各審査員のコメント

審査講評&This one

マーケティング・エフェクティブネスCM部門【審査委員長】

秋元 康

秋元 康  今年の「マーケティング・エフェクティブネス部門」は、応募総数こそ減少したものの作品のクオリティーは高かったように思う。突出した作品があったわけではないが、審査会は一作品ごとに活発な意見が交わされ白熱した。グランプリを獲ったダイハツ工業(株)の『 「その進化は事件だ。」〜新型ムーブ導入キャンペーン』は、「その進化は事件だ」というコンセプトを法廷劇仕立てにしたエンターテインメント性の高い作品である。ドラマ風のアプローチは出尽くした感があったが、法廷の様々な立場の人の視点から“低燃費・低価格だけではない”様々な魅力(性能・機能)を訴求することに成功した。やはり、楽しく、面白く、わかりやすい見せ方は広告の基本である。キヤノンマーケティングジャパン(株)の『Hello,ミラーレスEOS〜EOS M市場シェアNo.1に向けた拡販キャンペーン』は、競合他社がミラーレスカメラ市場で活況をきわめる中、最後発であるというビハインドをどうひっくり返すか、注目されたキャンペーンだった。3人のタレントがリアルにミラーレスカメラを楽しむ日常はユーザーの共感を呼んだ。人気タレントをイージーにキャスティングするのではなく、実際にこの商品を使っていそうなタレント、実際にこの商品を楽しみそうなタレントを起用したことがよかった。タレントを1ユーザーと捉えたスタッフの狙い通りである。(株)東芝の『東芝LED at ルーヴル美術館キャンペーン』は、世界遺産であり芸術文化の中心であるルーブル美術館に採用されたという事実をどう伝えるか、その一点がテーマだ。芸術的な光の美しさは、それ以上の解説を必要としない。そして、“日本のメーカーがパリの夜景を作っている”ことの誇りと歓びを感じさせるコミュニケーションが、非購入者の9割が購入意向の意識変化をさせたのである。世界に先駆けた東芝の技術の輝きを表現し、まさに、日本人を勇気づける広告としてマーケティング・エフェクティブネス効果が大きかったと思う。今年のキーワードは、“自信”かもしれない。「ムーヴは低燃費・低価格だけではないという自信」、「キヤノンのミラーレスカメラEOS Mは、最後発の発売だが、店頭に行く前に指名される真打ちミラーレスにするという自信」、「東芝のLEDは、あの光の都パリであのルーブル美術館が採用するほど美しいという自信」、自社製品に自信があるからこそ奇をてらったキャンペーンではなく、ストレートなアプローチが功を奏したのだろう。

マーケティング・エフェクティブネスCM部門【審査員】

早乙女 治

早乙女 治  目的の達成、課題の克服、問題点の解決。勿論広告というものの存在は、そんな狭義のものだけではないとわかってはいるつもりですが、私たちの仕事では常に成果を求められることが現実です。企業の経済活動という視点だけで見ると、クリエイティブの興味深さと、成果を生む、結果を出すということが、イコールになっているとは必ずしも言い難い。ME賞の審査をさせていただいたこの数年、この両立こそが理想であるはずと思いつつ葛藤の連続でした。そういう意味では今年の受賞作に、とても満足感を感じています。ダイハツのムーブのキャンペーンはTV-CMで車が売れることの可能性を証明してくれました。東芝のLED・ルーブル、そしてキヤノンのミラーレス、それぞれのキャンペーンが質と成果を見事に両立させた秀作だと思っています。

安藤 元博

安藤 元博  生活者に対する企業の情報優位の時代は終わりつつあります。ごまかしは効かない。本当に価値ある情報、企業自身が信じていることは何なのか。生活者はそれを見ています。ルーヴルでの快挙を静かに語った東芝のLED、自社の自信を正面から示したキヤノンのミラーレスEOS、惜しくも賞は逃しましたがその図抜けた「美味しさ」を熱く語った「マルちゃん正麺」。市場はそうした真摯な投げかけに鮮やかにこたえました。そんな中、多彩な面白芸をこれでもかと繰り出しながら巧みに、次々と商品メッセージを刷り込んでいく広告の王道、「ダイハツムーヴ」が満場一致の横綱相撲。私もTVの前でこのシリーズの次作をわくわくしながら楽しみにみていた一人です。これもまた広告の力だとあらためて思い知らされました。

