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アイデアの祭典「TOKYO CREATIVE CROSSING」オンライン開催!
その目指すものと、見えたもの

これまでの贈賞式を拡張し、業界を超えた人々がつながり、学べる場として立ち上げた「TOKYO CREATIVE CROSSING」。このイベントを通じてACCが発信できることは何か。コロナで激変する社会でクリエイティブに何ができるのか。アワード改革委員会・副委員長の佐々木氏、イベント総合プロデュースの松井氏、デザイン部門審査委員として初めてACCのアワードに参加した山本氏を迎え、編集長が話を伺いました。

佐々木康晴氏(電通/デジタル・クリエーティブ・センター長/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
松井美樹氏(博報堂/クリエイティブ戦略局 局長)
山本尚美氏(資生堂/チーフクリエイティブオフィサー)

今年だからこその、開催の意義

―「クリエイティブクロッシング」、さまざまなコンテンツをフラットに見ることができて学びになりました。コロナ禍でも中止を選ばず、オンラインでの開催を決めた経緯を教えてください。

松井:コロナ以前から、アワード改革委員会でACC賞の価値を上げようと模索していました。はじめは「クリエイティブ・ウィーク・プロジェクト」として一週間の開催を予定していたんです。賞の部門は増えたけれど横のつながりがないので、それぞれに関わる人たちが交じり合うことが大事なのではないかと。そして、これまでACCが持っていた贈賞式の「限られた人が伝統的なホテルで」という印象を壊そう、オープンな場に移そうという話が出たんです。次の時代のクリエイティビティを象徴するのは、いろいろな立場の人や多様な企業が混在する渋谷ではないかと。「多様に交じり合う」、そして「交差点に象徴される渋谷で開催」ということで「クロッシング」というキーワードが出てきました。最初はリアルなイベントを想像していたので、渋谷各所で毎晩パーティを催して、さまざまな人々が交流できたらいいと考えていました。でもコロナでそれができなくなって。

―カンヌもアドフェストも中止になりましたよね。

松井:本当に残念でしたね。でも僕らは秋まで時間があるからと切り替えて、オンラインでの開催となりました。

佐々木:オンラインでも、やらないとまずいと思ったんです。この大事な一年の変化が記録できなくなってしまうから。今年の前と後しかないと、その間に何が起きたのか測れない。賑やかに楽しくということではなくても、どんなコミュニケーションをしたらいいのかわからない今だからこそ出る、すごいアイデアがあるはずで。今年観測しないと大事なものが漏れてしまう。そして、こんな時だからこそクリエイティブが必要とされている。むしろ縮こまることなく、いろいろなことをやっていこうとエンカレッジしたかったんですね。開催に向けてはみなさん大変だったと思うんですけど、できてよかったです。
 当初の予定通りリアルイベントができたとしたら、広告業界ではない普通の人や、広告以外のクリエイターも交じり合わせたかったんですね。広告のクリエイティブはなんとなく浮世離れしてきているところがある。誰がこのメディアを見ているのか、を関係なくつくってしまっている感じがあって。でもリアルに渋谷を見れば、「みんな見てないな」とか「この人、別のところですごい」とか、さまざまなことに気づくかなと思ったんです。ヤングコンペは渋谷の課題と接着してクリエイティブのアイデアを出すことができて、素晴らしかったですね。

山本:私は初めてACCで審査委員をして、正直こんなにいいアワードだったとは知りませんでした。日本人はすごく相手を尊重して議論ができますね。自己主張が激しく、意見がまとまらないということも海外の場合はありますが。審査委員がほぼ日本人というのがいいかどうかわからないけど、ハーモナイズを感じました。そしてオンラインでイベントを拝見していて、臨場感や盛り上がり感はオフラインと同じように素晴らしかったです。

―オンラインにしたことで発信できたこと、というのはあったんでしょうか。

松井:オンラインのほうが敷居が下がりますね。気軽に自分の専門以外のところも聞いてみようかな、と思える。その点ではボーダーを広域に超えることにつながったかな。人と人が出会うチャンスはなかったけれど、個人的なボーダーを超える人は多かったかも。CMしか興味のない僕の後輩たちが、ほかの部門も見ていたんです。これが起きるのはオンラインならでは。

佐々木康晴 氏

佐々木:気楽に見られるというのはありますね。でもオンラインだからというわけではなくて、今までのACCは贈賞式だけだったじゃないですか。それがオンラインとなると何か言わなきゃいけなくなって、なんでこれが獲ったのかとか、今年何が起きているのかとか、言語化したんです。そこに一番価値があった気がします。

松井:改革委員のメンバーでも、言語化が大事だと話していました。オンラインで発表となれば説明する必要が出ます。その緊張感が今回はありました。審査委員同士で話すセッションとか、なぜこの作品を選んだのかと発信する文化が生まれればいいなという思いがありました。

山本:言語化されていたので、同じ作品が部門をまたいで受賞していたときに視点が違ったり、あるいは一緒だったり、とても納得感がありました。次はここを目指そうと、配信を見て感じた方も多かったのではないかなと思います。ただうちのクリエイターたちがどれくらい見ていたかというと……告知が足りなかったかもしれません。コロナ前後の作品が観られて、作り手側の心の変化もあっただろうし、さまざまなことがマクロで見えてすごく勉強になる。社のクリエイターたちには見せようと思っています。

佐々木:たしかに若い人が見ていたかどうか、ちょっと不安ですね。

山本:クライアントは見るべきだと本当に思いましたよ。マーケッターがこれに触発されたらブリーフが変わるかもしれないと期待できました。カンヌもマーケッターの参加が増えていて、意識がESGに向かっているんですけど、日本ではまだまだ。商売のところで「ものを売りたい」気持ちのほうが強いなあと感じますから。

審査の中で見えたこと

―今年、新たにデザイン部門が設立されました。審査はいかがでしたか?

