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箭内: 佐々木さんと言えば、散々いろんなインタビューでお話されてると思うんですけど、JR東海の「そうだ 京都、行こう。」。これは何年続いてるんですか?

太田: 25年ですね。

箭内: キャッチが「京都へ行こう」ではなく「京都に行こう」でもなく、「京都、行こう」になった経緯については諸説聞きますけど。

太田: 最後に「に」を外したのは佐々木さんだったと思います。話すときってふつう「ごはんを食べよう」とは言わないで 「ごはん食べよう」って言いますよね。それまで冷ややかにコピーを待っていたプランナーの安西(俊夫)さんも「なるほど、それは発見だな」と賛成してくれて。そのあとすぐにチームから抜けちゃいましたけどね、安西さん。佐々木さんも10年くらいで。

箭内: 太田さんは最初から現在まで?

太田: ええ、こういう"ガイド"をひとつ持ってるのは面白いですね。ずっと続けてると。

箭内: それだけ長くやってると、聞こえ方や見え方も、変わるものと変わらないものの両方あるんじゃないかと。

太田: そうですね、結局、京都という"分母"は変わらないですよね。桜や紅葉はいつの時代も同じなわけで。そうなると係数は変えるしかないでしょ? 45、50、55と自分の年齢は変わっていきますし、自分がさらされる時代も変わっていく。さっき年齢は意識しないって言いましたけど、逆にそこに対しては非常に自覚的にならざるをえませんから、訓練としてはとてもいいですよね。このキャンペーンが私を育ててくれたというか。

箭内: せっかくだから聞いてみたいんですけど、25年「そうだ 京都、行こう。」と言い続けてきた太田さんオススメのスポットって?ちょっとそれ聞いてみたいですね。「3時間しかなかったらここ行きなさい」みたいなのあるんですか?

太田: それ、みんな聞くの(笑)。あのね、私だったら一乗寺あたりの曼殊院とかね。あと時間がないときは青蓮院。青蓮院って知恩院と平安神宮のあいだにあるんですけど、天皇家由来のお寺だからとても上品だし、そことか行くといいんじゃないかな?まあ、私なんか「京都のどこがいいの?」と思って飛び出てきた人間だから(笑)。

箭内: そうだ、京都ご出身なんですね。

太田: はい。それが仕事で強制的に行くようになって、「いいな」と思ったのは平等院。そういうのを馬鹿にしちゃいけないというのをつくづく思わされました。あとは大徳寺の塔頭の一つである高桐院ですかね? 聞かれたら「時間の許す限りそのあたりをめぐったらどうかな?」って言いますね。

箭内: ありがとうございます。今度「太田恵美コース」を体験してきます(笑)。すみません、クリエイティブの話に戻すと、太田さん、最近はどんな仕事を。

太田: サントリー天然水の宇多田(ヒカル)さんのシリーズとかアニメーションシリーズ。その仕事はすごく面白いですね。値段にすると100円くらいの水なんだけど、「未来につながる命」を売ってるんだということを、ブランドに関わるみんなに自覚してもらう作業から始めていて、そこをみんなでキチンと議論した上で形にできているから。
あとGINZA SIX。そして最近しんどい思いしてやっとできたのが「ホンダのワンオク(ONE OK ROCKが出演、音楽担当のCIVIC「Go, Vantage Point」)」。珍しくあれは60秒の長尺物だったんですけど、最初はコワくて。

箭内: コワいというのは?

太田: クルマとのリレーションがない若い人たちに、ホンダへの愛着を持ってもらおうという狙いなんですけど、そのときに「テキストがどれくらい機能するのか?」っていう不安があって。周りもクライアントも大丈夫だって言ってくれたんですけど、YouTubeに上がったら絶対ネガな反応してくるだろうと。あえてコメントも書けるようにしてますから、何言われるんだろうと覚悟はしていたんですけど、あのナレーションに対して「鬱陶しい」という声はほとんどなくて、写経のように書いていたりする若い子までいて。

箭内: へえー。

太田: もちろん、あのCM嫌いだっていう人もいるんだけど、ホッとしたし、うれしかったんですよね。公開前はドキドキしてたんですけど、ああいうところでさらすのはいいことですよ。でも、すごいですよね? そんな仕事を私に(笑)。いま66歳なんですけど。

箭内: いやー、お話うかがってると、自分が大企業の社長だったら、太田さんの意見をまず聞いてみたいと思います。叱られるとしたらどこかな?みたいな(笑)。足りないところを指摘してくれそうな人っていう感じがあって。

太田: そうですか?自分でも自嘲気味に言うんだけど、私、何書いても「檄文」になっちゃうの(笑)。

箭内: でも、年齢のことを言うのは失礼だとも思いつつ、66歳でワンオクのね、強さを知ってるというか、その感度っていうのはなんなんですか?

太田: 正直に言うと、最初に自分からアクセスしたわけではなく、「新しいメッセージを誰の口を介して言わせるんだ?」ということで、様々な人を考えていくうちに彼らの話も出て、NHKの番組を見たり音楽を聞いたりしました。それで「なんて歌が上手い若者だろう」と。歌が上手いというのはスペシャルなものですよね。歌が上手くて声がいいというのは間違いなく、何か伝える才能があると私は睨んでいますから。
それでいろいろ調べるうちに「なんて魅力的なんだ」と思って、そこから彼らに「うん」と言ってもらうための打ち合わせの用意をしたり。そうやって結果的にはよかったですよね。

箭内: じゃ、一発OKということではなく、いろんなやりとりを重ねてあの1本目ができたと。

太田: ワンオクには彼らをしっかり育てたいと思うスタッフがついていて、この企画が彼らのためになるか? と向こうも真剣に考えますし、そんなに簡単に消費されてなるものかという思いだってあるでしょう。カッコ悪くならないか? と。基本的にはコマーシャルってカッコ悪いじゃないですか。

箭内: 魂売ったと言われるようなね。

太田: それもあるし、魂売らないフリをするカッコ悪さっていうのもある。その両方を気にかけながら、非常にビミョーなところでつくっていく必要があって。

箭内: いや、あれ素直に「いいなー」と思ったし、それと同時に「チェッ!」とか思いましたね(笑)。