2010 50th ACC CM FESTAVAL 各審査員のコメント

ラジオCM部門【審査委員長】

小田桐昭

小田桐昭「ラジオよ!」2010ACCラジオCM審査員からのメッセージ。

今年は、審査員をテレビから分離して、ラジオにのみ集中して審査するようになりました。ACC50年の歴史の中で初めてのことです。

昨年のラジオとテレビの最終審査日のことです。 ラジオの「ベスト5」を選ぶ時になって、特別審査員の方たちから、リストアップされた候補作を「こんなラジオCMなら、もうなくなっても仕方がない」と言われ、ラジオ関係者は大きなショックを受けました。そして、佐々木宏審査委員長とも相談して、今年は「ラジオのためならすべてやる」ということにさせてもらいました。応募料が高いといえば安くしました。応募素材も、もっとカンタンなものにしました。良いラジオCMを集めるためなら文字通りなんでもやるつもりでした。審査員の「分離独立」もそのひとつです。ラジオに専念集中し、あわせてラジオの将来を考えるチャンスにしたいと。
ラジオは死んでいるわけではありません。ラジオをテレビ以上に必要としている人々はいて、依然として人々と深い関係にあります。私たちは、ACCの審査員としてそのことをハッキリと世の中にメッセージしなければなりません。

そんなわけで、「ラジオを愛し、ラジオの今とあしたを考える」11人が集まりました。ラジオの制作者に加えてラジオ局の編成という立場から橋本裕子さんが、放送作家の山田美保子さんが、そしてコピーライターの山本高史さんが加わってくれました。
当然のことながら、審査というより、「ラジオの今とあした」について論議をすることに大部分を費やしたように思います。

審査は3日間にわたりました。 第1日目を「企画CM」に当てました。番組とCMの境にある、定型以外の企画CMに、ラジオの「今」や「あしたの匂い」を見つけられるのではという私たちの期待があったからです。「企画CMからグランプリを」という呼びかけもあって32本の応募がありました。昨年はわずか3本でしたから大幅に増えたとは言えます。企画書や説明のDVDを丁寧に見ながらの審査でした。

第2日目は定型のCMを、第3日目は入賞作からベスト5です。
予選のときから他をリードしていたパナソニック「エコキュート」が投票で第1位になりました。一人暮らしの老人が、パナソニックへの自分の投書を読むというものです。とぼけた語りの中に、かわいい欲望がかいま見え笑いを誘いますが、老人を慰めているものが「エコキュート」の人造音だと知るとドキリとします。自社製品への自己批評と世間から隔離されてしまった「孤独な老人」という、現代の陰の部分を軽妙な笑いの中に潜り込ませた手腕に高い評価が集まりました。

第2位は、日本ユニセフ協会の「Happy Birthday for children」でした。誕生日を迎えることなく死んでしまう600万人の赤ちゃんを救うために企画されたものです。毎日、アーティストが歌う「Happy Birthday」の歌をケータイからダウンロードでき、大切な人にプレゼントした時、課金がそのまま寄付されるという仕組みとアイデア。何よりも、ラジオがキャンペーンの中心にあって、他のメディアを巻き込みながら、影響力を拡大して行く力が評価されました。「これがCMと言えるか?」「番組とCMの融合は必然なのか? 営業的都合の産物ではないのか?」「制作者が目指す技術か?」「クリエーティビティという点では?」「制作者以外の人間がCMに介入してくるが、それでかまわないのか?」などさまざまな意見が出ました。しかし、ラジオの新しい可能性をなんとしてでも示したいという審査員の強い意志が、このCMを2位に押し上げました。

いよいよグランプリです。グランプリは、いわば、審査会のメッセージです。
グランプリを決定する前に私たちは、「私たちのメッセージは何か?」について議論しました。「ラジオは古びたメディアで、すでに人々から見捨てられているのではないか?」という昨年の問いに、明確な答えを返さなければなりません。多くの制作者やラジオの関係者に勇気を与え、そしてラジオに偏見と無視を続ける人たちに、ラジオへの新しい驚きと力を示さなければなりません。果たして、新しい驚きという点で第1位の「パナソニック・エコキュート」が私たちの気持ちをすべて伝えてくれるものか、私たちは少し自信がありませんでした。「企画部門から2位が出たことで充分に今年のメッセージになり得るのでは」という意見と、「いや、グランプリだけがメッセージだ」という意見の間に私たちは揺れ動きました。

