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箭内: でも、当てには行きたくないんでしょう?

 岡: 当てには行かないですね。当てに行ったら終わっちゃうだろうな。

箭内: 僕、岡さんに競合で勝ったことがあるんですけど、後日、岡さんから「つまらない案だな」って言われて(笑)。

 岡: 悔し紛れに言ってるだけだと思うよ。

箭内: 「箭内、そんなことまでして勝ちたいの?」って(笑)。あと、昔ある仕事で営業が僕に気を使ってくれて、競合が岡さんだってこと言わないでいてくれたんですよ、プレゼンが終わるまで。岡さんが相手だとわかってたら、絶対違う案にしたり、ものすごい力んだりしちゃっただろうなと思うと、その営業のセンスがすごいなと思ったんですけど。

 岡: いずれにせよ箭内にも負けてるわけだよね?(笑)

箭内: いや、オレ、その2回くらいだけですよ。ほか結構負けてますもん、岡さんに。でも、何か意味あるんですかね? そんなところで戦ってるの。

 岡: いや、意味はないけど、お金にはなるよね(笑)。勝ったほうは。だけど、絶対に通そうなんて思うと、色んなことで妥協せざるを得なくなる。向こうの言い分もわかるし、向こうの立場だってある。そういうことを斟酌できるのが、まあ大人なんだろうけど、結果つまらないものを作っちゃうと、それこそ意味がないわけだから。だから、「そうまでして勝たなくてもいい」というふうにはいまもみんなに言ってるし、みんなもそうしてるんだと思うんですよね。

箭内: そう言える理由のひとつじゃないけど、お金いっぱいあるじゃないですか?

 岡: いや、そんなでもないと思うよ。

箭内: 「TUGBOATはお金があるからのびのびやれるのかな?」なんて。

 岡: いや、今月は給料ナシとか言うときもあるしね。

箭内: 本当ですか?

 岡: そりゃあるよ。「会社にお金がないです」って経理の人に言われて。もちろん、経理上は会社が借金をしたということになるので、いずれはみんなに返すんだけど、そういう月だってあるし、あんまり頓着してないですよね。

箭内: 土日はいまも休んでるんですか?

 岡: 休んでますけど、今度の日曜は撮影があるとか、どうしてももう一回MAやりたいとか、そういうときは仕方ないよね。でも、基本的には休むし、出て行かない。撮影も自分がプランナーのときは行かざるをえないけど、多田や麻生がやってるなら土日は行かない。

箭内: PPM(撮影前の最終打ち合わせ)も行かないって噂を聞いたことがありますけど。

 岡: PPMはプロデューサーの場だからね。基本的にはあまり関係ないと思ってる。

箭内: いいなあ。

 岡: PPMってプロデューサーの見せ場でしょう? 「どう撮るか?」っていうことを話す。

箭内: でも、営業だったり制作会社が余計な約束をさせられて帰って来るパターンもあるじゃないですか。PPMって。
だから心配になって行っちゃいますよね、僕なんかは。

 岡: いやいや、TUGBOATがだれも行かないわけじゃないよ。多田や麻生は行ってます。僕も自分がプランナーのときは行ってますから。だれかが行って見張っとかないと。だけど、あそこでプロデューサーが引き気味なのは許さない。「今日は君のための1時間だから」って言うんだけど。

箭内: プロデューサーの話が出たのでそこも聞きたいんですけど、いいプロデューサーの条件って岡さんの中にあります?

 岡: その人と一緒に組むことで、自分の力をふつうよりいい状態で発揮させてくれる人が一番いいとは思いますよね。
「この人とやってると、オレつまんないやつになっちゃうな」っていうケースもあるじゃないですか。そういうのはわりと敏感に見極めてるんだけど。
そう言えば昔、小田桐(昭)さんが、「再撮するかどうかの判断を下せる人だけがプロデューサーだ。『会社に持ち帰って検討します』なんて言ってるやつとは仕事すんな」って言ってたんだけど、それってプロダクションのエースだけじゃないですか。
僕はそのときまだ若造だったんで、そういうプロデューサーと仕事する機会はなかったんだけど、でも、小田桐さんの規定では「最悪のときに救える」人がいいプロデューサーなんでしょうね。つまり、順調なときはだれだっていいわけだから、チームが困ったときに判断できる人こそ必要だと。「なるほど、そういう見方もあるな」と思いましたね。

箭内: その流れで「いい営業とは?」って質問をすると、岡さんは営業上がりというか…まあ、営業崩れではないと思うんですけど。

 岡: いや、崩れに近いと思う(笑)。できなかったもん、オレ、まるで。ほんと恥ずかしいくらいにダメな営業で。

箭内: 相手に取り入ったりできない?

