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ツムラ「#OneMoreChoice プロジェクト」
生理のつらさは人それぞれ。
見えないものを可視化する難題に取り組む!

3月8日の国際女性デーに合わせて、ツムラが2021年から展開している「#OneMoreChoice プロジェクト」。女性の不調に寄り添ってきたツムラが、健やかな社会のあり方を問いかけています。第2弾となる2022年は、「違いを知ることからはじめよう。#わたしの生理のかたち」。山あり谷ありのムービー制作秘話など、お話を聞きました。

鈴木 菜音(株式会社ギークピクチュアズ/ディレクター)
多摩美術大学グラフィックデザイン学科 卒
2017年 GEEK PICTURES 入社
2020年 BOVA審査員特別賞/協賛企業賞受賞
CM、WEBムービー、MVの演出など手がける

森下 友洋(株式会社ギークピクチュアズ/映像 プロデューサー)
2009年 大学卒業後、新卒でギークピクチュアズ入社
プロダクションマネージャー職を経て現職
広告のみならず、ドラマ・YouTubeチャンネル・配信・オーディオコンテンツなど、
ジャンル問わずプロデュースを行う

根津 裕典(株式会社ギークピクチュアズ/グラフィック プロデューサー)
株式会社アマナ、イベント会社、広告代理店を経てギークピクチュアズに入社
GRをメインにweb動画やプロモーションなど幅広く携わる

〔ムービー概要〕
自らの生理に伴う症状について話す、1人の女性、パートナー同士、友人同士。話し終わって別の部屋に通されると、自分の「生理のかたち」がグラフィックとなって飾られている。一言では表せない生理に伴う症状が、一目見てイメージできる一枚の画に。驚き、表現される喜びを感じるキャストたち。同時に、同じ「生理に伴う症状」でも人によってこんなにも違うということを目の当たりにする

「わかってもらえない」コミュニケーションのずれをどう解消するか?

 2021年からスタートしたツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」2年目は、“人それぞれ生理に伴う症状は違うことを伝える”という軸を持っています。目には見えないものだから、たとえ女性同士でもお互いのつらさを本当にわかることはできない。「あの人また生理くらいで休んで」と会社で言われてしまったり、「機嫌悪いな」とパートナーから言われてしまったり。
 ただ、「人によって症状も重さもまったく違う」ということを理解するだけで、摩擦を減らすことができるのではないか、世の中を少しよくできるのではないか、というのが主軸の企画だと受け取りました。昨年から鈴木はディレクターとして関わっているのですが、「生理のつらさを解決することは難しいけれど、考え続けることはできる」という議論をたくさんしてきました。

 大切なのは、生理の話を「つらそう」「重い話をされる」と受け取られるよりも、「なんだろう?」と興味を持ってもらえるものにすること。見る人の想像力を刺激するような作品にしたいと、グラフィックチームは何度も「かたち」を練り直していました。キャストのオーディション時にご自身の生理について語っていただいて、それをビジュアライズ。いろいろな方の話を聞いて初めて、「生理にそんな症状があるんだ」と知ることも多くて。クリエイティブチームで試行錯誤しながら真摯にかたちをつくっていたので、制作チームに降りてきたときにはスケジュール的にギリギリではありました(笑)。

リアリティがなければ冷める。キャストの自然なリアクションを引き出して

 撮影は、前後半に分かれます。前半が、症状について語ってもらうインタビューとスチール撮影。2時間後に後半の、部屋を移動して自分の「生理のかたち」のグラフィックを見るシーン。
 キャストには後半を秘密にしていたので、「さっき撮影したばかりなのにもうポスターに?」「さっき話した痛みがもう具現化されている!」と驚いていました。
 サプライズにすることで、キャストのリアルな表情を引き出したかった。そのためには、ばれないように完全にキャストに秘密にすることと、大急ぎでのグラフィック制作が必要でした。
 スチール撮影したキャストの画像データに、30分で事前につくっていた症状のイメージを合成し、レタッチ。すぐ出力会社に送信して出力してもらい、バイク便で1時間かけてスタジオに戻します。
 とにかくキャストの自然なリアクションに合わせて編集しようと決めていたので、コンテ通りの段取りにはこだわりませんでした。部屋を移動してもらうときも、「撮ってるんで、気にせず見に行ってください」とディレクターも映っていい前提で入り込んで誘導。ポスターを表にくるっと返して自分のグラフィックと対面するのですが、その動作が入ることで場ができる。キャストの気持ちが入る。そこさえ押さえられたら何とでもなると思って撮っていました。
 だからこそ、カメラマンや録音といったスタッフィングでは、「前に出るのではなく、引いて空気となる」いい画を撮れる人を意識しました。おかげで、いい表情を撮れたと思います。

