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クラシエホームプロダクツ『いち髪「日本の四季」篇』
見たことのない映像をつくるためには
見たこともないような撮影をするしかない

1年をかけ、桜の周りを回りながらのコマ撮りで制作されたクラシエホームプロダクツ「いち髪」のCM「日本の四季篇」。撮影日数85日、計800時間、撮影カット数2万5千枚。人物も含めた自然の美しさを最大限映しながら、タイムラプスのようにつなげて映像にするという未曽有の撮影。自然相手だからこそのミラクル、そして“逆”ミラクルに立ち向かうのは制作陣の熱意と根性!

宮本 卓(株式会社 AOI Pro./プロデューサー)
1992年 東京生まれ
大学卒業後、2016年AOI Pro.入社
PMを経て、2022年にプロデューサーに。
本作でACC賞のプロデューサー賞を受賞。

伊藤 元(カメラマン)
アメリカ・サンフランシスコ出身。
UC San Diegoで映像学んだのち、映画・ドキュメンタリーの現場で働き始め、2008年に日本に拠点を移す。バイリンガルカメラアシスタントとしてCM・映画・ MVの現場を多数こなし、映画 「そして父になる」で瀧本 幹也氏に師事する。
2019年に独立、日本・海外でカメラマンとして活躍する。

コマ撮りとタイムラプスの融合
日本の巡る季節を美しく描きたい

2022年9月のオンエアに向け、1年以上前から企画が動き始めました。クラシエホームプロダクツのヘアケアブランド「いち髪」という商品は、日本特有の植物、桜やなでしこ、明日葉といった自然の恵みが成分。CDの福部明浩さんが、「日本の四季365日を、カメラを360度巡らせて表現したい」と軸を伝えてくれました。
大前提とされていたのは、「クラフトにこだわる」ということ。CGではなくリアルで、1年の変化を撮っていきたいということでスタートしました。
当初は、コマ撮りを重ねてタイムラプス風に360度から桜の木を撮っていくというコンテだったのですが、監督の田中嗣久さんと演出について話す中で、人物も含めてコマ撮りしていこうと企画のジャンプアップがありました。
ただ、どうやって撮れば形になるのか誰にもわからない状態。見たことのない映像をつくるには、やったことのないことをするしかありません。メモ書きのようなコンテを、スタッフの熱量で積み上げて撮っていった作品です。

最初の難題は、ロケ地探しでした。
広い草原に桜がぽつんとあって、横に鉄道駅があるというのが理想の場所。主演の永野芽郁さんが電車に乗って去っていくシーンを想定してのことでした。鉄道駅の隣に草原のある場所を全国で探して、よさそうなところを発見。そこに桜の木を移植しようとなりました。
ところが、最終的に撮影許可が下りず断念せざるを得ない事態に。移植する桜の木の目星もつけていたのですが、肝心の場所が決まりません。もう撮影準備を始めないと、最初に撮影する予定の「秋」が撮れない。こうなればセットの駅を建てようかという案も出たのですが、正直難しい。秋を逃してしまえば納品も間に合わない。監督としては「電車で去る」にこだわりたいところだったのですが、最終的には「バスで去る」に変更し、候補地の範囲を大きく広げました。

山形県の前森高原がよさそうだとロケハンしていた際、美術スタッフがすぐ近くでいい桜の木を見つけました。当初は前の候補地周辺で見つけた桜を持ってこようと話していたのですが、何百キロも移動させるより、70メートルくらいの移動で済むならそれに越したことはない。翌年にきれいに咲いてくれなくては困るので、土や気候など環境が変わらない場所に移した方がリスクも減らせます。
近くでよい形の桜を見つけることができたのは、本当にラッキーでした。移植は時間がかからないほど、木のコンディションがいい状態のまま行えるからです。移植は桜の博士に立ち会っていただきながら慎重に進めました。それでもイレギュラーな時期や条件での移植であったため、必ず満開に咲く保証はありませんでした。

草原のどこに移植するかは、カメラマンの伊藤がコンテのアングルを切りながら決めました。どこなら紅葉の時に山の抜けがいい画になるか、冬に雪の積もった山がどう見えるか、すべては予測で。実際に秋になってから「もう5メートル右だったな……」となっても後の祭りなので、位置決めは大きなプレッシャーでした。位置だけでなく、桜のどこを正面とするか? 最もきれいに抜けが見える状態で桜をどう見せるか? 美術の桑島(十和子)さんと相談しながら、植える向きを考えました。どう咲くのかわからないまま、これも予想で。

紅葉しない! 
撮影方法が五里霧中!

