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TOP > ACCの活動 > イベント > ACC 2018クリエイティブセッション ~進化をつづけるクリエイティブ~ 「あの人とあの人とあの人×55分3本勝負」 開催レポート

SESSION.1

【モデレーター】

嶋田 三四郎 氏
博報堂DYメディアパートナーズ

<プロフィール>
メディア&コンテンツの特性を生かしたクリエイティビティを軸に、統合コミュニケーションプロデュース、テレビ番組、ラジオ番組、イベント等のコンテンツプロデュースを手掛けるメディア・コンテンツプロデューサー。

【パネリスト】

和田 龍夫 氏
サントリーコミュニケーションズ

<プロフィール>
1987年サントリー入社。宣伝・マーケティング担当として20数年にわたり活躍。2008年よりサントリー酒類宣伝部長に就任。角ハイボールやザ・プレミアム・モルツのムーブメントを仕掛ける。2011年には東日本大震災に際し、被災地の方々を勇気づけるべく、いち早く「歌のバトンリレー企画」(上を向いて歩こう)を実現させた。2014年からコミュニケーションブレンダーとして、日本郵便年賀状キャンペーンのコミュニケーションブレンダーも兼務。2016年4月より現職にてサントリーグループ全体の宣伝・コミュニケーションを統括する。

佐藤 宏 氏
広島テレビ放送

<プロフィール>
1991年、早稲田大学卒業後、広島テレビ放送入社。記者、カメラマン、NNNニューヨーク特派員、報道部長、制作部長、営業部長、東京支社営業部長などを歴任。2016年11月から報道制作局長。

【進行】

嶋田: セッション1では、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSのメディアクリエイティブ部門を題材にしながら、メディアとクリエイティブの進化をテーマにお話ししたいと思います。メディア、メディアをとりまくオーディエンスの環境は激変真っただ中です。そんな中ソーシャルメディアについて語られる場面は数多くあると思います。しかしそれが主役かというと、テレビやラジオ、新聞、雑誌といった既存のメディアも未だ力を持っているじゃないかと。ではメディアらしさとは、メディアの強さとは、メディアにおけるクリエイティブとはなんだろう。日々、メディアとアイデアを掛け算するチャレンジが行われています。そのようなチャレンジを、これまで評価できる場が国内にあっただろうか、一堂に並べて見られる場があっただろうかという経緯で、今年度この新部門が生まれました。審査基準は以下のようなものでした。

メディアクリエイティブ部門では、メディアのアセットを活用したクリエイティビティにより、新たな情報発信・コミュニケーションを実現し、広告主の課題解決に貢献したものを評価します。

  • 広告表現の優劣や、番組の内容の優劣を競うのではなく、「メディア×アイデア」の独自性・独創性のクリエイティビティを重視します。
  • 成果の大きさよりも、新しいチャレンジを評価します。
  • 統合型だけでなく、メディア単体の取り組みや他メディアとの横断、デジタルとの連携、地方発の地域を活性化する新しいチャレンジ等も評価の対象です。

嶋田: 審査は、委員長の小山薫堂さんを筆頭に様々な業界・ジャンルのメンバーで厳しく、かつ楽しく行われました。
審査を行った和田さん、佐藤さん、全体を通していかがでしたか?

和田: 楽しかったですよ。およそ150作品の中から選ぶのは大変でしたけれども。とにかくいろいろなアイデアの異種格闘技のようでした。そういう意味で、これまでのクリエイティブを見るアワードとはちょっと違う新しい形なのではと思いました。

佐藤: 審査委員の中では唯一ローカル局の広島テレビから参加しました。審査をしていると、今広島で様々なアイデアを駆使してファンを獲得している広島カープを思い出させるものがたくさんありました。知恵を出せば可能性が開けるというところで、ローカル局として勇気をいただいた審査会でした。

嶋田: ここで小山薫堂審査委員長の、贈賞式の時のあいさつをお聞きください。

「各メディアのアセットを最大限に活用し、新しいクリエイティブを作りだして、クライアントの課題解決に貢献する企画は何かと全員で話し合ったのですが、全員が一致して「これだね」というものがなく、あえて今回はグランプリを見送りました。これはこれからの時代の、もっといいクリエイティブが出てくるだろうとの期待を込めての決断でした。

メディアとメディアをつなぐ。あるいはクリエイティブとメディアをつなぐアイデア力が、今本当に必要なのではないかなと思います。そういう点で、芸術やデザインの世界では、その才能に対してそれなりの対価が支払われていると思うのですけれど、一番大切なクリエイティブがきっちりお金を取れてないのではないかと。ACCがきっかけとなり、クリエイティブそのものでお金がもっと動くような社会になることを祈っております。(抜粋)」

嶋田: 審査の中で難しいと感じたことはありますか?