 岡: 取り入るどころか、その前の段階で。まず楽しそうにお話ができない、偉いおじさんと(笑)。いまは多少できるんですけど、得意じゃないね。知らない人が苦手っていうか。毎日、クライアントのところに行って話をしなくちゃいけないんだけど、みんな年上で。なんか全然できなかった、そういうこと。
そういうのが顔に出る癖(ヘキ)もあって、当時、電通があるクライアントに対して提案していた企画が、どう見たってつまんなかったんですよ。で、「つまんねーな、これ」と思いながらプレゼンの席にいたら、あとで営業部長にすっごい怒られて。「どんな案でも素晴らしいと言え」と(笑)。「それは言えないな」と思ったんだけど、「言えないってどういうことなんだ?」みたいになって、揉めたり怒られたり。本当にダメな営業ですよね。

箭内: 岡さんが考えるいい営業の条件って何ですか?

 岡: 営業ってものすごい高度な仕事ですから。クリエイティブはどっちが面白いとか、どっちが美しいとか、わりと子供っぽいことを言い続けるのが仕事なんだけど、営業は僕らとクライアントのあいだに立ってまとめる大人っぽい仕事なので、相当優秀じゃないとできないと思う。
だれかの顔を立てたり、振り上げた拳をどこに下すのかを考えたり、そういう俗人的なことをやりながらも、「このクリエイティブをなんとかモノにしよう」とするのは難しいことだなと。僕にはその能力も素質もなかったんだけど、ときどき素晴らしい営業がいますよ。極めて優れたものを求めている人がいて、そのときは燃えますよね。

箭内: じゃ、教えてシリーズの三部作で。岡さんにとってのいいクライアントとは?

 岡: 営業と通じるところもあるんですけど、制作者にプロとしての高い要求をしつつ、制作の過程を通じて細心の注意を払いながらずっと心配し続けられる人っていうんですかね? 結果、そういう人たちと組んだときにいいものになりますから。任せっぱなしでもなく、管理しっぱなしでもないというか。
一番つまらないのは、クライアントと営業が重なって見えるときですね。クライアントはそういう立場だとして、クリエイティブがいて、営業はまた別の立場で異なる視点を持ちながら三者で進んで行ったときにいい結果が出る。三角形のほうが強いんですよ。

箭内: クリエイティブが子供で営業は大人っていう例えが興味深いんですけど、なんて言うんですかね? TUGBOATも大人になったと言うと失礼かもしれないけど、少年でありつつ、昔よりクライアントや商品との良い関係が築けているというか、そこに愛情があるように感じるんです。

 岡: なるほど。確かに昔のほうが揉めてましたね。TUGBOATができて4~5年までの頃はね。言われてみれば、みんな18年歳とったわけで。もう子供ではいられなくなったのかもしれないし、周囲がTUGBOATのやり方に慣れてきたっていうのもあると思うんだけど。

箭内: 昔は「TUGBOATが通った後には草も生えない」なんて言ってる人もいましたからね(笑)。TUGBOATがわーっと面白いことやってお金も使っちゃって、いなくなるとそこにはもう予算も残ってない、商品のことだけ言わなきゃいけないみたいな。

 岡: そんなことないよ(笑)。

箭内: いや、その頃って業界はTUGBOATへの羨望と嫉妬とやっかみみたいなものに溢れてたと思うんですよね。いまはだいぶ嫉妬し続けることにみんな疲れてきたのか、そういうのも聞かなくなってきましたけど。で、うかがってみたいのは、これからのTUGBOATってどうなっていくんですか?

 岡: どうなんでしょうね? もともと「5年くらいしかもたないだろうな」と、みんな口には出さないけど内心そう思っていた集団ではあるので、すでにいま信じられない状態になっちゃってるんだけど。そんな感じですからね。ここから先のビジョンもないんですよ。成り行きというか。