各審査員のコメント

テレビCM部門【審査委員長】

杉山 恒太郎

杉山 恒太郎 未曾有の災禍を経ての今年のACC賞は、そのテーマ「未来は今年を忘れない2011 ACC」にふさわしい内容の濃い審査と結果になった。
 ひとつは新しい審査方法の導入だ。去年までの○×式から最高点9点から1点で評価するシステムに。これによってより精緻に評価することが可能になったと思う。またブロンズ以上のメダルの色を決める際には、自分が関わったCMには投票できないとした。これらはカンヌ等世界の広告賞で行われているルールで、よりフェアーで透明性の高い審査をめざした。また、クラフト賞を新設。人間を、個人の才能を大切にするACCの伝統に基づいたものだ。
 また審査員たちは私を含めて総勢22名、今年は「オールジャパンで!」ということで思い切り門戸を拡げたのも今年の特色だ。そして例年通りゴールドかシルバーか、シルバーかブロンズか活発な議論が繰り広げられた後、今年のグランプリ「九州新幹線全線開業/総集編」が、満場一致ですんなりと決定した。こうしたことは実はとても稀有なことだが、ソーシャル・メディア台頭の中、生活者が喜びを共有する参加型のキャンペーンは今の時代を適確にとらえ九州のみならず日本中を元気にした2011年らしいCMだった。
 他のトップテンを見ると、親子の絆を描いたストーリーテリングで多くの日本人を感動させた「東京ガス/家族の絆・お弁当メール」。お弁当をメールと言いきったところが新しかった。おなじみ宇宙人ジョーンズシリーズの「サントリーBOSS/宇宙人ジョーンズ」。スカイツリーなど、時事的な要素の採り入れ方も巧みだ。それから「NTTドコモスマートフォン」。スマートフォンの擬人化表現が、去年より進化して、人と携帯の関係がより濃密に描かれた。「東北新幹線 新青森開業/MY FIRST AOMORI」は初めて東北に赴任する若い駅員を通して青森を描くというフレームが秀逸だった。まるで大河青春小説のよう。
 「NTTドコモTOUCH WOOD SH-08C 森の木琴」森の中の実験を世界レベルの高いクオリティで描いた。サウンド・デザインが秀逸。
 「大和ハウス工業/ここで、一緒に」はオトナの男と女の微妙なココロの動きを見事なショート・ドラマに構築した。「サントリーホールディングス/歌のリレー『上を向いて歩こう』他」。震災直後の日本人の心に、文字通り灯を燈した。「大日本除虫菊 コバエがポットン/ご意見篇」クレーマーなるものを見事に戯画化。
「エステー消臭力/『唄う男の子篇・ミゲル』『夢の共演篇』」ポルトガルの少年の声が、今年の日本人に元気を与えた、など。
 そして今年の潮流として、物語の復活をベースに“人の気持ちを動かす力”を持ったCMが多く受賞した。通年より表現に多様性と多層性があったと思う。それは2011年という年だからこそ今一度みんながCMを創る仕事により真摯に立ち向かい、CMの可能性と力を追い求めた結果なのだと強く感じた。

テレビCM部門【審査員】

麻生 哲朗

麻生 哲朗「それ以前のもの」と「それ以降のもの」が混在し、今回に限っては「広告を作らない、打たない」という、この場には見えてこない多くの葛藤と苦渋の決断があった。だからこの審査において「3.11に対しての広告表現」という観点は、少なくとも僕はあえて考慮に入れなかった。純粋に、日常と対面する広告表現としてどうか、そのスタンスを守る努力をしたつもりだ。
一人の作り手として、どんな広告でもなんらかの情を込めていきたいと常々思う。ネガではなく、やはり本質的にはポジでありたいとも思う。
フラットな気持ちでいようとする一方、その思いにどう行き着き、表現にしていくのが、自分にとっての正解なのか、今年の作品群を見ながら、それをずっと考えさせられている気がした。

一倉 宏

一倉 宏多くのCMが「通常運転」に戻ってしまった今、震災の年であったことを何度も思い出しながら審査の一日を過ごした。CMは社会の鏡という。時代の精神まではともかく、空気は確かに映る。過去のアーカイブがそれを教える。東北が襲われたその時期に世にでるはずの、九州で準備されていたこのハッピー。グランプリの決定はほぼ全員一致だった。このアイデアと、この音楽と、出演者全員のパフォーマンスのかけ算による、このハピネスの総量はまず例をみない。CMは「ハッピーを描く」のが得意だ。そこにはウソや上っ面もつきまとう。杉山登志さんの遺したことばを思い出す。でも、ほら、CMにはこんな力もあったんだ。ほんとうのことを、こんなふうに描くことだってできたんだ。肝に銘じよう。CMに「できること」を、もう一度。

