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定例会議はオープンで
どの部署の人でもアイデアが出せる!

―アウトプットはどのようにしているんですか。週1でブレストがあると聞いたのですが。

週に1度、社長(日清食品社長 安藤徳隆氏)に時間をとってもらって、すべてのブランドコミュニケーションを一緒につくっています。社長は学生時代に映画を年間500本見ていたような人ですから、知識や能力、センスからして全然勝てません。社長にはSNS投稿の1つ1つまで共有して、「てにをは」からカッコのつけ方、ハッシュタグまで一緒に考えています。

 

―そんなに細かいところまで全部と言うのは、すごい。

全企画、全投稿、全グラフィックです。おそらくですが、ものづくり、マーケティングが大好きなんだと思います(笑)。社長も入っている管理職のチャットグループでは、「この動画、CMで使えないかな」「このニュースは見ておいて」「こんな炎上があった」など、どんどん情報を共有しあっています。

―週1の定例会議は何人くらいで行なっているんですか。

基本はオープンです。コロナ禍前は、宣伝部だけでなくマーケティング部、営業部、広報部など、さまざまな部署の人間が会議に参加していました。宣伝部が「0→1」でモノをつくっていく過程を言葉で説明するのは難しいので、意思決定の過程を目の当たりにするのが一番の勉強になる、というのが社長の考えなんです。
参加したい人は誰でも参加できるんですが、社長から急に話を振られたりしますから、決して油断はできないのも独特だと思います。

以前、日清ラ王のCMに「パンケーキ食べたい」でブレイクした夢屋まさるさんを起用したのですが、演出コンテでは「パンケーキ」となっていたセリフを変えることになったんです。しかし、なかなか良い案が出なかったので、社長が「どう変えるかひとりずつ発表」といきなり言い出して。もう、会議の参加者全員で大喜利ですよ(笑)。「ダンボール」とか「マングース」とかいろいろ出てきましたが、結局「マンホール」に決まりました。

―それは脇汗がとまらないですね…しかし「マンホールがいい」と判断できるのもすごい。

不思議なもので、会議の場で笑いが多いものは、世の中に出してもウケるんです。新商品でも、会社に置いてあるサンプルを社員があっという間に持ち帰るものは売れます。企画だって、会議でみんなが笑えば、あとは、そこに化粧をして、伝えたいメッセージをちゃんと印象として残せるように調整するくらいで大丈夫なんです。

―それにしても、どうやってその場で言語化したのだろう…と不思議になるようなニュアンスのおもしろいCMをたくさん拝見します。たとえば「カップヌードル 辛麺」とか。

カップヌードル 辛麺

我々は、世の中でおもしろいと言われていることを、それがどうしておもしろいのか徹底的に分析するんです。音楽なのか、画なのか、ダンスなのか。鍵となるポイント見つけ出し、それがブレないようにすれば、あとは何をしたっておもしろくなる。辛麺のCMは、社長が「なんか見ちゃうんだよね」とふたりのダンス動画を持ってきたのが発端です。「辛麺のCMに使おう」となったとき、このふたりじゃないとおもしろくならないということで、コストがかかってもご本人をキャスティングしました。

ところが、オフライン編集した映像を社長に見せたら「全然おもしろくない」と言うんですよ。どうしてだろうと、元の動画とCMのオフラインの映像を何度見比べても答えが見つからない。しばらくしたら社長から連絡があり、「頭の高さが違う。つまりふたりの関係の奥行きが違う。だからおもしろみがない」と。
「なんとかならないか」と言われて、1コマずつ前後関係や高さをそろえたんです。そうしたら、中毒性のあるおもしろい映像ができあがりました。

―それがわかるセンス、すごいですね。社長のインプットは何なんだろう。

シーフードヌードル「ほぼイカ登場 篇」

「いったい、いつ寝てるんだろ…」と不思議になるくらい、精力的に活動をされているので、起きている間はずっとヒントを探しているんじゃないでしょうか。「ブルーハムハム」ってご存じですか? これも社長に「おもしろいから」と共有されたんですけど、空間のつくりこみ方や色の使い方などを分析して、シーフードヌードルの「ほぼイカ登場 篇」をつくりました。早見優さんが「イカかな~、イカじゃな~い」と歌うCMです。CMの尺が少し余ったので、最後に早見さんの食べカットを相当長めに入れています。シンプルに商品のおいしさが伝わるんじゃないかと。

―(笑)異様に長い秒数食べていますよね。細かいところが全部効いています。中毒性だったり、秒数だったり。

そういうところは、嫌というほど検証しています。

それはモノが売れる広告になっているのか

―最近の仕事の中で印象的なものはありますか。

バスケットボールの高校生世代の育成・強化を目的に「U18日清食品リーグ」を立ち上げたのですが、世界に羽ばたこうとしている若い選手たちをサポートしていくのはもちろん、スポンサーとして多くの人を驚かせたい、楽しませたいという思いもあるので、さまざまな形で盛り上げようとしています。

