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SK-Ⅱ STUDIO 火の鳥NIPPON「VSリミット」
世界からのプレッシャーの中、最上のクラフトを実現した奇跡!

横山真吉
株式会社シースリーフィルム
執行役員
2010年、シースリーフィルム入社。

飯泉祐樹
株式会社シースリーフィルム
チーフプロデューサー
2010年、シースリーフィルム入社。

グローバルスキンケアブランド SK-Ⅱ が設立した「SK-Ⅱ STUDIO」。東京オリンピックへ向け、6組の女性アスリートたちがさまざまな固定観念と対峙する姿を6つの映像で描きました。そのうちのひとつ、バレーボール女子日本代表が限界に立ち向かう「VSリミット」をピックアップ。制作したシースリーフィルムのプロデューサーおふたりに話を伺いました。

競合で世界に勝てたのは、
「監督」「アニメ会社」「キャラデザ」のコンビネーション

 プロダクション競合で、当社は6本中4本参加しました。時期的にカンヌライオンズで世界の力を目の当たりにしていたので、本当に勝てるのかと恐怖しつつ……。
 最初に競合参加したのはサーフィンの前田マヒナさん篇です。海外のライバルがつくるトリートメント(脚本の一歩手前)は具体性が強く、すばらしいものでした。我々のものはまだまだイメージ寄りだったと気づかされた。それら敗戦経験を糧に、望まれているクリエイティブジャンプをイメージしながら、監督とプランを練り上げていきました。その結果、バレーボール女子日本代表篇を勝ち取ることができ、震えるほどうれしかったです。

 競合に勝てたのは、2Dと3Dを融合したアニメーションの世界観、そして「この監督」「このアニメーション会社」「このキャラクターデザイン」のコンビネーションを提案できたおかげだと思っています。
 監督は、最初は某有名映画監督へ依頼することも候補に上がっていました。けれど「キャンペーンを成功させる」というマーケティング要素が大きく求められる中、監督の作品性は第一義にもっていけません。そして広告ベースの監督さんであっても、実写にもアニメーションにも精通している方は多くない。TAKCOMさんと組むことができたのは大きなミラクルでした。

 アニメーションスタジオを探すにも、一筋縄ではいきませんでした。ジャパニメーションが流行しコロナ前のとくに需要が高い時期。どこも2年先まで埋まっていて、こちらは「まだ競合で勝てるのかわからないのですが」と相談しなくてはならない状況。企画をおもしろがって、考えるところから一緒になって制作してくれるスタジオを見つけるまでに苦労がありました。熱意をもって説得し、なんとかスケジュールを調整していただけたのがAnimationCafeです。

 キャラクターデザインは、デジタルアーティストのWatabokuさんに依頼しました。彼のノスタルジックな作風は、アニメにするときにともすればまったく違う風合いになってしまいます。限られた時間の中で、彼の抒情的なテイストをどこまで再現できるかが勝負でした。

誇りをかけた、クラフトへのこだわり

 スクリプトをつくるのは、全作品を統括するWPPのクリエイティブチームです。スクリプトが秋に完成し、アニメーションの納品は年内。長尺でこの規模のアニメーションとなると、一枚一枚手書きで制作する方法では間に合いません。そこで、モーションキャプチャーで人の動きをトレースし、3Dのモデルを当てはめていくという方法を選びました。スタントのできるアクターさんをお呼びして、躍動感のある演技をしていただいて。実は、3人でチーム全員分の動きをしてもらっています。
 モーションキャプチャーはクオリティを保ちつつ納期に間に合わせるための選択でしたが、結果、人の動きのリアルな表現にもつながりました。

 6つのチームが世界同時並行で統一作品をつくることは、ほとんどありません。「バレーボール女子日本代表」以外の5本を制作するのは海外チーム。日本で行われるオリンピックのキャンペーンで、唯一の日本チームがしょぼいものをつくるわけにはいかない、と。とにかく、クラフトにこだわり続けました。

まず、「各シーンのキービジュアル」。一枚絵でどういう世界観をもって背景をつくっていくか、そこに時間がかかります。なかなか納得いくものが出ず、プロダクションだけではなく、アニメ会社、クリエイティブのADも一緒になって、徹底的につくりあげました。
 また「KAIJU(怪獣)のデザイン」も一丸となって生み出したことのひとつ。実態を具現化しないことであるとか、結末を明示しないつくりであるとか、ありきたりな“勧善懲悪”にしない表現を目指して、力を合わせて突破しました。
 アニメーションが完成した後も、編集機を使って各所に砂埃や光を足し、監督と協力して臨場感を際立たせました。
 実写のシーンに関しては、私たちはスポーツに関して素人なので、映り方の整合性をとらなくてはなりません。選手の方たちから、「この場合にこの選手がここにいるのはおかしい」とか「こうした方がいい」とフィードバックをいただいて、撮る角度を決めることもありました。プロの選手から見てもおかしくないように、というところには気を遣いました。

海外チームからの学び。アニメ制作で得たもの。

 ほかのチームがすばらしいので、クオリティで負けないようにしないといけないプレッシャーがありました。世界同時キャンペーンなので、トンマナを含めて大元でクリエイティブのコントロールがされていて、制作の途中経過もそれぞれ見せてくれていたんです。
 アニメを専門にしているプロダクションも参加していて、スクリプトの段階から画に起こして簡単なVコン(ビデオコンテ)で仕上げていることに驚きました。制作進行でも、勉強になることが多々ありました。
 私たちも!と妙な対抗心を燃やしながらつくっていました。

 当社はアニメもたくさんつくっていますが、ここまでの大作となると初めてでした。露出の多い仕事ができたことで、多くの人に「この会社はこういうことができる」と知ってもらえたのは嬉しいことでした。
 今回、「制作現場でのミラクルは」という取材を受けるにあたってあれこれ考えましたけれど難しかった。もちろん偶然起きたことはあったかもしれませんが、プロフェッショナルが集まり、全員が目標に向かって走ったからできた作品。ミラクルがどれかと聞かれると困っちゃうねというのが本音です。

text:矢島 史