各審査員のコメント

マーケティング・エフェクティブネス部門【審査委員長】

秋元康

秋元康 東日本大震災から、“どう立ち上がるか?”、“今、私たちができることは何か?”を考えながら臨んだ審査だった。自粛しているだけでは、何も始まらない。被災地への支援とともに、経済が動き出さなければ、復興できないのだ。各企業は、市場での反応を分析しながら、慎重に広告表現を考えただろう。まさに、マーケティング・エフェクティブネスが問われた2011年である。
 集まった作品は、“わかりやすいもの”が多かったように思う。もはや、イメージだけでは売れない時代だ。と言って、商品のスペックを説明するだけでは、消費者の耳目は集められない。大量に露出する。有名タレントを使う。インパクトのある表現を用いる。他に方法はないか?と、担当者は知恵を絞る。「自分だったら、この商品は買うだろうか?」「自分だったら、この商品に手を伸ばすきっかけは何だろう?」「自分だったら、このコマーシャルを観て、どう思うのだろう?」
 この消費者目線を、今年の作品群の中に、僕は感じた。“消費者の立場に立って…”なんて、当たり前のことなのだが、その当たり前の提案が新鮮に思えた。広告が消費者を誘導して、時代のトレンドを作っているんだというような驕りも、どこかにあったせいかもしれない。もっと、シンプルに、消費者が「わかる、わかる」と言ってくれるようなアプローチがストレートに響いた。スープにパンをつけたり、ひたしてみて、美味しそうなら真似をしたくなる。AKB48に謎の新メンバーが加入すれば、それはどこの誰なのだ?と話題にしたくなる。スマホへの買い替えのタイミングを計っているユーザーに、「Androidを待て」は、一つのアドバイスのように聞こえただろう。
 真の“マーケティング・エフェクティブネス”とは何か?資料の中の数字が示す成果だけではなく、担当者が「自分もいいと思った」と思えることではないか?なぜなら、担当者も、仕事を離れれば、普通の消費者の一人であるから。自分の行動の分析は、貴重なマーケティングなのだ。
 僕は、クノールカップスープにパンをつけたり、ひたしたりしたいと思った。江口愛美について、いろいろなメディアが取り上げているのを見て、アイスの実を久しぶりに食べたいと思った。ユニクロのチノパンやカーゴパンツは買おうと思った。僕には、確実にエフェクティブネスがあったわけである。
 震災後の日本、やはり、自分で考えることから始まる。

マーケティング・エフェクティブネス部門【審査員】

池永 忠裕

池永 忠裕マーケットを拡げる優れたアイデアと、クリエイティビティを実感できた審査会でした。審査を振り返り、エフェクティブネスについて改めて考えてみると、「新しいマーケット提案」「気付かなかった切り口」「納得させる落とし所」がコミュニケーションのコア・アイデアとして、キャンペーン全体のプラットフォームになっているということ。その結果、目標をはるかに上回る「市場創造」や「需要創造」が達成されている。グランプリを獲得したクノールカップスープの“つけパン/ひたパン”にはそれが詰まっていました。また、CMが購買力促進のエンジンになり、ブランドを活性化させた江崎グリコ“アイスの実”のアイデアにも脱帽です。両ブランドは共に40年・20年を迎える長寿ブランド。CMの奥深い可能性を感じた審査会でした。

大谷 研一

大谷 研一この賞の審査は実に面白い。構想・企画という裏のストーリーと、実行・成果という表のストーリーを両面で評価出来るからである。ひとつの企みから始まり、幹が出来、枝が付き、花が咲く過程で運の良し悪しも含めて紙一重の差の積み重ねが成果を左右している様が実によく見えるからである。
時代のせいなのか、派手で華やかでというものよりは人々の共感にどう誘い込んでいくかといった手口のものに秀作が多かった。ちょっとした発見や驚きと言う時のその「ちょっとした」ところにこそ時代を動かすチカラがあるのだという事を今回は実感した。時代と折り合いを上手くつけながら広告ダイナミズムはたえず変化し進歩しているという事を伝えられるという意味で、この賞を設立して本当に良かったと思う。