伊藤 直樹

伊藤 直樹こっそり笑って、ひっそり泣いて、妙に納得したのに頷かない。自分の感情を露にすることで審査に影響を与えてしまってはいけないというたぐいの紳士な態度。金賞あたりになると、制作者本人がそばにいたりするし。審査会とは、鉄仮面舞踏会だ。紳士淑女による今年の舞踏会はとてもエレガントに執り行われた。結果だけを見れば、一部の優秀な制作者たちによる寡占状態。その一部の人間たちがまさに審査員の面々。今年、自分は金賞を獲れなかったし、あえて言いたい。ACC は自分たちによる自分たちのための賞ではないし、審査会はフェアだったと思う。金賞は納得の結果。鉄仮面の奥で流れていた涙と笑いの数だけが反映されていた。ぶっちゃけ、何度も何度も相当泣きました。

太田 麻衣子

太田 麻衣子今年のACCは、それぞれの作品のエネルギー量の勝負だったのかな、と思いました。ひとつのCMを作るための情熱の総熱量、集まった人の総熱量、エンターテイメントの総熱量、どんな批判も受け止めるだけの総熱量。リアリズム追求の熱量。その熱量があればあるほど、どんな状況下にも耐え、全国の人を楽しませてくれる表現になることを確認した気がします。力のこもったCMが集まったと思います。未来は今年のCMを忘れない、そんなCMたちでした。情熱クリエイターの方々ありがとうございました。来年はどんな種類の熱が集まるのでしょうか。楽しみです。

川越 智勇

川越 智勇今回はじめてACCの審査をさせていただきました。カンヌなど海外賞と同様の点数制で審査方法にはまったく違和感はありませんでした。自分の関わったエントリーには投票できないなど、とてもフェアな審査だったと思います。海外賞の審査との違いは、自分も一視聴者であった広告を審査するところ、でしょうか。もちろんCMそのものの出来を審査するわけですが、正直出稿量の影響もありますし、企業や商品の置かれた状況、出演者の意味するところもよくわかった上で採点するという体験が、とても新鮮でした。いくつかのCMは震災直後に見た印象と今受ける印象とがかなり違っていて、自分自身のコンディションの変化を実感。今年の受賞作たちは見た時点の状況とセットで記憶に残ることになるのだろうと思いました。

岸 勇希

岸 勇希今回初めてACCの審査員という貴重な経験をさせて頂きました。あえて言うとACC賞にはこれまで何かしらの偏り、サロン的なイメージを勝手に思っていましたが、少なくとも今年の審査プロセスでは、そのようなバイアスを感じることはほとんどありませんでした。ニュートラルな選考でありつつ、それでもなお優れた作品(作り手)に偏りがあるというのは、純粋に“素晴らしい”ということ以外なんでもなく、私たち若手としては、これを超えていくしかないというハードルの高さを痛感しました。また個人的には「森の木琴」など“評価しない”という選択肢が自分の中では見つからないような作品に対して“評価出来ない”という意見が存在することを知り、改めて表現を評価する難しさを学ぶきっかけにもなりました。ありがとうございました。

佐々木 宏

佐々木 宏60秒とか、90秒あれば、極上の料理人が本気で腕をふるって、カンヌに出品しても恥ずかしくない「作品」が創れる。一昔前の賞用に創られた「作品」とは違って、最近は、youtubeとか、ツイッターを発信源にネットでの話題作りが流行りだした。明らかに違うのは、今時の新しいマスとも言えるネットユーザーの声が、品定めをして、のし上げている点。これで九州新幹線や、お弁当メール、森の木琴などの長尺ならではのいい作品が増えていくのなら、歓迎したい。でもテレビでほぼ観られないCMって、果たしてテレビCMなのかな、ネットCMでは?とも思う。賞レースなんて、かすりもしない15秒CMばかりヒーヒー創るのが、馬鹿馬鹿しくなってくる昨今も、なんだかね。テレビ局や、代理店は危機だし、ネットで話題!のテレビで全然観ない長尺CMばかりになったとき、ACCはどうするのだろう?日本レコード大賞が、今や、レコードなんて売ってやしないのに、続いているように、ACCがレコード大賞みたいにならなければいいですが。

佐野 研二郎

佐野 研二郎ACCはファイナリストになるのもここまで大変なことだと審査員になって始めて知りました。ましてやゴールドなんてとんでもない。はじめて参加させて頂きましたが何度も選考し、絞って絞ってさらに議論に議論を重ねてるなんてはっきり言って他の審査会より厳しく真剣かも。公開審査にしたらさらに刺激的で面白いかもしれません(怖いか)。九州新幹線CMは近年まれにみるダントツのグランプリ。こういう不安がどこかにある時代、どうせつくるんならCMはメジャーで強くてグッとくるものじゃないと。広告で救われる人だっている。TVCMはやはりすごい力があるぞ、この仕事やっててよかったとやる気が湧いてくる審査会でした。受賞者の皆様おめでとうございました。

