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コレオグラファー(振付師)という仕事

宇多田ヒカル MV 『Forevermore』 より

―髙瀬さんが振付けて話題になった宇多田ヒカルさんのMV『Forevermore』は印象的でした。歌詞は日本語だし、踊る人も日本人。それがわれわれのような素人にも伝わりやすかったのかもしれませんが、動きが自然に入ってくる感覚がしました。

よかった。うれしい。私は舞台に立っている人間なので、人の気持ちを理解し、共感してこそ表現できる。あれは宇多田さんが書いた詩なので、彼女の心がそのまま出ていると思います。だから詩を何回も読み、自分が宇多田ヒカルになったような気持ちで、彼女のインテンションを一番に考えてつくりました。

Photo : Rina Young

あとはユーモアですね、ちょっとしたユーモア。スペース(余地)をつくらないとつまらなくなってしまうんです。『Forevermore』では最後にインフィニティマーク(∞)でメガネの振りをつけたんですよ。どこも完璧で真面目一辺倒でつくると、自分が辛くなるし、見ていて疲れる。遊びを忘れてはいけないんですよ。

―ダンサーとして踊る時と、振付師として人を躍らせる時は、意識が正反対にある気がします。表現者としての主体と、見る人という客体。そこに葛藤や、切り替えのスイッチはあるのでしょうか?

自分が振付けをして、自分で踊るというのは難しいことです。客観的な視点から作品が見られないから。最初は言葉やイラストでメモして、次にビデオを撮ったりしますけど、大変ですね。自分もお客さんの一人になるから、境界線がなくなってしまう。ダンサーである自分がつくると、自分がお客さんの一人であることを忘れてしまいがち。なので観客の視線を忘れないよう意識しています。

―CMについて訊きます。好きなCMは何ですか?

『KENZO World - The new fragrance』**が好きです。やはりユーモアがツボでした。最後に目玉を突っ切るところなんて、気持ちよさそうですね。あんな風に、彼女になりたい!と思う瞬間がありました。

―感情移入させてくれるCM動画ですね。特に女性には。
もし髙瀬さんがCM用の振付けを依頼されたら、短い秒数や約束ごとを窮屈に感じたりしないでしょうか?コマーシャルだから究極に伝えたいことは「うちの商品を買って」ですよね。それ・・は足枷になりませんか。

そんなことはないですよ。窮屈ではないです。CMって、「それ・・(商品メッセージ)」にプラスがあるじゃないですか。プラス部分がどれだけ大きいかが勝負ですよね。***

** KENZOの新フレグランス「ケンゾー ワールド オーデパルファム」のために2016年作られたネットムービー。自由に世界を見渡す女性をテーマにマーガレット・クアリーが出演、スパイク・ジョーンズが演出を担当、世界の広告祭などで高く評価された。
*** 2015年ユニクロのテレビCM 『アウターは、あなただ』にウェイン・マクレガーと共に出演している。

日本のダンスシーンを変えてみたい

Photo: Sinem Mucur

―日本のダンスシーンについてどう思いますか? コンテポラリーダンスには、まだ触れる機会が多くはありませんが。

民族性もあるのかなと思います。コンテンポラリーダンスは人によって感じ方が違うものなので。日本人は意見が同じになることを好むのかもしれない。だから観客が育ちにくいアートフォームなのかもしれない。それには教育が影響しているような気がします。日本ではテストのために勉強をするでしょう。以前、興味の湧いたことを先生に質問したら、他の子に「そんなのテストに出ないよ」と怒られたことがありました(笑)。コンテンポラリーダンスのような漠然としたアートフォームでは、人と意見が違うことが「怖い」と感じられてしまうのかなぁ、と。

―たしかにロンドンのクリエイターやアーティストたちは、人と違うことをするのが当たり前な人たちですよね。日本ではみんなで同じ方向に行きたがる。いま日本ではヒップホップがブームですが、どう思われますか。