岡野 宏

岡野 宏「マーケティング・エフェクティブネス部門」設立、二年目。東北大震災等の影響もあり応募本数は減ったものの、本賞に相応しいキャンペーンがノミネートされた。その商品のマーケティング目標を設定しターゲットを見定め、戦略的・効果的コミュニケーションを仕掛ける。そして、@新規顧客層の開拓Aマーケットシェアの拡大B売上・利益の拡大に貢献Cブランド価値の向上を達成する。グランプリを獲得した味の素「つけパンvsひたパン」は、本賞の諸条件を高いレベルでクリアした行動喚起キャンペーンだと考える。キャンペーン規模の大小にかかわらず、ターゲットに共感を呼び、心を射止める。良いコミュニケーション企画には説明しなくてもスッキリ腑に落ちるストーリーがある。シンプルで強い企画はまさに、理想と言える。

岡本 善勝

岡本 善勝ME賞設立2年目3.11という出来事を経て、復興支援を直接訴えた特別な作品もいくつかありましたが、全体を通してみれば、マーケティングとして腰を据え継続を目指したキャンペーンが優勢であったように感じました。次々と新製品を送り出すという方法ではなく、中心商品のロングセラー化や定番商品の再活性化などで、これはこれからの日本市場での消費の大きな流れのようにも思われます。この点から見て、クノールカップスープ「つけパンVSひたパン」は秀逸でした。さらに生活者の行動変容を促す「やってみたくなる工夫」がいたるところにちりばめられています。VSの構造、ネーミング、タイアップ、中高生での話題づくり、などなど。その結果が10年間のセールス横ばいの打破、食パンの売り上げまでアップすると言う驚異的な成果につながったのだと思います。

恩蔵 直人

恩蔵 直人この数年、「マーケティング3.0」をはじめとして、新しいマーケティングの捉え方が注目を集めている。しかし、ACC賞審査会に参加すると、テレビを中心とした従来からの広告コミュニケーション効果を改めて実感させられる。味の素「クノールカップスープ」のように、10年間も売上げが横ばいを続けていた既存製品であっても、広告キャンペーンに知恵と工夫があれば大きく売上げを伸ばすことができるからだ。もちろん、イノベーションを伴った新製品の導入においても、ファーストリテイリング「ユニクロ ヒートテック」のように、優れた広告キャンペーンを展開すれば短期間で大きな市場創造へと結びつく。マーケティングを研究対象としている私にとって、優れた広告キャンペーンから学ばせていただくことは少なくない。

早乙女 治

早乙女 治誕生して2年目を迎えたマーケティング・エフェクティブネス賞。震災、そして世界的な経済不況の影響か、昨年の応募本数を若干下回ったが、中身の濃い内容で充実したものだった。「広告で物は売れるのか?」という疑問に、見事に答えを出したキャンペーンがグランプリに選ばれたと思っている。すぐれたマーケティング戦略とは、すでに世の中にある「物」や「事」を掛け算して、新しい付加価値を提示してあげる。シンプルに見せてあげる。売るためのクリエイティビティ、人を動かすということはそういうことだったんだと、改めて実感させられた。綿密に、周到に計算されたブランド戦略あり、流行という流れを味方にしたものあり、大胆な奇襲を企てたり、いずれにせよ、一人の生活者でもある自分に戻って、やってみたい。買ってみたい。と思う動機を感じさせてくれているか?この賞の審査基準がやっと見えてきた2年目だった。

島崎 絋而

島崎 絋而ME部門は、異種格闘技戦です。と大谷研一さんが昨年の総評に書かれていました。中々うまい言い方だと思います。色々な業種が戦うわけですから評価軸を決めておかないと何を持ってよしとしたかが明快になりません。ME部門にはMがついているので売上の効果成果を数字で明確にプレゼンしている作品が殆どです。その中でブランドマーケテイングといった視点でブランド価値向上を長期的な戦略として評価すべきではないかという意見がでました。確かにその視点で応募された作品は無かったと思います。このME賞の価値を上げる為にも売上の数字だけではないスケールを導き出す事が要だと強く思いました。

白井 博志

白井 博志「いいね!」の一歩先。生活者に「のった!」と言ってもらい、さらに買ってもらう。そのキッカケはこのCMで創れているか?という討議をするのがこの部門の審査会です。今年のエントリーシートが送られてきたのを見たときの第一印象は、昨年のキリンフリーやサントリー角ハイボール的な大ネタがない?AKB48と嵐が多い!というのが正直な第一印象でした。が、審査を進めるうちに、企画設計の精巧さの進化、着実な成果創出、そしてその背景にあるパッションまで見て取れました。生活者の自分ごと、行動喚起など「言うは易し」のハードルを、シンプルでかつ鮮やかなアイデアで越え、熱意で実現させたキャンペーンは爽快です。その爽快さで、生活者にハッピーを届け続けられれば、今の日本も元気にできると確信するに至りました。

