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メンバーに託す
伸びるリーダーシップの在り方

荒木: 優秀な経営者や起業家は強いメッセージを持っている。強いメッセージがあるほど、創発的でなくなるわけですよ。つまり、「考えるのは自分で、みんなは実行者ね」と自分がキャップになっちゃう。ある程度まではいっても、超えようと思うとコラボレーションが必要になってくるから、そこで初めて「俺偉すぎたな」と気づくんですよね。関係性を変えるのは難しいな、と。立ち位置はトップでも、いかにフラットにみんなからアイデアを引き出していくかということを、早い段階から取り組まないといけない。つい、いつも言いたいことを全部言ってしまって「どや!」となりがち。

小日向:組織の中での余白も必要なんですね。

荒木: まさに。ちょっと我慢して寸止めして、あとはみんなが考えてみて、というくらいにしたいところ。だから「価値を生み出す組織のつくり方」はあるんです。

小布施:正解に向かって最短距離で行く会議のやり方があってもいいと思うんですけど、今は正解のない時代。新しい価値をつくらなくてはというときの会議の在り方とはなんでしょう。はじめからアジェンダが用意されていて、時間通りに進んでいないとみんな焦ってしまって。そんな空気感だとなかなか価値も生まれてこない。

荒木: 「正解がない」と言いつつ、実は正解持ってたりするじゃないですか。例えば「一番偉い部長がどうせ最後に正解を出してくるんだよな」という空気。そうなると、部下が何か言っても茶番に過ぎない。どうせ最後に答え合わせさせられるんだから、ヘタなこと言わない方が安全だ、と。部長はいつも偉そうな場所に座っていて、最後はみんなでチラチラと部長を見る。こういう構造だと「正解を出す人」が決まってしまうので、まずそこから打ち壊さなくちゃいけない。

小布施:会議は、いい場のつくり方と密接に関係しているんですね。

荒木: だからカオスを許容しなきゃいけないんですよ。新しいものを生み出すときは、「これ大丈夫なのか!?」というようなカオスに一度落ちないと。予定調和ではなかなか。

小日向:私も最初の研修では、企業にいたときの癖で「こんなアウトプットを時間内に持ち帰っていただかなくては!」となって。でも、やればやるほどこぼれ落ちて、どんどんつまらないものになっていったんです。予定を立てないと1時間の会議で終わらないのではないか、偶発性のあるものは降りてこないのではないかと心配になっていくんですよね。それを手放すのがとても重要。「私の意図」を手放す。これもホースコーチングをしていて最も強く思うことです。

自分を手放すために必要なのは、
準備をしたという自信

石田: 役者として考えてみると、手放そうと思えば思うほど手放せないんですよね。どうするかというと僕の場合は、「自分はこれを持っているから、こっちには目を向けなくていい」というふうに。自信を自覚したうえで、えいやとそこから抜ける度胸が必要です。人間はどうしても、手放さなきゃと思うほど握りたくなるので。

小日向:わかります。だから感覚を鍛えなくてはいけない。

荒木: カンファレンスなどでも一番いやなのは、ファシリテーターがスライドとか用意して、「何分にこれ聞きますから」と事前に言ってきて。そうなると3人いたとしても、ファシリテーターと1対1になってしまってつまらないんです。
ただ何の準備もしなくていいのかというと、それは違う。準備はめちゃくちゃするんですよ。それぞれの人についてしっかり理解して、でも場に上がった瞬間すべて忘れる。準備したという自信が、あとはもうその場に意識を向けさせてくれるんです。

石田: 役者も、セリフを忘れるまで覚えるんです。セリフを思い出しながら演技はできないので、そんなことしなくていいくらい身につける。浸透させる。すると違うところにフォーカスできる。

小布施:石田さんは即興舞台もされていますね。それは拡大解釈すれば、その場でファシリテートするということになると思うんですけど、準備していたことをしゃべるだけではないんですか。

石田: 即興なのでセリフはありません。だからといって、準備しなくていいのかというと、そうではない。即興演技のために必要なスキルはたくさんあって、知っておかなくてはいけないんです。でもそのルールを知ったうえで、それを壊しているのか、壊していないのかを確信犯的に自覚しながらやっていく。

場に漂っている解をみんなで掴む

石田: さっきも「今ここ」という話が出ましたが、「この場に来た僕らはこんなバックグラウンドで」「今日はこんな天気」で――もっと言えば「観客は何を求めているか」「観客は何を考えているか」という空間を読む。即興演技的には、空間に正解のストーリーがふわーっと漂っているという考え方をします。

小布施:自分の中にあるわけではなく。

石田: ここに浮遊しているものを、みんなでどう掴み取るか。浮遊している部分から外れていなければ正解はいくらでもあるけれど、やってはいけないこともいくらでもあるのが難しい。でも、「ここに浮いているのを掴むだけ」と考えることによって、自分の責任として考えなくてもよくなる側面もあるんです。「これを出さなきゃ」「自分が言わなきゃ」となっていると、もう一人の自分が「今おかしかったんじゃない」「変なこと言ったんじゃない」と自分に対してマイナスなことばかり言い始めてしまう。そういうのを“リトルファッカー”って言うんですけど、それを殺すためには自分ではなく浮遊しているものに集中する。

小布施:なるほど~。クリエイターの会議では、後輩が先輩にアイデアを出して、先輩が選び取るという行為が多いんですよ。すると後輩を超えるアイデアってあまり出てこない。選んでいるだけなので。今のお話を聞いて、漂っている正解をみんなで掴みにいこうとすれば、違う解が出るんじゃないかなと感じました。即興舞台から学べることがありそうです。

石田: 欧米では、チームビルディング用の研修に即興演劇が取り入れられています。

小日向:ホースコーチングととても似ていると感じます。例えば、「群れになる」というアクティビティがあるんですね。馬の群れと人間の群れを、ひとつの群れにする。ひとつになったと感じたら、手を上げます。みんなが一度に上げたなら、きっとその空気を掴んだということ。全然手の上がらないチームもあるんですけど、なんだかんだわかっていくんです。「こういうことか」と。以前クリエイターさんたちが来たときは、この経験をしてもらったあとに会議をして、全然違ったそうです。

石田: 荒木さんの「裸眼になる」も近いと思うのですが、手を上げる瞬間を探している間は上がらないんじゃないかな。そのエゴから逃れて、ただ単にこの空間を読んでいれば、「ハッ」と気づくときがあるんだと思う。そこに正直に反応して手を上げるのがまた、難しいんですよね。「あれ、今…」と思ったときはもう遅い。「今」というときに手が上がるかが重要なところ。

小日向:内需要感覚が必要ですね。