山本:デザインという言葉が広義になっていて、クラフトではない部分に変化している。例えば「ビジネスのデザイン」「社会のデザイン」というように。この部門ではほかのデザイン賞では獲らないものにフォーカスして、本質の部分を見たいと永井審査委員長からクライテリアの話がされました。でもやっぱりクラフトが……となったときに、天秤をどのようにしようかと議論になって。いっそクラフトを見ないことにしては?と言ったら「いやそれは!」と(笑)。クライテリアを決めるディスカッションを、2チームに分かれて行なったんです。私が参加したチームには、イタリア人の方も入っていたんですけど、サステナビリティやダイバーシティインクルージョンの話がたくさん出ました。それらの視点で課題に取り組んでいて、アウトプットにつながっていて、メッセージができているかがポイントだねと。いわゆるデザイン賞のデザインとは違う見方でなければならないけれど、本当に違っていいのかと葛藤がありました。

―本質とクラフト、難しいところですね。グランプリ作品にはどんな議論がありましたか?

山本尚美 氏

本:「分身ロボットカフェ」ですね。社会のデザインを大きく捉えている。クリエイティブイノベーション部門でもグランプリで、イベントでのプレゼンを聞いたらさらにすごいと思いました。デザイン部門にはあのアプローチでのエントリーではなかったんです。大判のポスターと説明ビデオが出されて、作品として出されたのはグラフィックだけだったので、何を見るかというのも難しくて。

松井:プレゼン素晴らしかったですね。

山本:素晴らしかった!あれを見たらデザイン部門の審査会でも満場一致で決めていたかもしれないですね。シルバーを獲った「Experience Olympian Greatness」は空間なのですが、賛否両論でした。テーマとしては安直に思えるけれど、結果としてオーディエンスがエクスペリエンスとして何か感じたなら、その得るものには価値があるんじゃないかと。単に空間デザインとしての判断なのか、体験した人々の心の高揚なのか、どちらを見るのか。デザイン部門ではポイントが分かれましたね。

松井:でもクラフトは相当影響しますよね。どこで線を引くかは難しい。今後、“社会的なアウトプットを生み出す運動体”のデザインなども出品されてくると思うのですけど、「運動体の設計」を評価するのか、「アウトプットとして出てきたもののクラフト」を評価するのか。

―デザインをどこの線で見るか。

佐々木:グッドデザイン賞の審査委員をしていたのですが、あちらも今ほとんどの上位作品がクラフトでもプロダクトでもなく、試みや活動なんですよね。とはいえクラフト的なことを失っていいのかというとそんなことないし、難しいですよね。

松井:ほかのデザイン賞もあるので、ACCがそっちに行くのであればそれもいい試みだなあとは思います。

―松井さん、マーケティング・エフェクティブネス(ME)部門の審査はいかがでしたか?

松井:審査委員の半数以上がクライアントであり、半数以上が女性なんです。エージェンシーの賞ではなく、この業界のマーケティングの賞と言えると思います。ぶっちゃけた話、男性より気にせずみなさん発言するので、本当に素晴らしいんですよ。初めて審査する方が「こんなになんでも言っていいんですね」と言うくらい。事業で数字を出さなければならない方々と話をしていると、やっぱりクリエイターとは価値観が違うんです。それらがいいようにぶつかり合う審査でした。そして、クリエイティブは1年で終わるわけではなくて、2年3年とかかる中で生まれるものをちゃんと評価しようと。この部門は「継続」を評価する箱としてありたいという話があがりました。

―佐々木さん、ブランデッド・コミュニケーション(BC)部門の審査はいかがでしたか?

佐々木:従来の広告にはまらないものを評価する「その他全部部門」として、3年前に創設されました。本当に多様な作品がエントリーされるようになって、カテゴリーとして成熟してきた。逆に言うと、何でもアリだったはずなのにカテゴリーに引っ張られるようになってきた感があります。デザインが抜けたことでサイロ化されたかもしれない。「デジタルエクスペリエンスとは」「PRとは」と縦割りの議論が進みすぎて、本当に面白いものが褒められにくくなってはいけないですよね。「チンアナゴ顔見せ祭り!」は一番人気だったんですけど、PRパーソンが見た時にこれをPRのグランプリとしてどう思うだろう、誤解を受けるのではという議論もあった。しかしアイデアとしては素晴らしく、特別賞にスライドさせました。

松井:「チンアナゴ」はME部門にもエントリーされていました。

佐々木:チンアナゴは「今年こそ見ておきたい大事な作品」のひとつでした。デジタルトランスフォーメーション・クリエイティブの一番いいアイデアだと思っています。効率だけのマーケティングではなく、「このコロナ禍でこのブランドは何を考えて存在しているのだろう」ということをきちんと伝えたと思うんです。この水族館は課題を解決しようとしていると同時に、本当にみんなを楽しませようとしているし、親子で会話を持ってほしいと考えている。これが、「来客数が増えました」がゴールではいけない年のマーケティング活動として、とてもよかった。