そして、グランプリが2つ生まれました。
全体の傾向です。「ラジオの再生」は応募作の中にも浸透していたように思います。できるだけ無駄なものを削り、ラジオの音声のみが持つ力を見直そうという制作者たちの意志を感じとることができました。
特に、パナソニックの一連の入賞作品は意図的に人間の声の力のみに集中したつくりで、人間が人間に向かって発する根源的なことばの力にラジオの究極の表現を求めようとしています。
また、最初は不調に見えた20秒CMが、ベスト5に2本も入ってきたのは「今を生きている元気なCM」を示したいという審査員のメッセージでもあると思います。
2010ACCラジオ審査会は、とにかく無事終えることができました。
私たちが今、ラジオのために何をメッセージとして発しなければならないかを審査員の全ての方々は理解して、審査に加わってくれました。同じ志を持つ人たちが集まる心強さとある種の高揚感が私たちを強い絆でひとつにしてくれたように思います。ひとりひとりの審査員に心より感謝申し上げたいと思います。
どうも、ありがとうございました。みなさんと共に過ごせた3日間をとても愛しく感じています。

ラジオCM部門【審査員】

林屋創一

林屋創一酷評された昨年の結果を覆そうというラジオ関係者の想いが、2本のグランプリに集約された…と思っています。機械に人の温もりを求める老人の言葉に、ラジオの存在そのものを感じさせたパナソニック・エコキュート。毎日異なるアーティストの歌声をダウンロードすると、世界中の子供たちの命を救う日本ユニセフのキャンペーンは、企画カテゴリー初のグランプリとして、人を動かすラジオのチカラを証明してくれました。企画カテゴリーは、新設されたME部門のラジオ版にしたいですね。

福本ゆみ

福本ゆみ広告が変わる時期なのだと思う。ラジオもそうなのだけど、マス媒体全体のクリエイティブが。今回ラジオの審査では、瀕死のラジオCMを救え!ということで、企画CMを重視した。それはそれですごく良かったし、新鮮だった。しかし、審査にできるのはそこまでだ。この10年で3分の2に縮小したラジオCM業界が、今後どうなるのかは、ラジオが聴きたいと思う媒体であるかどうかに関わってくる。それは「ラジオだから」という概念を一度捨てなければいけないのかもしれない。私も、ラジオでなくてもいい、広告でなくてもいい、何か新しいものが書きたくなった、今回の審査だった。

中山佐知子

中山佐知子あるとき、東京FMのエレベーターに乗ったら目立つステッカーが貼ってあった。「ラジオが元気になることなら何でもする。小田桐昭」。腰を抜かしそうになったけれど、人目もあるので抜かすのをやめた。でも、こんなステッカーを貼られて笑っている小田桐さんは偉大だと思った。さらに小田桐さんの名前は恐るべき破壊力があると実感した。それから自分も審査員であることを思い出した。「何でもする」って、何をすればいいのよ。いや、違う。何でもするのは私じゃない、小田桐さんだ。安心した。その安心感のまま審査をした。楽しかった。

井田万樹子

井田万樹子ラジオの魅力を世の中にアピールできるものを選びたい。そんな思いで審査をしました。 広告主には、今の時代ならではのラジオのメディア価値を知ってほしい。制作者には、ラジオにしかできないおもしろい表現があることを知ってほしい。 結果、人間らしさ、リアル、地域性といったラジオの強みを活かしたもの、コピーや演出やメディアの使い方など何かに挑戦しようとしているものが残りました。来年さらに新しく挑戦的なラジオCMが増えることを願っています。

