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Vol.3

Wieden+Kennedy Tokyo/コピーライター
太田祐美子

あの人のノート、いったい何が書かれているのだろう? 世を騒がせるクリエイターの思考法をのぞき見したい。樹木希林さんを起用した宝島社の企業広告など、話題作のコピーを多数手がけてきた太田祐美子さん。昨年、電通からワイデン+ケネディ トウキョウに転職してどんな変化が起きているのか、もとは同じ会社で交流をしていた本誌編集長・安達と、編集・一森が話を聞きました。

コピーライターとアートディレクターで
積み上げていく共有のノート

―普段持っているノートはありますか?

 このA5サイズがちょうどよくて常に持っているのですが、汚く書き散らすのであとから見ても「なにこれ?」となることが多いです(笑)。捨てちゃうし、書き終わらないうちにどこかに行ってしまうし。打ち合わせの内容や、そのとき思いついたことなどを書き付けているのですが、最近あまり書かなくなってきているかな。
 企画をするときは、マック上の「Notes」にバーッと思考を書き出して、そこからペアを組んでいるアートディレクター(以下AD)と共有しているGoogleスライドに書き込んで行くのがメインです。

―デジタルで、共有できるノートですね。

 電通からワイデン+ケネディ トウキョウ(以下、ワイデン)に転職して、仕事の仕方が大きく変わったんです。
 電通では企画をつくるときに、1週間に1度程度の打ち合わせに向けて、個人個人が企画書をまとめていました。ワイデンではクリエイティブディレクター(以下CD)に見せる前に、コピーライター(以下CW)とADで何回も何回も打ち合わせをして、ふたりの共同の企画として週に2度ほどCDに見せるんです。だから、CWとADでGoogle上のノートを共有して、打ち合わせをしながらどんどん書いて消してをしています。話しながら書き込んで、ちょっと離れてそれぞれで詰めて、その日のうちにまた話す。

何度もの打ち合わせでビルドアップ
ノートは千ページ超に

―毎日何度も打ち合わせながら一緒につくっていくのと、1週間をかけて個人で詰めるのと、どちらがいいと感じていますか?

 難しい質問! 一緒に話すことでアイデアが広がることはたくさんあります。話しているときにビルドアップするものが大きいので、このやり方は好きです。
 一方で、なあなあにならないようにしっかり意識を持っていないと、平気で手ぶらで企画に行っちゃいそうな怖さも。自分次第ですね。1週間に1度の打ち合わせだったとき、毎日企画していたかというと、していなかった気もするし。

―前日にやりがちですもんね(笑)。僕は勝手に太田さんを職人タイプだと思っているのですが、職人タイプの人って、打ち合わせでビルドアップするの苦手だったりしませんか?

 はい、アイデアをポッと出す恥ずかしさがあります。もっと練って書き上げてから出したいという気持ちはある。だからけっこう共通のノートに書き込んでおいて、打ち合わせに臨みます。ほかの人はもっとその場のバイブスでやっているけれど、私は苦手なので。
 でも今は、セッションでビルドアップするのも好きになってきました。「自分はこう思うけど、どうかな」と口に出すと返ってくるので、壁打ちをお互いにし合っている感じ。「どう思う?」「どう思う?」と質問しあってビルドアップ。

Google スライド

―「打ち合わせ」の正しいあり方ですね。

 まさに“打ち合わせ”。リモートで午前中ずっとつなぎっぱなしのこともあります。「ちょっと考えよう」という間もつないでいて、たまに「こういうのどう?」と話しながら共通のノートに書き込みまくる。聞きたいことがあったら「ちょっと」と話しかけて。クリエイティブだけでどんどん書き込んだもののなかから、「このページはCDも見るデッキに移そう」とか、「チーム全体が見るところに」など数種類使い分けて。元のノートは千何ページとなることもあります。

―CMプランナーはいないんですか。

 いないんですよ。ワイデンはもともとダン・ワイデンというCWとデビッド・ケネディというADでつくった会社なので、アート&コピーで仕事するということをとても大事にしています。バラバラではなく、ふたりでということを大事にしているので、ノートもこういうやり方に。

日本語の仕事でも、ノートと打ち合わせは英語

Notes

―日本語の仕事も、英語の仕事も両方あるの? 英語でノートを取るときは、英語で思考するんですか。

 社全体で、手掛ける広告のアウトプットの8割程度が日本語です。
 なのでコピー自体は日本語で書くのですが、クライアントが外資が多いのでプレゼン資料や打ち合わせは英語がほとんどだ。だからノートに書くときは英語です。
 英語のネイティブのCWも入るので、3人セットで共有するためにも英語で書き込むことになります。
 自分だけが見るNotesにも、英語で打ち合わせのときは英語でメモします。クリエイティブ同士で一日何度も打ち合わせをするから、言語を行ったり来たりしていると、わからなくなってしまうんですよ。
そして私は英語がそこまでペラペラではないので、共有のノートにはわかってもらえるように英語でたくさん書き込むようにしています。打ち合わせでうまく言えなかったとしても読めばわかってもらえるように、考えていることややりたいことをしっかり書いています。

―チームに自分のほかにもうひとりCWがいるっておもしろいですね。

 いつもペアを組んでいるアメリカ人のCWがいます。通常、日本でCW同士で組むことはほぼありません。“言葉”同士で組むと、企画ってこんなにも広がるんだと毎日楽しんでいます。日本に住むアメリカ人の彼女の視点は、自分にはないものだったり、逆にとても共感できるものだったり。そのギャップを含めておもしろいです。いろんな文化の人が混ざってチームをつくろうという会社なので、そのミクスチャーで自分一人ではつくれないものがつくれている気がします。

―クリエイティブにおいて仕事で英語を使うって難しそう。英語はいつ勉強したんですか?

 子どものころ、親の赴任でシンガポールのインターナショナルスクールに通っていたんです。だから英語の素地はありました。ただ、英語のネイティブと言語的に100%理解しあえなかったとしても、広告という共通言語があるので意外と理解してもらえることが多いです。言葉が違っても、同じ広告人だからこそ言わんとしていることがわかる。日本人同士でもそうではないですか? 同じ業界で長くやっていると、全部言語化しなくても「コピーでこういう言い方はしたくないよね」みたいな共通感覚があって、言葉以上に伝わることがある。

―日本語のコピーのよさを英語でプレゼンしなくてはいけないんですね。

 外国の人に日本語のコピーのよさを伝えるのは難しいです。表面的な意味だけではなくて、意図していることが何かでOKを取りに行きます。そこを認めてもらって、表現は任せてもらえるように仕向けます。「この言い方が凝っていて」なんて話しても「わからない」となってしまうから。基本に立ち返って、what to say、how to sayをしっかり説明するようにしています。