池永 忠裕

池永 忠裕  今回の審査では、ブランドの在り方やブランド資産としての広告の累積・継続力を再認識させられた。グランプリを獲得したダイハツ工業の「ムーヴ」は、自分にあったベネフィットをバリエーション豊かに同じフォーマットで展開し続け、強い印象を植え付けている。キヤノン「ミラーレス一眼」は、広告によって一眼レフの派生であったサブカテゴリーを、新しいカテゴリーに押し上げた。東芝「ルーブルLED」世界に先駆けた“技術力”をメッセージのコアに据えることで、世界に誇れる日本のブランド力で、日本人に勇気を与えてくれた。いずれの企業も日本で冠たるブランド力を持ち、その高い技術力が「生活者」のためにある、という強いメッセージがマーケティング活動成功の鍵として大きく感じられた。

岡野 宏

岡野 宏  企業と消費者の関係がフラットになった。トリプルメディアを複合的に組み合わせるメディア設計の最適化はますます重要視されている。企業は消費者が商品の先に企業そのものを見ていることを冷静に判断する時期がきたといえる。企業が持つ企業ブランドイメージ。そして、その土台の上に商品ブランドイメージを構築する。単なる機能・性能の差では勝負ができにくくなってきたいま、商品だけではなく、どこに差別化を図るかで勝敗が大きく左右する。「マーケティング・エフェクティブネス部門」は四年目を迎え、まさにマーケティングの総力戦になった。中長期的な視点でストーリーを描く。なるほどと思わせるコンテキストをつくり、さすがだと思わせるコンテンツに仕上げる。メダリストに輝く各社コミュニケーションはどれも秀逸だ。

岡本 善勝

岡本 善勝  マーケティング・エフェクティブネスとは、どれだけ人を動かせたかという評価です。それは商品の購買という行動で現れたり、企業への好感度という心の動きだったりします。一方、ターゲットとなる生活者は手の中のスマホからあふれ出る情報に囲まれ、同時に見ているTVはHDDに録画してCMはとばす、これが現実です。人を動かすためには、まずコンテンツを見てもらわなければなりませんが、実はこの部分がとても難しくなっていると感じています。ここを突破するポイントは優れた広告の原点「もう一度見たくなる表現」ではないでしょうか。今回、評価が高かった作品は何度でも見たくなる表現を駆使して、同質化からの脱却や、日本人の誇らしい気持ちの醸成に成功したものだったと思います。

岸 志津江

岸 志津江  マスメディアだけを使ったキャンペーンが減少し、インターネットによるBtoC、CtoC間の継続的なコミュニケーションが行われるようになった。ME賞は、そのような時代にあっても、テレビを核としたキャンペーンには力があることを再認識させてくれる。個別企業の課題解決にとどまらず、スマート家電、LEDによる省エネ、本格的なインスタント麺といった新たな市場トレンドを創造し、人々の現実認識に影響を与える広告には力がある。作品の出来映えだけでなく、このような観点から審査できるのも、委員会がクリエイター、広告主、その他専門家といった立場の異なるメンバーから構成され、秋元委員長の下で自由闊達な議論がなされるからだろう。

島崎 紘而

島崎 紘而  ME賞への出品数が伸び悩んでいる。その最大のハードルは、出品する為に3分間のオリジナル映像を制作しCMに期待される成果を「なるほど」と頷けるプレゼンテーションに仕上げる事だ。そもそもこのME賞を世間に発信するのは、CMのパワーをマーケティング活動の一環として評価することにある。何がマーケティングの目的、目標となっているのか!質的な成果と量的な成果が企業活動や営業活動を通して期待以上の成果をあげたかが問われる。このような内容を3分間でまとめる作業は容易ではない、当然お金もかかるし時間もかかる。それだけ力作揃いの作品群を審査員だけが見ているというのはもったいない話である。そこで、ACCは、この賞の出品者に他の応募作品を見ることができる機会を検討しても良いかもしれない。他社の成果を見る事ができれば出品の動機につながると思う。

田中 里沙

田中 里沙  この賞ほど、応募作品を多角的に徹底検証する賞はないと思う。目的、課題、戦略、それらを実現するための設計、クリエイティブ、表現。さらにはキャンペーンの成果が実際にどのくらい得られたのか。総合力とともに、個々の技術点の高さが求められる。突っ込みの矢が飛び交う、楽しくも過酷な審査を経て選出された入賞作は、新たな市場を切り拓き、これまでになかった価値を打ち出すような企画が目立つ。法廷劇で構成されるダイハツ「ムーブ」のシリーズCMは、軽自動車の存在感と魅力を進化させた。エンタテインメントに徹しながら、機能や性能、技術の特徴が確実に伝わってくるところが見事だった。東芝のルーヴル美術館キャンペーンは、大きな構想と美しい映像で、日本企業や日本の未来を明るく照らすプロジェクトになっている。

