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目的意識の外に行くための鍛え方

小布施:とすると、「アイデアを通す」という意識がありすぎると通せない。「アイデアを掴む」という感覚でなければダメということですよね。

荒木: 目的がありすぎるとダメなんですよね。ある種、忘我の境地に、外側にいかなくてはいけない。ただ、これは本当に鍛えられていないとできない領域で、すごく足腰が鍛えられていて、自分に自信があるからこそ外に目が行くということ。本当のプロフェッショナリズムが集まっている集団では、そういうコラボレーションが生まれますよね。そこにアマチュアというか、「自分はこれを言わなくては!」という人が何人か入っていると、持論ばかりで流れがシュンとしてしまう。

木嵜: それは……どう鍛えたらいいですか?

荒木: 例えば営業のすごい人に同行して見る一挙手一投足には、すごく学びがありますよね。「あのとき口をつぐんだのはなぜですか!?」みたいな。伝承は必要ですね。

石田: あとは解像度を高くするということ。空間を読む解像度というのが存在すると思います。例えばこのイス、深く寄りかかることを前提につくられているけど、僕ら全員前のめりで机に手を置いている(笑)。みんな前のめりで、テンション高まりすぎているかもな、と読む。そしてこの照明はかなり強い光なので、目から入る刺激で脳が閉じがちになっているなとか。こういうことへの解像度を上げるのも、ひとつの鍛え方だと思います。
イレギュラーに遭遇したときや、昨日飲みすぎて体調悪いなというとき、自分をどうやって発揮するかというと、解像度を上げておいたり、なにかツールを持っておいたり。そういう飛び道具的なものを持っていることで、どんな場所でもある程度の合格点は出せると考えたりしますね。

小布施:明日から実践できることで言うと、外への意識をちゃんと向けて、場をどうするかと意識することが大事。

石田: 「聴く」ということですよね。ロンドンで演劇学校に行っていたとき、毎日のように「listen」「listen」と言われるんです。傾聴ということで、耳だけでなく目や全身で聴く。聴いたことに対するリアクションが、アクティングなんですよね。

荒木: その「聴く」を妨げるのが、知識なんですよね。誰かが何かを話したときに、「この話はこのパターンね」と知識のデーターベースをもとに聴かなくなる。メンバーに「実はこれは」と話し始められたときも、知識先行になるとちゃんと聴かない。でも本当は、ちゃんとその人の言葉に耳を澄まして、よく見れば、違う状況が立ち現れてくるんです。そのときの環境の些細な違いをちゃんと認識するのは認知の負荷がかかる、だからショートカットしたくなるんですよね。

小布施:新鮮に受け止めるというのが本当に重要ですよね。

荒木: この瞬間は二度とないという認識を持つ。

クライアントと築きたい新しい関係性

小布施:広告業界ではクリエイター同士はブレストしてアイデアを打ち合わせるんですけど、クライアントに対してはプレゼンするんですよね。筋道を立ててきちんと説明をする技法があるんですけど、もしかしてクライアントも一緒に同じ会議に入ってアイデアを掴むということができたら。

荒木: めっちゃアリですよね。それが本当のパートナーシップになると思います。「こちらは課題を特定した、君らはソリューションを提示したまえ」のように上下関係、役割分担がされてしまうと、その関係性から抜けられなくなってしまう。「課題待ってます」になってしまう。

石田: 受動的な状態ですよね。

荒木: 課題もソリューションも一緒に考えましょう。ひとりでは難しいから、私たちも入りますという関係性を最初に定義できたら。それはとても大きなビジネスになる。価値をともに生み出す関係性に変えていくには、本当に腕前を問われますね。

石田: でも、金銭が関わってくると上下関係は生じてしまうじゃないですか。対価を出すんだからアイデア出してよ、と。どう変えていくかが難しいですよね。

荒木: 上流から会議に入れるような関係の在り方を構築しないと、今の話は絵に描いた餅になってしまう。

石田: 対峙はそもそも対立を生む関係なので、同じ方を向きましょうというのが前提として大事。そのうえで僕らはあなたをサポートしますとか、アイデアが出やすい環境をつくりますとか、それがサービスですっていう考え方もありなのかな。

小日向:組織の在り方は、今変わってきていますよね。組織の外・中という関係もだんだん変わってきていませんか? パートナーシップの結び方が変わってきていて、“代理店とクライアント”という壁の在り方を変える方向に動いているのでは。

小布施:そこを変えるとイノベーションが起きるかもしれない。

小日向:「商流」という言葉がありますけど、エコシステム的なものも変わってくるんじゃないですかね。どんどん境がなくなっている感じがしています。

ベテランの、若者の、それぞれのがんばりどころ

木嵜: 「価値の生み方」に対するアドバイスをお願いします。

荒木: 今日の話でいくと、ちょっとした環境づくりでポテンシャルが引き出される。席のつくり方、環境設計。服装ひとつとっても価値を生み出しやすいものが多分ある。そこはあまり探求されていないじゃないですか。私たちの身体が持っている可能性、非言語的なものにも意識を向けて。石田さんも「ここに流れている空気」とか気持ち悪いこと言ってた(笑)。ビジネスで成功している人で、怪しいことを言いだす人っているじゃないですか。そういうところに気づくんじゃないかという気もしますね。言葉を超えた何か。

木嵜: 観客の方からも、質問があれば。

観客: 僕たち10代が、これから社会や企業に対して「価値を生み出せる人」を伝えなきゃいけない。言語化できないものを定量的に伝えるのは難しいと感じたのですが。

荒木: 最初は形式知から始まるのが知のサイクルだと思います。はじめの段階はできるだけ言語を磨く。それで言語を語りつくしたときに、まだ語りつくせていない何かを感じたら、次のステージに行く。身体感覚が開かれるところに。まずは社会に適用できるような言語化をがんばってください。

石田: いきなり「この空間にあるものを掴む」とかは10代で難しいですもんね。まずは言語化や組織の環境に入ることをして、どこかの時点で離れて、また帰ってくる。荒木さんもおっしゃっているらせん構造で、より高まっていくんじゃないでしょうか。

小日向:言語、ストラクチャーの世界とカオスの世界を行ったり来たりすることが重要。若くて経験がなく、言語化能力が低かったりすると、世の中では評価が低くなりがちですね。それは気にする必要ないと思います。むしろ非言語の能力――「能力がないと言われているかもしれないけれど、自分はここにいてよい」という根っこを強くして。

【本日のking of commentは、石田さんの「空間を把握する解像度」】

石田: 僕が言ったんじゃないですよ、流れていたものを掴んだだけ。

一同: (笑)

荒木: 事前にどんな話をしようかと相談していたんですが、やっぱり目的を意識すると空気を掴めなくなるからやめようとなったんです。今日は双発的ないい議論ができたのではと思います。

小布施:目的意識を持たずに、というのは難しいと思いますけど、アイデアは場がつくってくれるというのは今日の学びだったかと思います。「自分が」ではなく「メンバーが」、「場が」生み出してくれる。広告業界にいるクリエイターとしてすごく示唆深い学びがありました。

text:矢島 史