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~クリエイターわらしべ物語~

―もともとクリエイター志望だったんですか?

「いえ、マーケティング志望でした。大学で社会心理学をやってましたし、研究っぽい仕事なら、自分のような性格でもできるかな、と。ところがいきなりクリエイティブ配属で…。ただ、電通には他に、営業とか媒体とか、僕のような性格の人間にはもっと向いてなさそうな仕事がいっぱいありましたから、まあ中ではよかったなと思いました。配属された後は、クリエイティブの才能がないと違う職種に異動になってしまうので、それが心配でしたね。もちろんなんとか早めに実績を作ってクリエイティブとして評価されることを目指す、というのが基本なのですが、そこで僕が使ったワザは“こいつはクリエイティブの才能もないかもしれないけど、他の職種の才能はもっとない”という空気を出すこと。その空気を出すことに成功していたことだけは、自信があります(笑)。」

―ネガティブなキャラでやっておられますが、子どものころから?いや、キャラっていうのはホラ、お話している今そんな感じしませんからね。楽しくって。

「そうですか? 幼稚園の藤棚の柱から校庭の真ん中で遊んでいる同級生たちを見てるっていう子ども時代から、今までずっとそんな感じです。先ほど言った、公園で本を読んでいた時も、ホームレスの方に心配されましたからね。“君、いつもいるけど、大丈夫なの”って…。」

―わらしべ時代に意識していたライバルとかいました?

「ライバルではないのですが、衝撃を受けたのは佐藤雅彦さんですね。新入社員の頃、佐藤さんの下で働いたことがあるのですが、彼が何をどう考えて企画を思いついているのか、近くで見ていてもまったくわからなかった。どんなにがんばっても、あそこには行けないんだなと思いました。なんというか、地続きの場所にいないので、絶対にたどり着けない感じ。それも若い頃、今ひとつやる気がでなかった原因になっていたかもしれません。自分なんてどんなにがんばってもたかが知れているという自信が、佐藤さんとの出会いで確信に変わった。」

―確信に(笑)。やめたいと思ったことは?

「それはないんですよね。どんなに仕事がうまくいかなくても、月々ちゃんと給料が振り込まれる。サラリーマンって、ありがたいものだなあ、と思っていました。元々自分にそれほど期待してないので、わりと現状に満足できてしまうタイプなんです。」

企画が、好き

―現在はたくさんお仕事抱えられて、すごく忙しいでしょう。

「仕事はだいたい10本ぐらいが並行して進んでいく感じでしょうか。でも、徹夜とかはしたことないですよ。基本的に企画は午前中と決めています。なぜなら午後になると、眠くなってしまうから。もう企画にとって眠気というのが一番の敵ですからね。睡眠時間も7時間は確実にキープしています。この企画という仕事のことは、自分の体質に合っているのか、あんまり嫌だと思ったことはないんです。CMプランナーという仕事の中で、一番好きな部分ですね。夜、タクシーの窓とかから喫茶店でノートやパソコンを広げてる人たちを見ると、“いいなあ、あそこに混じって自分も企画したいなあ”と思ったりします。苦手なのは、実制作の部分ですね。撮影の時なんかは、とにかく目立たないように、タレントさんやら監督やらのあれやこれやを、モニターの陰でそっと見ている感じです。」

―今年受賞したBOSSについて。シリーズどれも面白いけど、どうやって企画してるんですか?

「とにかくシリーズ1年目は、ACCさんにガン無視されたんですよ。1次審査すら通らなかった。『宇宙人ジョーンズ』シリーズのよさを、当初、ACC審査員が見抜けなかったことだけは、ここで言っておきたいですね(笑)。今はシリーズ10年目なんですが、企画の入り口は、ジョーンズが毎回職業を変えていくので、今度はどんな職業にするか。あとは、今を描けるような旬な話題があるか、といったことでしょうか。宇宙人ジョーンズがこの惑星を見て言っていることは、ほとんど僕が思っていることに近いかもしれません。集団になじめず、端っこから見てきた自分の性質が、この仕事で初めて活きた感じです。地球人を、冷ややか、というわけでもなく、かといって、温かい、というわけでもなく、ちょっと離れたところからぼんやり見ている感じ、でしょうか。」

大切なのは、機能しているCMか

―今のテレビCMについてどう思いますか。

「テレビが昔ほどには見られてないですから、とにかく番組もCMも面白くなって、テレビ全体の注目度を上げていかないとだめですよね。そういう意味では、広告主さんとCMの作り手が同じ方向を向ける時代とも言えるんじゃないでしょうか。面白くないと見てもらえないので、CMは面白くあるべきだ、ということに誰も反対しない時代になってきた。オリエンでも、広告主さんから、とにかく面白くて話題になるCMを作ってくれ、と言われることが増えてきました。

ACCのフィルム部門がA(テレビCM)とB(それ以外のムービー)に分かれましたけど、やっぱり僕はAを重視したいんですよね。Bも面白いんですけど、まだ広告としてどう機能しているのか、あいまいなところもある。それに比べて、テレビCMの方は、長年厳しい環境に鍛えられてきましたから、僕ら作り手が思っている以上に、今なお力を持っている気がします。たとえば、今年のACCの審査で言うと、僕はauとライザップを応援したんですけど、どちらも、あそこまでのムーブメントを、テレビCM以外の方法で作り出すのは難しいんじゃないでしょうか。そういうちゃんと機能したCMを、ACCがきちんとゴールドという形で評価したこともよかったと思っています。」

―最後に、若い人へのアドバイスをください。

「とにかく、ACCの小田桐昭賞をめざせ!と言いたいですね。漠然とした目標よりも、具体的な目標があったほうがいい。とすると、3年前に生まれた、CMの神様と呼ばれる小田桐さんの名前を冠したこの賞は、目標にぴったりじゃないでしょうか。むしろ僕が獲りたいんですけどね(笑)。」

福里真一(ふくさと・しんいち)

ワンスカイ CMプランナー・コピーライター 1968年鎌倉生まれ。
ACCではいままでに、ジョージア「明日があるさ」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「ReBORN」で、計3回のグランプリを受賞している。
その他の主な仕事に、トヨタ自動車「こども店長」「TOYOTOWN」、ダイハツ「日本のどこかで」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、ゆうパック「バカまじめな男」など。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)など。