和田: 「アイデア」と「広告主の課題解決であり世の中を動かした」がセットになっているものがなかなかなかったですね。アイデアはおもしろいんだけど、ちょっとニッチだよねとか。メジャーだけどクリエイティビティでそこまでぶっとんでないよねとか。

佐藤: 審査基準を自分の中に設けることが難しかったです。見て楽しいもの、興味のあるもの、実際の効果を生み出しているもの。どれを基準に上位下位を決めるのかというところで非常に迷いました。

嶋田: 初年度ということで、全員探りながらの議論でしたね。

和田: 琉球放送の「歩くーぽん」は全員一致でおもしろいとなりました。アイデアがおもしろいものはたくさんありましたが、広告主として「してやられた!」と嫉妬するほどのものには出会えなかった。僕の審査基準はそこにありました。

※会場では映像とともに紹介しました。

[ゴールド受賞3作品上映]「RBCおきなわ健康長寿プロジェクト 歩くーぽん」「INTERACTIVE LiVE CM」「オロナミンC『20年分のありがとう新聞』」

佐藤: 「歩くーぽん」は目から鱗でした。広島テレビも昨年から「ひろしまケンケンプロジェクト」という県民の健康寿命を延ばそうという取り組みをしているのですが、番組で健康な人を紹介したり、健康寿命を延ばすコツを紹介したり。ジレンマなのが、一方的な情報の伝達だけになっていて、本当に健康寿命の向上につながっているのか、視聴者の方々に伝わっているのかというもどかしさを感じていました。「歩くーぽん」はスポンサー、使う人、店舗、広告会社とみなさんが得をして、その成果が目に見えるという点ですごく参考になりました。

和田: 野球で1塁に出るためにわざわざタクシーに乗るとか、大爆笑しました。低予算でもおもしろいものを作れる、まさにアイデア。そしてゴールド3作品に通じているのは、きちんとテクノロジーが組み込まれているという点ですね。アプリでポイントを貯められて、実際に「もらえる」というところまで結びつけられている。全体としての構造がちゃんとできているなと思いました。

嶋田: 既存のメディアにテクノロジーを掛け合わせたことで、人の行動を生んでいく。地域の課題を解決し、さらにおもしろいという。審査委員一同いいよねとなりました。そしてどれくらい実際の効果があったのかと、僕らは真剣に議論しました。

和田: 「INTERACTIVE LiVE CM」は、うちが先にやりたかったなと思いました。これは2016年の作品で、今現在はこのやり方にさほど驚きません。でもこの、最初のタイミングで完成させていたのがすごいと思いました。

嶋田: テレビCMのリアルタイムという、オーディエンスと接点を作るチャレンジでした。

佐藤: 今はデジタル全盛で、結果が見えるデジタルに比べるとテレビCMは効果が見えない。見せてくれとクライアントさんから言われるのが悩みの種だったんです。予算のウェイトを折衝する時に説明できないじゃないかと。だからこの作品は、テレビとテクノロジーを組み合わせて、どのくらいのリアクションがあったかという結果を数値化したという点でもすばらしい。なるほどと思わされました。

嶋田: どちらかというと成果よりもチャレンジを評価、という部門でありながらも、人を動かすのがメディアの力だという話をしていると、やはり結果が気になるというのはありましたよね。

和田: 我々は広告主なので、人が行動を起こすクリエイティブであったか、そういうメディアとの組み合わせであったかということが大きい。そういう意味でこの作品はアクションにつながることができたなと感じました。

嶋田: また「オロナミンC『20年分のありがとう新聞』」は、新聞が最近元気ないと言われる中で、マスメディアからパーソナルなメディアになるという逆の視点から、クリエイティブのアイデアで感動を生みました。それと同時にオロナミンCのエンゲージメントを生んでいくというすごい企画だと思いました。

和田: 今回審査した作品の中では、メディアで言うと新聞のアイデアがおもしろいものが多かったという印象ですね。

佐藤: 僕は神戸新聞さんの「避難所もっとより良く非常袋 #並べる防災」が、実際に行動を起こさせるメディアになったというところで、新聞の可能性を改めて感じました。

嶋田: 本当に、新聞ががんばっているという印象でしたね。元気がないからこそ、アイデア、知恵で「新聞らしい価値とは何か」と向き合っている業界全体の空気を感じました。今回グランプリはなしということになりましたが、期待するものはありますか?