 ただ、ノーカットでキャストが自由に動くので、カメラマンは大変でした。懸命に走り回って、表情に合わせて寄ったり引いたり。キャストの向きに合わせてアングルを考えなくてはならないし、セリフもつけずに生の言葉で話してもらっているし、すべてが一発撮り。現場的に何が起こるか、全然わかりませんでした。
 ドキュメンタリーは、広告においてはとくにとても難しい手法だと思います。自分でカメラを回してみたり、リアルに見えるアングルを探ったりと勉強したことがあり、おもしろく感じているのですが、とくに前提が広告なのでバランスがとても難しい。
 今回は、「どのキャストをどう描くか」を緻密に説明したコンテを用意しました。これのおかげで、スタッフが何をするべきか、どんなシーンが必要なのかを共有できました。

キャスティングと見え方の妙

 井桁弘恵さん以外のキャストはオーディションで、事務所に所属はしているけれど普段会社に勤めているような方々を選びました。芸能界だけでなく一般社会とのつながりがある人からの方が、言葉にリアリティが出ると思ったからです。そして「パートナー同士」「友人同士」は、実際のパートナーと友人同士の人にセットで受けてもらいました。関係値のあるふたりだから、バランスよく話せるリアルがある。そこだけは嘘をついてはいけないと、「こういう人たちカフェにいるなあ」という方たちをキャスティングしました。

 撮影では、「自然体で動く」ことをキャストと共有できていたので、本当に普通の様子で撮ることができました。演技をあまり求めていないということが伝われば、役者であろうがなかろうが大丈夫なんだな、という実感です。スタッフとも目指すところを同じにできたので、編集でのポイントもずれることがありませんでした。
 今回の一番のポイントは、男女のふたりを出すということ。とくに男性の描き方、演出については議論を重ねたところです。男性キャストが饒舌に話していても、見ている男性が「こんなに語れる?」と感じたらウソになるし、女性が見たときに「何この人」と思われるのも違う。試写のときに、ツムラさんもクリエイティブも制作も、「この感じは違う」「ここはいいね」という意見が同じだったんです。心にストンと来る言葉やリアクションは三者とも同じでした。

生理の話を、男性とつくる

 このムービーを男性が見たときにどう感じるかということは、チーム全体で気にしていました。男性スタッフに何度も「どう感じますか?」と聞いて、一視聴者としての感覚を確かめていました。
 現場でキャストに「生理の話をしてください」と言うと、みなさんすごくしゃべるんです。話が盛り上がってくると、「ほんと男の人って」と言う話も出て来たり。その根源には、やっぱり「わかってもらえない」という悲しみがあるんですよね。実際にはわからなくても仕方ないのだけれど、わかろうとしてくれるだけでいい。そうしてもらえなかった過去の経験が、それを言わせてしまう。
 でも、男の人は敵ではありません。つらさを理解したいという男性がいるわけだから、そういう方がこのムービーを見たときに、悲しい気持ちになることだけは絶対に避けたいと意識しましたし、「私たちはつらいのよ!」という押し付けがましさは出したくないと考えました。

「日常」を表現するための音楽のちから

 生理は日常のことなので、感動させるムービーにしたいわけではありませんでした。生理の話を、悲しくも嬉しくも伝えたくなかった。
 そこを、音楽にとても助けられたと感じています。同じセリフでも、音楽で伝わり方が全然違うから。ちょっとでもエモーショナルになれば、ねらいから外れます。お願いしたharuka nakamuraさんは、絶妙なラインで要望を実現してくれました。本当に素晴らしいセンスをお持ちの方で、伝えたことを一発でわかってくれました。初回のズーム打ち合わせがもう、作曲だったんです。この音楽は、harukaさんにしか出せません。企画との親和性がすばらしく、音楽もまた作品の大きな助けとなりました。
 ツムラさんは真摯に、見る人の心に寄り添ってプロジェクトをつくっています。前年制作したムービーでは、男性からも「見ていて心が温まった」という感想をいただきました。こういう痛みは女性だけではなく誰にでもあることだから。人の痛みに寄り添った、優しいムービーにできたのだと受け取りました。
 そんな作品にするために、スタッフ全員で心ある作業ができたと感じています。

text:矢島 史