ダンスなら何でも!ですよ。ブームになっていることがうれしいです。それにコンテンポラリーダンサーにはヒップホップ上がりの人が多いんです。もともと創作をするダンスという土壌が同じですから。

ただ、私も経験がありますが、日本でダンスをしている若い人たちは可哀そうだと思う。日本のダンス人口は、実は裾野が広いんですけれど、プロとしてやっていけるかは別の話。踊れば踊るほどお金がかかるし、プロになってダンスだけに打ち込める環境がないんです。そしてその環境を求め他国へ渡り、成功している沢山の日本人ダンサーが世界中で大活躍しているのは誇りでもありますが、そのダンサー達が自分の故郷日本で踊る機会がなかなかないのはとても残念に思います。

―海外でカンパニーに入れば、ダンスに集中できるからですね。

カンパニーもいろいろですが、私のいるところは体のサポートからダンスの教育や普及まですべてをしてくれます。生身の人間なので、どうしてもケアが必要なんですよ。私もこないだのUS/カナダツアーが大変だったので、帰ってから寝込んだんですよ。ツアー後はいつもボロボロで「人間じゃない」みたいになる。さながら、「心のない肉」…のように。だいたい1年のうち35週間ツアーに出ている、しかし仕事で世界中が見れるのは幸運なことです。

Selfie (Instagramより)

―今後、挑戦してみたいことは?

あっちこっち、いろんなジャンルにつながりたいと思っています。コンテンポラリーダンスを舞台上のものだけにとどめず、エリアを広げたい。それと、大きすぎる夢かもしれないけど、才能と情熱のある日本の若いダンサーが、のびのびと踊れる環境をつくりたいです。そのためには、お客さんを育てることが同時進行で必要ですね。

―これから初めてコンテンポラリーダンスを見る観客に、楽しみ方のアドバイスをください。

コンテンポラリーダンスにはストーリー性がほぼありません。私が見る時はダンサーを一人決めて、そのダンサーのストーリーに沿って見たりします。彼女の経験が、私の経験になる感じ。それから照明をよく見ています。シアターという「黒のボックス」の可能性は大きくて、光の角度や写幕で空間が大きく変わります。照明でさまざまなことができる。個人的に、照明の勉強はしたいと思ってます。

とにかく、目の前で生で人間が踊っていることの凄み、その瞬間を楽しんで欲しいです。見る人それぞれのジャーニーがありますよね、その場の作品だけではなく。朝起きて会社に行って、劇場に来て、というジャーニー。作品だけが答えではなくて、その人の1日、もしかしたら1年が影響するかもしれません。それと同時に、500人なら500人の人とその一瞬を共有する、スマホは開かず2時間きっちり空間をシェアする。その体験自身が楽しみのひとつだと思います。

以上3点 Photo:  Ravi Deepres

インタビュアー:丸山 顕
執筆協力:矢島 史
髙瀬譜希子

Photo : Luke Unsworth

髙瀬譜希子
ニューヨーク生まれ、日本育ち。コンテンポラリー・ダンサー、コレオグラファー(振付師)。
アメリカ人の父と日本人の母を持ち2歳よりダンスを始める。14歳でコンクールに出場したのをきっかけに自作自演の振付を始める。数年内にほとんどの国内コンクールで優勝。高校在学中に文化庁在外研修員としてロッテルダム・ダンス・アカデミーに、その後ロンドン・コンテンポラリー・ダンス・スクールに合計3年間留学。
ヘンリ・オグイケ・ダンスカンパニー、フリーランスを経て、2011年世界最高峰のカンパニー・ウェイン・マクレガーに入団。イギリス国内にとどまらずパリ・ガルニエ宮、ボリショイ劇場をはじめ世界各地でプレミア公演やクリエーションに参加。 2013年 Atoms for PeaceのMV 『Ingenue』でRadioheadのトム・ヨークと共演し話題となる。 2017年宇多田ヒカルの指名で 『Forevermore 』の振付を担当。舞踏教育、振付でも精力的に活動中。