和田: ゴールドの作品はどれもうまく設計ができていて、実際に結果も出ているんですけれど、何かこう突き抜けるクリエイティブジャンプという意味で言うと我々の想定の中だった。今回グランプリを選ぶと、それが今後の基準になるという我々審査のプレッシャーがありましたね。こうやって選考会の中で紹介されなくてもみんなが知っているような、“世の中ごと化”しているものなら選びやすかったかなと思います。

嶋田: メディアには世の中ごと化して動かすという、根幹の力がある。ということでグランプリ無しという苦渋の決断をしましたね。

佐藤: 新しいアイデアというのは今まである物の新しい組み合わせだとよく言われますけれど、今回はそこで留まって化学反応が起きるところまではいっていなかったのかな。個人的には十分感動しましたけれども。

和田: 次回選ばれる作品が初代グランプリとなるので、部門自体を盛り上げていきたいという思いも込めて。応募するメディアやクライアントの方が増えるといいなと思います。

嶋田: そうですね。まだまだ掘り起こしできるんじゃないか。まだまだアップデートしていけるのではないかと思います。
それでは、お二人が大好きな作品を教えてください。

和田: 『どん兵衛×M-1GP「M-1のどん」』です。日清食品ホールディングスさんとお笑いのM-1グランプリが組んでいるのですが、番組の中でM-1用のオリジナルCMを流し、優勝者にCM出演権を与えて、さらにその優勝者がパッケージに載った商品が実際に売られるという。パッケージ、いわゆるオウンドメディアという商品そのものをコンテンツメディア化したという視点が斬新です。最近は当社でも烏龍茶で行なっています。

佐藤: サントリーさんの烏龍茶に、カープの菊池涼介の自画イラストが描かれているという。広島ですごいことになっていますよ。カープファンは菊池涼介の烏龍茶を選ぶという現象が起きています。

和田: 商品自体がメディアになることによって、広告がなくてもパッケージが広告してくれるという逆転の発想。それがうまく番組やCMとコラボしたら、大きく世の中ごとができると思います。

嶋田: パッケージ自体がメディアになると、審査会の時におっしゃってましたね。メディアとはなにかと、審査会でも議論されました。これまでテレビ、ラジオと分けていましたけど、薫堂さんも「それは違うんじゃないか」とおっしゃっていた。

和田: NTTドコモさんの「スマホ専用トイレットペーパー」にも驚かされました。ここまでメディアになるというね。 

嶋田: 世の中の人と接点のあるものはすべてメディアだと。この部門も、垣根がなくなるバーリトゥードが始まるんじゃないかという感じです。それが既存のメディアと掛け算になっていけば、すごく幅広いクリエイティブがあるのではないかと。この部門はますます進化できるという気がします。
佐藤さんのお気に入りはどれでしたか?

佐藤: 地下鉄を花見会場にしたというサントリーコミュニケーションズ「金麦花見サイネージ」ですね。毎日使う地下鉄の、何の変哲もない通路を花見会場にした。また、開花情報って意外と逐一は伝えられないけど、このサイネージは30分おきに細かく開花情報を伝えてくれる。地下ではわからない駅周辺の花見情報を教えてあげて、花見という行動に駆り立てる。秀逸だなと思いました。

和田: ありがとうございます。苦労したのは、テクノロジーをいかに使うかというところ。今降りた駅の近くの公園は今8分咲きですよとか、駅ごとに全部リアルタイムでわかるようにしたんですね。それによりエンゲージメントを強め、花見と金麦ブランドが結びつくようにしました。商品のパッケージも桜をモチーフにした花見缶にして、パッケージのメディア化をした事例でもあります。

嶋田: 屋外広告がこんなに進化しているのかと。

佐藤: サイネージの役割が、アイデアひとつで進化しましたね。

和田: デジタルの強みの一つはリアルタイムだと思います。従来からあるポスターにリアルタイム性をもたせたのがデジタルサイネージ。今後もっと活躍するのではないかと思います。

嶋田: 普通のサイネージに見えても、裏にはすごいテクノロジーがあって。テクノロジーをテクノロジーっぽく見せない、サイネージのもっと進化したものが今年はきっと来るでしょうね。
ちなみに僕のお気に入りは、信濃毎日新聞さんの「家族のはなし2016『信濃母日新聞』」。テクノロジーはなくて超アナログなんですけれども、なんと題字を変えてしまうという。漢字のギミックと、“折り畳む”新聞というのを逆にとって写真でカーネーションを立たせるという。

和田: アナログですよね。しかし題字を変えるという社長の判断はすごい。

嶋田: 題字って新聞の顔ですよ。それを変える交渉力というのがまたすごい。
最後にこの部門が進化していくことに向けてのコメントをいただければ。

和田: テクノロジーをうまく使いながら、日常の中でメディアと接するタイミングをとらえたクリエイティブがイキイキと動いて、そして人を動かす。リアルタイムで、インタラクティブで、それがアクティブであるというクリエイティブが生まれればいいなと思います。それが、誰が見ても「これで世の中が動いた」という結果を出しているものに期待したいです。

佐藤: さまざまなメディアのアイデアが集まっているので、それをどう組み合わせて、どういう形で、いい意味での模倣をしていけるかが、今後は我々のクリエイティブにつながっていくかと。組み合わせ力が問われていくのではと思いました。

嶋田: 今日いただいた、広告主、メディアの視点がこの部門の進化のキーワードなのではと思います。
本日はありがとうございました。