CM30秒を制作するときに、撮影日数は通常長くて4、5日。それが今回は、1年分の香盤を切らなくてはいけません。季節ごとに何日必要なんだ? 紅葉はいつから始まって何日で染まりきるんだ? 雪はいつ降る? 花はいつ咲く? というところから、現場の植物を見て、専門家や現地の人に相談して。予測でスケジューリングをしていく難しさがありました。植物によってタイミングは違うし、自然の移り変わる時期も毎年違いますから。

季節ごとに1日ずつ通って、撮って、あとはCGでなんとかするという方法もあったかもしれません。でもそれでは「きれいにCGできたね」という映像で終わり。できる限りの時間と予算の中で、リアルに本物の自然を撮るということが大前提です。

ただ、自然相手は本当に先が読めません。最初に撮影する秋篇から、洗礼を受けました。リサーチを重ね、計算をして、紅葉を撮るため現場入りしたのですが、10日経っても全然山が色づかない。
仕方がないから、1~2週間後にもう一度戻ってきて撮影しました。
この時点で、どれだけやってもまったく計算ができないということが身に染みてわかりました。最初は大勢のスタッフで撮影をしていたのですが、想像以上にスケジュールが読めず、全員の予定を都度押さえていくのは困難。少人数の制作体制にシフトしていき、最終的には10人くらいのチームになりました。最初は「大作だ!」という雰囲気だったのに、冬ぐらいには「自主制作?」という様子。コアメンバーのみに絞って逗留です。
逆に、少人数だからこそのよさもありました。つらいことでも、一体感をもって乗り越えられた。全員が自分の役職以外の仕事でも協力し合っていました。

自然も未知なら、撮影方法も未知。「普通はやらないよ」という、非常にアナログで地道な手法をとりました。
タイムラプスは通常、カメラを固定して被写体が動いていきます。今回は、カメラが木の周りをぐるりと動き続ける。ぼこぼこの地面の上で、レールを敷いて長期間置いておくのは現実的ではありません。タイムラプスチームと相談しながらスタート位置と円周を決め、レーザーで水平を計りながら1コマずつ三脚の高さを調整して撮っていきました。高さを出したかった冬のシーンでは、イントレ(移動式の足場)にカメラを乗せてクレーンワークのように撮りました。高さを出すのはカメラマンの伊藤の発案で、スタッフは「何を言いだしたの?」という顔でしたが、本当にがんばってくれて。吹雪の中イントレを数センチずつ動かしながら撮影しました。

ワンカットのために何枚撮るかの計算も、難しいポイントでした。2秒10フレームのカットだとすると、1秒24枚となれば、48+10で58枚の画を撮らなくてはならない。太陽がこの位置でスタートして、あの位置で終われば紅葉がきれいに入るとねらっても、それを58に割り振って撮ってつなげてみると、すごい速さになってしまう。情報量が多くて、見ている人は目が回ってしまうんですね。
最初は、適切な速度のタイムラプスにするためどう計算したらいいのかもわかりませんでした。あとから、一度テストで、スタート点からエンド点を決めて動画を撮って、スピード感や距離感を測ればいいことに気づいた。テストの動画からスタート点、レンズ高、振り角、アングル、エンド点を決めて中間を何枚か撮って、タイムラプスチームが細かく計算します。ワンカットずつ数値を出して撮っていきました。
太陽の角度、紅葉の進み方、撮るときの各種計算……総じて、数学と理科でした。

雪、今降る!?
20年に一度の5月の大雪――うなだれている暇はない

冬篇では、「初雪が降って草原に積もっていく」シーンを捉えようとしていました。いつも12月に初雪と聞いていたので、そのつもりでスケジューリングしていたのですが、まさかの11月にどっさり積雪。2メートルくらい積もってしまいました。撮影日までに解けることを期待したのですがなかなか解けず、ようやく解けたと聞いて勇んで駆け付けたら、着くまでにまた降って。
スタッフはそれぞれほかの仕事もあるので、何度も招集していられません。もう解けるのを待ってはいられないと、全員で雪かきをしました。除雪車を入れられるところは入れたけれど、草原をひたすら体力勝負です。AOI Pro.の元野球部、元ラグビー部の若手たちに来てもらい、監督も誰も彼も、ポジション関係なくみんなで雪かき。その間にも吹雪が始まってしまうし、マイナス7度のなかで本当に大変な作業でした。
キャストの東ヨシアキさんも、冬が一番大変だったと思います。撮影中は一か所に立ったまま、足跡をつけられないからあまり動いてはいけない。彼は雪かきから何からすべて協力してくれて、いわゆるスタッフとキャストという関係ではなく、一緒に映像をつくるチームの一員でいてくれました。

春のシーンの撮影日は5カ月前に決定していました。そこで桜が満開になっていなくてはいけない。リサーチをいくらしてもダメなときがあることは実感しているし、移植の負担で桜が咲くかもわからない。本当に賭けです。
桜博士が現地に見に行き「つぼみが開き始めたよ」と教えてくれて、少し早いけど大丈夫か?とヒヤヒヤ。スタッフが現地入りしてアングルチェックをしているときが満開で、永野さんが来る前にちょっと散り始めて。しまいには本番2日前に積雪が! それも、20年に一度の5月の大雪でした。
僕らは、「桜もなんとかもちそうだね」と逗留先の旅館でおいしく夕飯をいただいていたんですよ。「雪ちょっと降ってるね」なんて話しましたが、まさか大雪とは思わないから。それが、朝起きたら30~40センチ積もっていた。もう、絶望ですよ。