澤本 嘉光

澤本 嘉光今年の審査会は、「カンヌ方式」、つまり全てのCMに一人一人審査員が得点をつけていき最上位と最下位の点を切ると言う得点方式で行われた。これはCMの評価に透明性を出すと言う事と審査員の情で順位に影響が出ないと言う点では極めて正しかったが、面白いのはCMの企画と一緒で正しいだけだと何か「味気ない」という読後感が拭えないということだ。得点は低くても心に引っかかったものを議論の末強引に誉めてあげる、とかをしないと、ただの人気投票になってしまう可能性がある。とにかく現場を知らないオジサンが選んだ賞だと思われないようにしないといけないし何より制作者が出品したくなる賞であらねばならない。その点発表会は単純にもっと楽しく騒がしい「ハレ」の日、お祭りにした方が良い気が強くする。

崎 卓馬

崎 卓馬例年受賞作に個人的に納得のいくものといかないものが混在するのですが、今年は見事にすべて納得のいくものが並んでいるように思います。すべての仕事が素晴らしく、選ばれる理由も自分で本当によくわかります。応募期間が長かったことも影響しているのでしょうか。CMの素晴らしさと、可能性をすごく感じた審査でした。

高田 伸敏

高田 伸敏震災後のコミュニケーションを意識した審査、と聞いただけで、何だか使命感にかられたのは僕だけでしょうか。審査が始まったとたん、その使命感が中途半端なことに気づかされました。だって、たとえ震災を意識していても、ただ優しいだけのCMには、まったく心が動かないのだから。いいCMは、僕らが光を当てるというより、勝手に光り輝いています。伝えたいというエネルギーに満ち溢れているのだと思います。最終的にいちばん大きく光を放っていたのが「九州新幹線全線開業」。メダル選びであんなに時間をかけたのに、このCMをいともあっさりと、だけど誰もが気持ちよくグランプリに選んだ、あの瞬間あの拍手を僕は忘れません。初参加でかなり緊張しましたが、とても幸福なひとときでした。

多田 琢

多田 琢審査方法も結果も納得できるもので良かったが「審査する気持ち」を作るのはとても難しかった。あの時のCMと、それと関係なく作られたCMを横並びで審査することに違和感を感じてしまった。
 あの時、無力感の中で繰り返されるACのCMを見て思ったのは「この時間を報道に返し、情報を伝えてもらいたい」ということ。悲しいけどCMがなにもしないことが、CMにできる唯一のことに思えた。誇りを持って退場する、その考えに賛同してくれた企業もあった。しかし、結果は僕の力ではどうにもならなかった・・・そんな時、佐々木さんの「上を向いて歩こう」の企画を知った。佐々木さんと僕の考え方は180度違うが、成し遂げる力は佐々木さんが100倍強かった。CM返上を諦めた自分がとても情けなく思えた。  審査会で、そのことを繰り返し思い出していた。

田中 昌宏

田中 昌宏審査方法を今回から変えたので、審査方法についての議論が多くなったのは止むを得ないことなのかも知れません。私も五月蠅いことを言ってしまったかもと反省しています。ひとつひとつのCMの質についての議論をもっと多くできていたら、もっと楽しかったのか、あるいは凄まじいことになったのか。審査結果については満足しています。今年の審査員であれたことを光栄に感じます。相変わらず常連の入賞が多いじゃないかと批判するご意見もあるかと思いますが、その批判は、割って入れない「その他大勢」にこそ向けられるべきものでしょう。入賞したCMたちの見応えと、普段、オンエアで見ているCMたちの総体的な見応えの無さをしっかりと受け止めて、CMの質的向上を図って行きたいと思います。

永井 聡

永井 聡今年、初めて審査員という大役を務めさせて頂きました。
審査員になって解ったのは、ファイナリストに残るのがいかに難しいかという事。
正直、去年まではメダル以外興味無かったのですが、熾烈なレースを目の当たりにして、改めて賞のありがたみが解りました。
ACCというと、広告業界にとっては割と身近な賞に思えますが、実際はとてつもなく高い壁であり、むしろ獲れなくて当然、残ったらどんな賞でも誇りに思って良いと思います。
「同じ人達ばかり受賞しているし、馴れ合いではないか」という意見も聞きますがそれは絶対無いです。
審査会で観ると、受賞作品はものすごく惹きつける何かを持っている。
それがローバジェットの作品でも強いものは強い。
そういうものが自然に選ばれているだけだと思います。
でも審査会は楽しく無かったですね、ピリピリしているし。
皆さん、一流のクリエイターだからそうそう意見など曲げないし。
全員の意見が理路整然としていて、筋が通っているのです。
逆に考えれば、皆譲らないほど真剣に審査しているという事です。
まあ、いいんですけどね。もうちょっと楽しくやりましょうよ。