田中 里沙

田中 里沙本部門には、ビジネス的に大きな成果を果たした自信作が幅広い分野から集まる。審査会では数十件の広告キャンペーンを対象に、企画から表現、成果までの全体像を1本1本丁寧に見て、マーケティング効果を検証し、討議した。想像力を膨らませながら、企画の背景や効果を読むのだが、各審査員による多様な視座は厳しく、全方位的で、まさに統合力と総合力が試される。
 入賞作は、不安定な時代の中で、ぶれない強さと潔さを備えながら、全過程において一時も気を抜かず、市場や顧客と関係構築をしている点が魅力だった。クノールカップスープはじめ、新しい習慣や行動を喚起する企画は、売上を伸ばすだけでなく、社会の表情を変えた。そして、震災からの復興に、マーケティングとクリリエイティブの力が寄与していることを実感し、希望と可能性が見えた。

津山 克則

津山 克則2年目となったME賞最終審査会の冒頭で、秋元審査委員長から、「多数決はやめて、論議しながら決めましょう」のひと言。審査員全員でキャンペーンを1作品ごとに見ていろんな角度から検討し、議論で決めていく・・・。そんなやり方が良かったと思います。評価軸が異なるキャンペーンを審査するとなると、いろいろな見方や異なる意見での検証が必要となりますよね。そんな審査過程を経て、今年のグランプリとなった味の素のクノールスープは従来からある商品を、クリエイティブアイデアがマーケティングを活性化させた代表例だと思います。朝のお食卓のパンをネタに、スープが売れる・・・。スープに縁のなかった自分自身もその仕掛けに踊らされた一人ですが、クリエイティブ表現も、キャンペーン結果もお見事でした。

三浦 武彦

三浦 武彦今回の審査は、味の素(株)「クノールカップスープ」・江崎グリコ(株)「アイスの実」・(株)ファーストリテイリング「ユニクロ」・KDDI(株)「IS03」いずれかがグランプリを獲ってもおかしくない上質な仕事の戦いとなった。グランプリに輝いたクノールカップスープは「つけパン」「ひたパン」という新しい食習慣アイディアが売上10年のヨコバイを打破し40年ロングセラーブランドを成長させた仕事で選ばれた。私たちは人とモノを動かすプロとして、優れたコミュニケーション・デザイン力で被災地とこの国を元気にしなくてはならないことを審査会で再認識させられた。

八塩 圭子

八塩 圭子グランプリに輝いた味の素のクノールカップスープ「つけパンVSひたパン」と、メダリストの江崎グリコアイスの実の「江口愛実誕生!」には共通点がある。それは、何十年も続くロングセラーブランドであるということだ。クノールカップスープは40年、アイスの実は25年という歴史を持つ。ゆえに売り上げの横ばいが続いていて、ブランドの再活性化が課題となっていたタイミングでの、爆発的な巻き返しに審査員全員から賛辞が送られた。
 他にも同じように成熟期に入ったロングセラーブランドを扱った作品があり、多くの企業に共通のテーマの一つであることが浮き彫りとなった。そこにマーケティング・コミュニケーションが大きな力を発揮できることを今回の賞で示せたことは、企業と広告関係者にとって励みとなるのではないだろうか。

八嶋 実

八嶋 実震災のあったこの時にこそ、CMにできること。それは本来の役割に徹し、全てに停滞しがちな経済活動を少しでも元気にすること。この観点から、着実に売りを創ったものが選ばれた。味の素クノールカップスープは、カテゴリーNo.1のロングライフブランド。通常高成長はもう期待できない中、朝食にパンとの組み合わせによるDIPという新習慣を創造し、一時的でない大幅な売上げ増を達成。DIPのやり方の違いに着目し、親しみとシズル感のある名称をつけ、バトルの構図で提案。視聴者に「やってみたい」という強い欲求と行動を誘発した点は、CM効果の真骨頂。パン売り場でのクロス販売も実現。こうした優れた創造的マーケティング事例は、規模や派手さに依らず、“少しを長く”も含めると、まだきっとあるはず。思い当たる皆様、ぜひ応募を!