桜の枝も、雪の重みで全部下を向いてしまいました。そこまで8カ月をかけて50日間撮影してきたのに、主役の本番2日前になって……。
雪を落としたら花びらも全部落ちてしまうんじゃないか? 枝が折れた桜もあるけど、この木は大丈夫か?
絶望的になりながらも、ガッカリしている暇はありません。またもみんなで雪かきです。
幸い、日中気温が上がってきれいに解けていきました。下を向いていた枝が、ふわーっと戻っていったのはまさにミラクル!
永野さんの撮影日ピンポイントで桜が咲いてくれたことも、移植に負けなかったのも、雪に負けなかったのも、本当にミラクルでした。

自然もすごいが、人間もすごい

いよいよ最後に撮影する夏篇では、なでしこの開花する瞬間をねらいます。
草原にたくさんのなでしこを咲かせるために、6,000株を用意する必要が。前の夏に種を輸入して、育ててもらいました。黄色いなでしこを用意したのですが、それがまあまあレアな品種。開花時期を調整して育てるのが難しかったようで、結局用意した3分の1ほどしか本番で使用できそうな株がありませんでした。
それでもなんとか、早朝から夜中まで16時間撮影。ところが、花が小さいがゆえに「開花!」という感じを表現できていません。撮影最終日でしたが、これはもっと近くで撮りなおすしかない。すると、画角に入れる花の数が限られてきます。その花たちが、撮っている間に開花する保証はありません。
ここで、制作スタッフにすごい人が出現しました。1週間ずっとなでしこの様子を見ていた結果、「このつぼみは明日咲きそう」とわかるようになっていたのです。彼に候補の花を集めてもらい、予測で「一番きれいに咲きそうなやつ」を真ん中にレイアウトして、カメラワークを決めて、伊藤は現場を去りました。撮影最終日の翌日は、もう別件が入っていたのです。スタッフから随時写真と状況を送ってもらい、指示をして撮影をすませることになりました。

奇跡的にうまくいき、1日遅れてのオールアップです。鍛え上げられた眼力で咲くつぼみを選べたのもすごかったし、その日に天気が晴れた幸運がありました。天気に関しては、雨でもダメですが、晴れ過ぎて雲がないのもタイムラプス感が出せないためNGです。「ここぞ」でほしい天気がきてくれるのもまた、大きなミラクル。

1秒の素材を撮るために、約15時間現場にいます。早朝スタートに向けて、夜中の2時3時から暗闇の中セッティング。すると、大自然のなかの本当に美しい朝日を拝むことができます。夕景の美しさも格別。吹雪の中でシャッターを切った一瞬、雲がサアッと晴れた瞬間も忘れられません。
あの草原で、すべての季節の美しさを感じることができたのは、本当にすばらしい経験でした。この方法をとったからこそ、表現できたムービーだと思います。想像もしていなかったような一瞬を多々捉えることができた。CGでつくっていたら、想像もつかなかったような、考え付かなかったような景色が撮れました。

仲のよいチームだから乗り越えられた。
クライアントの信頼で進められた。

自然の動きは本当に読めないので、撮影方法や進め方に正解がありません。だからチーム内で意見はぶつかるんですね。とにかく、とことん話し合う。どうやって撮るか、どう計算するか、機材をどうするかと、季節が変わる前の打ち合わせは毎回10時間くらいかかりました。プロデューサーとカメラマンで、使う機材でぶつかることもありましたね。
ただ、「やってられるか」という不満はスタッフの誰からも一度も出ませんでした。とにかく前向きに、いろんな意見を出し合って、協力し合えた。自然を相手に、ひたすら地道に泥臭く、時に賭けに出て、なんとか撮り終えた。どこかで挫折すれば、CGに頼るしかありません。絶対にそうしたくないという思いから、一丸となってやり抜きました。
クライアントとともに長く一緒にやってきたチームで、現場を任せてもらえる信頼関係がありました。なにしろ企画段階でも、制作をしながらでも、仕上がりを誰もイメージできていなかった。撮影日数25日で4秒しか撮れないような現場だから、クライアントに映像を見せたのはすべてを撮り終えてから。
もとから仲のよいチームで、クライアントがチームを信頼してくださったからこそ、苛酷なシーンも乗り越えられたのだと思います。「次の季節もがんばろうぜ」と。
今年また同じ工程で同じことをやっても、同じものが撮れるわけではない。ミラクルといえば、自然相手にこれを撮れたということだと思います。

1年間、どの季節もなんらかの大変なことがありました。つらいと思った瞬間はたくさんあるけれど、振り返ればとてもいい思い出です。映画ですら季節を1年追って撮るのはレアだと思うのに、60秒のCMでこれだけの時間と手をかけて撮るなんて聞いたことがない。そういう作品に関われたのは、本当にいい経験になったと思います。
「いち髪の木」は今もそこにあります。撮影後も木の専門家にみていただいて。撮影用だからといって、撮影後はどうでもいいようじゃいけない。自然へのリスペクトをもってこその作品だと思っています。

text:矢島 史