『スマートTV研究会3』
~広告会社が考えるスマートTV~
2014年3月、ACC技術委員会では、次世代のTVとして注目される「スマートTV」について3回目の研究会を開催しましたので、以下、その内容をお知らせします。
2012年4月に行った第1回のスマートTV研究会では、「装置」としてのスマートTVの例として、パナソニックの考える次世代TV受像機の開発例を研究しました。また、2013年1月の第2回研究会では、TVコンテンツの「スマート化」とはなにかを探るべく、「日本テレビのセカンドスクリーン&ソーシャル戦略」と題した報告をしていただきました。3回目の今回は、広告会社が考えるスマートTVの形を研究するというテーマのもと、会員社の(株)博報堂DYメディアパートナーズを訪問し、スマートテレビの最新事情を海外・国内の両面の事例から捉えた2部構成で解説いただきました。

■第1部「欧米の最新テレビビジネス動向」
講師 吉田 弘 氏
(株)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長
欧米の次世代TV事情を解説いただきました。以下要約です。
欧米のTV視聴スタイルは、規模としては日本の倍。局毎に電波塔から発せられる放送をアンテナで受信するスタイルではなく、約90%の世帯がケーブル、衛星、IPTVを介して視聴している。放送局が独自のサービスを展開する場所はネット上に移りつつある。アメリカ4大ネットワーク(NBC,CBS,ABC,Fox)では自局のサイト上で過去数週間分の番組を無料で「見逃し視聴」できるようになっている。こうした放送局の動画配信サイトでは、プリロール広告と言われるコンテンツの冒頭に付くCMが一般的になっているが、他にもさまざまな広告掲載方法のメニューも多く、日本ではまだなかなか実現できていない(広告収入による)無料動画配信を実現しているところが多い。
一方、こういった既存のTV局の流れではない、OTT(Over The Top)と呼ばれるネット上のオンラインコンテンツ配信事業が大きな伸びを見せており、NETFLIX,Amazonなどがその代表としてあげられる。イギリスではBSkyB、Virgin Media等が主流。中でも米NETFLIXは自社制作ドラマがエミー賞を受賞したり、いち早く4Kコンテンツの配信を始めるなど、躍進が際立っている。
また、米国においては、TV Everywhereといわれるケーブルテレビなど有料視聴契約すれば、屋外においてもスマホやタブレットからのテレビ視聴を可能とするサービスも普及している。
セカンドスクリーン(アプリ)の世界はまさに群雄割拠。しかし欧米においてもビジネスモデルの確立はまだなされておらず、手探りの状態である。純粋な家電機器としての「スマートTV」に関しては、欧米での扱いは微妙と言える。スマートTVの出荷数はここ数年確実に伸びているが、欧米ではTV本体の機能は使わず、ケーブル会社などから貸し出されるセットトップボックス(STB)を操作して視聴するケースがほとんどなため、視聴者がどれだけスマートTVを使いこなしているかは、判断しづらいのが現状。
このように、欧米ではスマートTVに限らず、ネット環境を使った様々なテレビ番組配信形態が登場・普及する一方、さらなる新しいテレビサービスが絶えず試行錯誤されている。

■第2部「新しいテレビビジネスの兆し」
講師 今野 真人 氏
(株)博報堂DYメディアパートナーズ テレビタイムビジネス局 局長代理
兼 同局テレビ戦略部 部長
欧米のような次世代TV視聴スタイルが、そのまま日本の将来像になるかと言うと、少々違う形になるかと予想する。日本においてはTV(受像機)そのものの機能と利便性、もうひとつ、家庭においてTVにネットをつなぐかどうか(ネット結線率)が大きなカギになる。今TV視聴の形態を画期的に変えるものとして、「全録(ビデオ/TV)」というものがある。「全録」が普及するとCMはカットされる。また、録画視聴は視聴率にカウントされないので、これだけでも現在のCMビジネスモデルには合致しなくなることは明らか。これから「スマートTV」としてメーカー各社から発売されるテレビは、スイッチを入れると、さまざまな機能メニューが並んだ「ポータル画面」が最初に映し出される。日本国内で今後発売されるテレビはすべて「スマートTV」となり、かならずこの「ポータル画面」が出る。言い換えればこの画面は誰もが必ず見る画面なので、新たな広告スペースとなる。「全録」「ネット接続」によってもたらされる新機能には他、以下のようなものがある。
・全局全番組に検索をかけて、該当シーンをすべて抽出できる。
・YouTubeなどネット上の動画とTV番組はほぼ同じ土俵上の映像コンテンツになる。
・各家庭のTVがどんなコンテンツを見てどんなアプリを動かしているか、といった不特定のビッグデータを各メーカーは取得することができる。つまり、メーカーが独自に「視聴率」を調査することができる。
以上の総論を踏まえた上で、別室に移動し、各主要メーカーの最新TV、レコーダーの機能を実際に体験しました。中でも「全録」はテレビの見方を根本から変えてしまうほどのインパクトで、委員各位は大変興味深く見入っていました。
今後私たちは、「スマートTV」を選んで買うのではなく、普通に買うTVがすでにスマートTVである、という時代に突入します。今回うかがった情報は、かなり近い将来に、否応なく私たちに直結することであることを改めて実感して研究会を終了しました。
最後になりますが、今回の研究会にあたり、多大なご協力をいただいた、須佐委員および(株)博報堂DYメディアパートナーズの皆様に改めて御礼申し上げます。
(文:勝田正仁 技術委員会委員長 協力:(株)博報堂DYメディアパートナーズ)