―「モップヌードル」おもしろかったです。

あれは、宣伝部の若いスタッフが考えたんですが、最初は麺と具だけだったんです。アイデアを考えたスタッフの上司は「商品を汚い見せ方にするのはよくないのでは?」と私のところへ相談に来ました。でも、私は「おもしろいし、いいんじゃない」と思ったので社長にぶつけてみたら、「カップも逆さにして、カップヌードルをぶちまけてる感じにしたら」と。

モップヌードル

―心配をよそにさらに積んでくる。全社クリエイティブですね、みんなが考えている。

そんな感じですね(笑)

―バズること、売れること、そしてブランディングについてどうお考えですか。

おもしろいことはできるし、おもしろいCMもつくれはする。それが広告になっているかということが一番重要で、スタッフには「商品を売るための広告なんだ」と口酸っぱく言っています。どうやって興味を引くか、興味が離れないように中毒性を持たせるか。そのために映像、音、コピーはどうすべきかと議論を重ねます。おもしろいか、おもしろくないかは一瞬で判断して、「じゃあこれをどれだけ広告にできるか」という議論を深めていく感じですね。
たとえばワンピースとコラボした「HUNGRY DAYS」はすごく話題になったし、YouTube上の総再生回数は6千万回にのぼります。でも、社長とは「成功とは言い難かった」と話していました。「カップヌードルのCM」ではなく「ワンピースのCM」と言われることが多かったのが理由です。広告として、すべてがダメというわけではないけれど、120点ではありませんでした。

―若いときに見た「hungry?」「NO BORDER」にはスケールの大きさとブランドへの新鮮さを感じました。今の時代にそういうのをやるということは。

1年ほど前に、「たまにはかっこいいCMもいいんじゃないか」と議論したことがありました。でも結局、もう時代が違うんじゃないでしょうか。かっこいいと言ってもらえるかもしれないけれど、それでは商品が売れないと思うんですよ。
「hungry?」も「NO BORDER」も新しいアイデア、新しい見せ方を駆使したCMで、当時のターゲット層は「カップヌードルはすごい!」「カップヌードルは、いつも新しいことにチャレンジしてる」「カップヌードルは僕らと同じことを考えている」と思ってくれていました。でも、私たちの目的はかっこいいCMをつくることではなくて、ターゲットのマインドシェアを掴むことです。なので、その手段はCMである必要はなく、むしろ今ならSNSのほうがプラットフォームとして適しています。やはり、CMだと「企業からのメッセージ」という色合いが強くなりますから、SNSの方が共感を生みやすいんだと思います。だから、今の時代に「NO BORDER」のようなCMをつくったとしても、「ふーん、かっこいいけどね…」で終わってしまいそうな気がしています。

大事なのは、楽し“そう”に仕事すること。
つきつめて、やりきること

―仕事の成功に向けて大切にしていることは

楽しそうに仕事する、ということですね。
サラリーマンというのは、役者じゃないといけないと思うんです。やりたくないことでも、やりたくてしょうがないように見せなきゃいけない。会議で「これ誰がやる?」となったときに、やりたくなくても「自分にやらせてもらえますか?やった!どうやってやろうかな!」と、うれしそうにしていた方がいいじゃないですか。それができる人とできない人とでは、実になるものが全然違うはずです。
私はすぐにサボっちゃう人間なんですが、そう思われないように人前でどう演技をするか。

―バリバリ働いていらっしゃるイメージと違いますね。

やはり、イメージが大事です (笑)。そして、「やりきる」ということを大切にしています。クリエイティブに正解はありませんが、前よりよくなったからOKというのではなく、「もっと何かできないか」「本当にこれでいいのか」と最後まで突き詰めることが大事です。ついつい満足してしまいがちなので、自分でも気をつけるようにしています。
現場の人間は、スケジュールや費用や関係性など条件の厳しさに直面する場面がどうしても多くなると思います。だからといって妥協せず、限られた条件のなかで、どうやったらより良いものができるかを考え抜かないとおもしろいものはできない。

―きりがないから大変ですよね。

あとは理系だからかも知れませんが、「原因を考える」ことがとても大事だと考えています。たとえば、いい広告やファッションを目にしたときに「かっこいいなあ」で終わらせるのではなくて、なぜかっこいいかを考える。そのポイント、要因はなにかを突き詰めたら、クリエイティブに繋がるヒントが見つかると思うんです。
そんなことをしなくてもポンポンとアイデアが出てくるすごい人はいますけど、私みたいな才能のない人間にはとても大事なことだと思っています。

―おもしろくて売れる広告が次々に生まれる理由がわかった気がします。
楽しいお話をありがとうございました!

text:矢島 史  photo:村上 拓也

米山 慎一郎(よねやま しんいちろう)
日清食品ホールディングス株式会社
執行役員 宣伝部長
1969年兵庫県生まれ。1995年神戸大学工学部卒。1995年に日清食品株式会社入社。岡山営業所、マーケティング部、宣伝部、経営戦略部などを経て、2018年より日清食品ホールディングス 宣伝部 部長に就く。日清食品グループ各社のプロモーション活動全般のマネージメントを行う。