山田美保子

山田美保子小学生のころ、深夜放送のハガキ職人をしていたことが現在の仕事につながっている私。ラジオとラジオCMには深い愛情をもっているつもりでした。しかし、愛しすぎていたからこそ見てこなかった「ラジオの現実」を突きつけられることから審査はスタート。それでも、ラジオを愛してやまない小田桐委員長をはじめ、皆様の熱き想いに勇気をいただき、前を向いて審査をさせていただきました。ラジオは作り手の人柄や想いがストレートにリスナーに伝わるメディアです。ラジオCMも同じだと思います。そんなことを再認識させられる貴重な3日間でした。ありがとうございました。

中村聖子

中村聖子昨年、ラジオCMが散々な評価を受けたようですが、今年もそれほど変化はなかったんじゃないでしょうか。でも、グランプリの「手紙」は文句なしに素晴らしかった。いいものはちゃんと生まれている。ラジオCMの新しい可能性や真価について、いろいろと議論されましたが、もしかしたら、ラジオというメディアのせいではなく、限られた制約の中で、知恵や力を出せるクリエイティブ能力が退化しているのかも。一本のラジオCMでどこまで突き抜けられるか。新しい試みも良いことですが、そこのところを忘れずにいたいと、改めて思いました。

岡部将彦

岡部将彦私見ですが、視覚からほとんどの情報を得ている人間にとって、音しかないラジオCMは、一番「めんどくさい」広告です。だからラジオCMの審査は、一番「めんどくさい」審査なのです。なので皆さん自然と「めんどくさくない」CMを選んでる気がします。聴いていて、心地よくて、わかりやすくて、素直におもしろい。
 というわけで、今年、一番、素直におもしろかったラジオCMと、今年、一番、素直に新しかったラジオの使い方がグランプリに選ばれました。僕的にはとてもシンプルな選ばれ方でした。

福島和人

福島和人『ラジオの未来』という審査委員長の言葉が手がかりでした。メディアのあり方が変わる、広告のあり方が変わる、その時ラジオCMはどんな答えを出せるか。審査委員は、応募されたものの中からどれかを選ぶことでしかメッセージを発信できません。 「もっと、何かあるだろう」、「もっと、何かないのか」、「もっと、もっと。」 審査委員たちは、自問しながら審査を続け、それぞれの決意と課題を持って、制作現場に戻りました。 企画CMのグランプリ受賞のことを考えても、もはや「ラジオのCM」と考えて取り組むより、「音のメッセージ」と考えた方がいいのだと確信しました。

直川隆久

直川隆久審査員全員(僕も含む、と思いたい)が、無私の態度で「ラジオの今とあした」を探る3日間。楽しかった。2つのグランプリは、ラジオがこれから進む道を照らす2本のあかりだと思う。個人的には、ゴールドにちょいシモ系が入って嬉しかった。テレビにおける表現が自己規制を強める一方、「本音の解放区」としてのラジオの株は上がっていると思う。制作者の皆さん。これはテレビじゃ流せんだろ。ウヒヒ。というCMをこの1年でひとつでも作りませんか。また、企画CM 部門に応募できるような仕事も。などと人に言ってる場合ではないのだが。

橋本祐子

橋本祐子世の中なんでもボーダレスの時代。どこまでが番組でどこまでがCMか。小粒でピリっと辛いCMは何度聞いても飽きませんが、ボーダレスCMは番組の間で聞くと大味にボヤける危険性が大。ラジオの1秒は短いようで長く、秒数が限られているCMは長尺CMとて1秒1秒がとても大切。番組が過去に散々やってきたことを今さらCMで、ではなく、番組になかった新しい形を作り出そうとするCMには新鮮なパワーを感じました。スポンサーニーズも多様化する時代、難しさを逆手に取った企画力あふれるラジオCMが増えることを願います。

山本高史

山本高史ビジター顔というか借りてきた猫のように慎ましやかに延々と続くラジオコマーシャルを聞き続けていたのだが、誤解を恐れずに言うと、(なんかつまんねーな)だった。逆に言うと(もっとおもしろくなれるんじゃねーか)だった。しょせん借りてきた猫なのでラジオのつらい状況には言及できないが、コピーライターとして発言すればそこはコピー天国にも思えた。だってほぼコピーなんだもん。書いておもしろくも悲しくもできるんだもん。来年は審査する側じゃなく審査される側として頑張りたいね、と思うほぼ年末。