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これからの「メディアとクラフトとアイデア」の関係は

市耒: 以前はメディアが定滑車で、そこにクラフトやアイデアを掛け算して動かしていた。今はTikTokやインスタやNFTとか箱がどんどん動いていて、全部が動滑車になっていろいろなことが起きているなあと感じるんです。みなさんは今、メディアとクラフトとアイデアの関係をどう考えていますか?

草野: 4マスが強かった時代とは、シーンの生まれ方が変わってきています。私が音楽活動していたシンセウェイブというジャンルも、インターネット上で登場しました。メディアに合わせて流行りものも変貌している
ファッションもそうで、子どものころはアムラーやシノラーといった同じ方向をみんなで追求していく感じでしたが、今は情報消費に傾いている。若い人がものを買うというより、好きな服を着てメルカリで売って、またメルカリで買うような消費の仕方が生まれている。Web3が出てきたらまた変わると思います。NFTなどで独自に経済圏をつくれるので、バズらなくてよくなるんです。好きな世界観があれば、そこで資金調達をして陶芸家のように暮らしていける。やりたくないクライアントワークはやらずに、自分の作品をつくって売って生活するひとが少しずつ増えています。

市耒: これだけメディアが分散して、だれもがクリエイターとして発信できるようになると、全体的にファストクリエイティブのような趨勢になりがちです。5秒10秒のものを発表して。でも、映画制作とか店舗開発といったヘヴィクリエイティブの世界もある。アイデアを出して、コンセプトワークして、なんらか非言語的なものを生み出さなくてはならないものが。

長久: 僕はヘヴィクリエイティブしかつくれない。つくれないというか、そっちに寄っちゃうから、つくっているにすぎません。向き不向きなんじゃないかな。縦の画面になったらどうなるかなという、想定のフィルターを入れておくくらい。

草野: ヘヴィなものを生み出すのも、手軽になってきているんですよ。ハリウッド並みのVFXをいじれる中学生、みたいのが世界的に増えている。CGも安価に、オープンソースになって、AIアートなどで再現してってなれば、ヘヴィなものも大きく増えるのでは。

平野: そういうとき、人は何に感動しているんだろう。そんな時代でも、戦闘シーンなどで実写撮影にこだわり続ける監督もいる。そのバランスって結局なんだろう。

草野: みんな同じようなものになっちゃったらどうしようとか思うよね。

長久: グッチの映像をつくるときに「リッチに」というオファーだったんです。けれど僕はあまりリッチが好きではなくて、2D的な絵が好きなんです。奥行きとか出したくないし、チープにチープにというさじ加減で仕上げたかった。東京タワーをかけのぼるシーンなんてスーパーファミコンみたいに撮ったら、かえって見たことのないものになるのではと。そのさじ加減の特殊性を考えていく。みんなリッチになっちゃうから、そことの距離の取り方をそれぞれが考えていく。

草野: そこを譲らなかったから、愛を感じられます。クリエイターが楽しくつくっているのが伝わってきますよね。

市耒: 長久さんの作家性がドバドバ出ていて、それがグッチを輝かせているからうまくいっている。パッと見たとき、いい意味で広告のていをなしていないじゃない。最初からそれを提案したの?

長久: オファーとして、そうでしたよ。

市耒: じゃあグッチはすごいんだな。

長久: クリエイターに対するスポンサードとしてのブランド向上を理解したうえで、やっている。僕は5,6年広告のオファーなどないので(笑)、久しぶりにつくりました。

市耒: 緑のグッチのCIなんて見たことある?

長久: 緑にしていい?と聞いたら、いいよとおっしゃるので。

市耒: 「していい?」と言うのがすごいよ。パッと見て1フレーム目で醸されているにおいってわかるよな。マーケティング臭がするのではなく、いきなりズンと近くに来られる。そのへんがすごい。

長久: ヘヴィさで言うと、アウトプットの速さではなくて、死ぬ気でつくっているかというのが出るんじゃないかな。1フレーム1ドットに対して気を抜かない。その作業がバレるんじゃないかな。

市耒: 『DEATH DAYS』拝見して、「おれが死んだらどうなるのかなあ」「四万十川の水になりてえなあ」「おれは(コンビニ蕎麦の)ほぐし水になりたい」ってセリフ。