中島 信也

中島 信也やっぱり、ぎりぎりのところで作られているものが頂点を極める。広告の仕事は、どんなに経験を積んでも楽勝ということはない。いつもぎりぎりだ。でも、ぎりぎりの苦労を積んだからといって必ず報われるのか、というとそうでもない。そこに人智を超えたなんらかの力が舞い降りて初めてひとびとの心を動かすところとなる。今年の受賞作はとくにそのことを強く感じさせてくれる。2011年という大変な出来事をぼくたちは共有した。そこから広告主さんたちのぎりぎりの決断があり、制作者たちのぎりぎりのがんばりがあって、CMはふたたび立ち上がろうとした。それをみた天によって人智を超えたパワーを授かったCMが、ひとびと大きな感動を与えた。そんな今年の受賞作にぼくは、以前にもましてCMの持つ力を感じずにはいられない。

永見 浩之

永見 浩之テレビCMは、まだまだ、
人の心を動かすことができる、
人を幸せな気持ちにすることができる。
そんなCMの復権を、実感した年でもありました。
見ていて、純粋に、心が揺さぶられるものが、いくつもありました。
その心の動かし方は、文脈の違う2つのやり方が拮抗していたように思います。
ひとつは、セレブリティが主役の、楽しいエンターテイメントか
ひとつは、オーディナリーが主役の、みんなの心に寄り添うものか。
でも、どちらの方向も、本当に強いものだけが、残っていきました。
で、その強さは一体どこから来ているかと考えると、
どれも作り手の意思の強さ、なのではなかろうか。
その意思が、尋常ではなく強いものだけが、生き残れる。
2012年は、そのことを、自分に問いかけながら、やっていこう。

福里 真一

福里 真一時代のムードもあり、善と善の戦いの様相を呈した今年の審査。上位作品はどれも心を打つ、すばらしいものばかりでしたが、善なるメッセージをまったく発しない「いい大人のモバゲー」シリーズを、思わず応援したくなったことも確かでした。それと、個人賞(クラフト賞)から「CMプランナー賞」がなくなってしまいましたが、ぜひ復活させてほしいです。CMにおいて企画という「技術」は間違いなく重要ですし、CMプランナーって、ほめられることのとても少ない職種ですので…。

古川 裕也

古川 裕也今年審査方法を変えました。自分のものには投票できないというルールもそのひとつ。やっぱり、この方が気がラクですね。
上位にきたCMを見ると、今年、潮目が変わった、とまではいかないけれど、表現のdiversityは少し獲得できたような気がする。そういえば、今年、スーパーボウルのCMワクの売り上げが史上最高らしい。いろいろ変化がありこれからもあるわけだけれど、CMをはじめとした映像表現こそが、いちばんヒトを動かす能力があることは間違いない。
ただ、その能力を活かす、“つねに高いレベルのCMの企画ができるヒト”がすごく貴重な存在になっている。仕組みとかキャンペーンのアイデア考えるより、ずっと非論理的専門能力必要なので。

三井 明子

三井 明子初めて審査に参加させていただきました。
スマートな審査の流れもふくめて、「大人の賞」なのだと実感。
震災の影響について時間をかけて議論しなくても、審査員がそれぞれの思いを考慮して審査にのぞむ、素敵な大人による審査だと感じました。

山崎 隆明

山崎 隆明私は秒数が長くなればなるほど厳しくみてしまうタイプなのですが、
グランプリの九州新幹線には、ついつい引き込まれていくチカラがありました。
商品を真ん中においたドキュメンタリーの強さ。
いまの時代が求める読後感。
もういちど審査しても、このCMがグランプリになると思います。
審査結果はいいところに落ち着いたのではないでしょうか。
インパクトがあって面白いがこれは広告として成立しているのか、みたいな議論になるCMがあっても審査が盛り上がって面白かったかなと思いましたが、
まあ、ないものねだりです。
それにしても、長尺やシリーズと15秒CMを同じ土俵で評価するのは難しい。
だからと言って昔みたいに秒数で賞のレイヤーを分けても、なんかぱっとしないですしね。なんかいい方法ないのでしょうか。

横澤 宏一郎

横澤 宏一郎ACCの審査員をはじめてやらせてもらいましたが、そこで実感したのはACCのレベルの高さです。ちょっと面白いな、くらいではファイナリストにも入らない。最終審査に残ったものは、常連のCMや常連の制作者の手掛けたものがズラリ。でも、審査会という中にいるとそれも大いに納得だった。ここまでいかないとシルバーましてやゴールドには届かないんだなと。逆に言えば、その大きな壁を立てることが、ここを越えなくちゃいけないんだよ、という若い制作者へのメッセージでもあるんだと感じました。ACCは、全然閉じてなんかない。