですよ。僕の場合、20年くらい広告やってから演劇に入ったじゃないですか。でも、広告をやっていたことの蓄積とかノウハウが、なんにも生かされないんです。本当にゼロになってやるしかなくて。ライバルも何十歳も下の若い作・演出家だったりするわけですよ。