平野: 私もあのセリフ大好き。

市耒: 允くんは、一貫して死を扱っていて、いつも色即是空だし、仏教的。草野さんの「ギャルバース」も三十三間堂の仏像みたいだなと感じたし。

草野: アニメ自体がアニミズムですしね。自分のDNAにある。日本で生まれ育ったからこそ存在する感覚かもしれないし。すごいのは、物語を自分でつくって信じることができるということ。私のやっている会社はFictionera(フィクショネラ)というのですが、fictionとeraで「物語が時代をつくっていく」ということ。NFTも最大のフィクションだと思っていて、ひとつの画に対して価値があるとみんなが信じ込んでいる。お金も現代アートもそうですが、そこにはもしかしたら宗教的なものが自然と入ってくるのかな。「ギャルバース」もひとりひとりに名前がついていて、ひとりひとりに物語のディテールがある。AIが自動生成して、チェックして組み立てています。

長久: 100年後見たときに宗教の根源になっているかもしれないですよね。

草野: 並んだときにパワーを感じます。あれは、髪型、目、アクセサリーなど2300のパーツを描いて、その組み合わせでつくられています。重なって変にならないように4000ルールくらい書いて毎回ジェネレートしているのですが、自分では思いつかないような組み合わせのものがたくさん出てきて鳥肌が立ちました。描いた大平さんもびっくりしていて。不思議ですよね。懐かしくも、初めて見るようにも感じる。 

福田: アウトプットだけでなく過程までクリエイティブ。

長久: 人が生成していない奇妙さに神々しさが発生したりしますね。

草野: そうですね。プログラムを書いたその瞬間にしか出てこない組み合わせなので。それをモデルに、人が二次創作を書いているのも不思議。この間「ギャルバース」のアートコンテストを催したのですが、世界中から250作品ほど応募がありました。それをみなさんNFT化して、なかには生計を立てる人も出てきています。コンピューターがつくったものを人が追いかけていて、そうやって語り継がれるといいなと。

市耒: ゼロイチは人がとか、AIは何をとか、そういうことじゃない。情報とアイコンのフローがいい状態であるところを草野さんがすくってディレクションする。ハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアに関して、どう関与していきたいか

草野: 非常に難しい質問ですね。「ギャルバース」も最初は、“この髪型とドレスはおかしい”とかガチャガチャしてたんですよ。でも、そこの調整をあまりやりすぎないようにしました。プログラムとして成り立たなくなるし、結局「この組み合わせはかわいい」というのが結構出てきたので。

平野: 最後は、自分がかわいいと思うかどうか。

草野: そう。プログラムを書けば書くほどかわいくなっていくので、やめられなくなってしまって。そこはやめようと。最低限、冠で髪型が見えなくならないようにとかぐらい。

長久: 仮に神が世界をつくっていたとしたら、それぐらいのプログラミングフィルターで象とかつくってそうじゃないですか。「これをナシって言ってたらキリないし」とか言って。

(一同: 笑)

草野: 一点、ギャル全員が違うものに見えるように、というのがゆずれないところでした。たとえばNFT作品は“いっぱいパーツののったもの”がレアで、シンプルなものは安いといったレアリティがあるんです。そういった買う人の心理をあまりわからない時点で、レアとか関係なく「かわいいから」でつくったので、レアリティをぶっ壊した作品とも言われています。レアだから、というのは限界があるので。人気作品は二次創作が増えていくので、レアリティは後天的に増していきます。

市耒: 二次創作、三次創作が生まれやすいアーキテクチャーをつくるコツってなんなの。

草野: みなさんがNFTを買ったり、買ってつくったり、クリエイターに「自分のギャル」を発注して描いてもらったりしている。その活動の結果、その人自体が有名になると、ギャルのコスプレして出て来たり。今までのITの生み出され方と違いますね。

平野: 普通商品を買うと「ありがとうございました」と言われるけれど、NFTを買うと「ウェルカム!ようこそ!」と言われる。消費体験としてまったく違うもの。

草野: みんな模索中ですけどね。どう使うものなのか、どう楽しんでもらうものなのか。プロジェクトによってさまざまだし、手掛ける人によって解釈も違う。それがファンクラブなのか、チケットなのか、クラウドファンディングなのか、みんな模索中という感じです。