津山 克則

津山 克則  CMを中心にしたマーケティング成果を問うME賞が誕生して4年。今ではしっかりとポジションが固まって来たのではないかと思います。審査もひとつひとつの作品を全員で議論しながら進めていくやり方がすっかり板に付いて、真剣な論議の傍らで 時流のマーケティング論から流行りの芸能ネタまでどんどん話題が広がり本当に幅広く楽しい時間でした。今年は応募数が減少したせいか、図抜けて元気なキャンペーンには出会えませんでしたが「ダイハツ・ムーブ」は盛りだくさんの商品特長を巧みに嫌みなく連呼して、一気に販売シェアNo1を獲得した結果が評価されました。東芝、キヤノン、味の素といった例年のクリーンアップ企業も見ごたえがありましたが、小粒でもピリリ!という作品が見当たらなかったのが少し残念な年でした。

中井 規之

中井 規之  光栄なことに、初めて審査メンバーに加えていただきました。これまでずっと作る側だったので、審査する側にいるというのは少々おこがましい感じもありましたが、改めて応募CMを見ると、どれも切実な努力と思量の跡が窺えて、「皆さんそれぞれに何とか商品を売ろうと苦労して考えているのだなあ」という共感、そして「この手があったか」という新鮮な発見があり、大変刺激的な経験をさせていただきました。今回はME賞ということで、自分なりに判断基準を考えたつもりですが、広告は、須らく何らかの形で「Effective(効果的)」であるべし、と思えてきました。となると、「ME賞」なるものが「カテゴリー」としてあること自体が矛盾なのでは?ME賞が「広告賞そのもの」なのでは?ということまで考えてしまいました。初参加のくせに、考えすぎですよね。

藤井 久

藤井 久  「ME部門って、審査が難しいですよね。CMで売れたかどうかなんて、わかんないですし」そんな声を聞く。でも、僕はそうは思わない。むしろ、意外とわかる、と思っている。そのCMによって、自分も含めて、みんなが「欲しい」と思ったかどうか。そのCMによって、世に中に大きな「欲しい」を生み出せたかどうか。審査していると、そのへんのリアリティは、はっきりとわかるものだ。もちろん、CMだけで売れる時代ではない。そもそもの商品価値、ブランドイメージ、価格戦略、店頭施策、PR、CRM・・・すべてのマーケティングアクションを、上手に設計することが重要なのは言うまでもない。その上で、大きな「欲しい」を作り出せるCMを、どうクリエティブするか。ビッグデータの時代だからこそ、世の中に大きな「欲しい」づくりができるCMが、ますます重要になる、と思った。

三浦 武彦

三浦 武彦  今の時代、人の心を動かすものは「汗だと思う」。これは今回の審査での秋元審査委員長の言葉ですが、知恵があり、努力があり、商品に対する愛があり、それを形にする職人の技がある「本物の汗をかいた」仕事が今回の受賞作品に選ばれたと思います。一つ一つのファクトを丁寧に、しかも全てを上質なユーモアで描いたダイハツ工業のムーブ。ルーブル美術館と商品をコラボさせたマーケティング戦略のスケール感とLEDに照らし出されたモナリザをCMのクライマックスにレイアウトした東芝のLEDキャンペーン。市場投入最後発のビハインドな状況を、「真打の発売」と位置付けたマーケティング・アイディアのキヤノンマーケティングジャパンEOSMキャンペーン。それぞれ「汗をかいた」仕事が人の心を大きく動かしたと思います。

八塩 圭子

八塩 圭子  「いかにマーケティング上の効果があったかをみる一方で、ACC賞にふさわしいクオリティかどうかも重要。」以前から審査会でそのような話をしていたのだが、今年はまさに、効果とクオリティを兼ね備えた作品がズラリと並んだ。その代表格がグランプリとメダリストに選ばれた3作品だ。ダイハツのムーブは、法廷劇のおもしろさの中に、訴求したい性能を見事に印象づけることに成功している。キヤノンのミラーレスEOS、東芝のLEDともに、映像として美しく、かつ商品やブランドの価値を十分伝えている。今回で第4弾という東芝LEDのルーブルシリーズは、ブランディングに寄与しただけでなく、日本人としての誇りももたらした。これから2020年の東京オリンピックに向けて、このようなスタイルのCMが増えるかもしれない。