2010 50th ACC CM FESTAVAL 各審査員のコメント

マーケティング・エフェクティブネス部門【審査委員長】

秋元康

秋元康マーケティング・エフェクティブネス部門 審査を終えて

ACC賞に新たに設けられた賞ということで、正直、心配していた。賞というのは、長い歴史の中で、少しずつ、認知され、重みを増し、本来の目的に近づいていくものだからである。そう簡単に、「マーケティング・エフェクティブネス賞」なるものの対象作品が集まるだろうか? しかし、審査を進めるうちに、それが杞憂だとすぐに気づいた。どの作品もいろいろな角度で練られている。キャンペーンを一過性のもので終わらないように、考えられている。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネットなどのメディアでの仕掛けの点が、店頭に集まって線になり、人々の生活の中でキャンペーンという面になっている。

不況の折、企業側の効果測定はシビアなものになっている。もはや、単純なイメージアップという言葉では、納得しないだろう。広告業界にも、その緊張が見て取れる。まさに、“エフェクティブネス”は、どうなのか? インパクトより、持久性に主眼が置かれていた。奇を衒うのではなく、生活習慣の中に擦り込むような…。消費の冷え込んだ時代に、重い腰を上げさせるような提案型のキャンペーンが主流である。表現は実直で、「なるほど!」と納得するものばかりだった。何かが劇的に変わるというより、昨日よりほんの少しだけしあわせになれるようなささやかな提案。

マーケティングから、少しだけ、世の中が見えた。抽象的な言い方で申し訳ないが、今の日本人は、“得る”ことより、“気づく”ことの方が大切だと思っているのだ。今、持っているものの中にしあわせがあると…。その小さなしあわせを増幅するためのものを探している。決して、特別なものではない。2010年度のキャンペーンがささやかな提案型が多かったのはそのせいだろう。消費者一人一人にどれだけ、「なるほど」と思ってもらえたか?大衆の頷きのドミノ倒しが、キャンペーン・エフェクティブネスだろう。

マーケティング・エフェクティブネス部門【審査員】

池永忠裕(電通 プロモーションデザイン室長)

池永忠裕(電通 プロモーションデザイン室長)今年誕生したばかりの賞ということで、評価基準を決めるという側面も兼ね備えた審査会でした。「涙あり・笑いあり・驚きあり」のCMキャンペーン。「ニューカマー登場!」「継続は力なり!」「みごと復活!」「ブルーオーシャンへの船出!」etc.、ひとつの基準だけでは到底決められない。同部門はまさに人類営みの縮図です。応募97点それぞれに課題や期待・希望を背負ったブランド達!
CMが起爆剤となって、確実にブランディングや販促に貢献していることを実感しました。審査に参加させていただき、まさに「効くCM」を発見できたような気がします。

大谷研一(博報堂 顧問/博報堂アーキテクト 代表取締役社長)

大谷研一(博報堂 顧問/博報堂アーキテクト 代表取締役社長)ME部門は、異種格闘技戦です。サッカーと野球の優勝チーム、どちらが凄いか決めようとしている感じです。
大きく売り上げを伸ばしたキャンペーンもあれば、新しいカテゴリーを創造したキャンペーンもある。男性から女性にターゲットを見事に転換させた仕事もあります。なので、この部門の審査は議論が中心です。投票はその確認作業のようでありました。
個人的には過去のどの審査会よりおもしろかった。表現だけを論じたり、マーケティング戦略だけを語るのは時代遅れです。どの部分を褒めても、どの部分を貶しても良い自由奔放さがこの賞の魅力であり可能性です。

岡野宏(キヤノンマーケティングジャパン 宣伝制作部長)

岡野宏(キヤノンマーケティングジャパン 宣伝制作部長)マーケティングの意味は本来「的を射る」だとすると本賞の「的」は何か。クリエイティブな価値軸はもちろん重要だが、仕掛けたコミュニケーションの規模の大小にかかわらずどこまで効果を発揮したか。結果として売上・利益に貢献し、ブランド価値を高めたかを評価することと考える。業種を越えた何でもありの企業の戦いだと審査を通じて感じた。それはおもしろくもあり、悔しくもあり、厳しくもある。また、しなやかでもあり、したたかでもある。本賞が広告会社、媒体社、そしてアドバタイザーズに大いなる刺激を与えることを信じる。

岡本善勝(資生堂 宣伝制作部プロデュース室長)

岡本善勝(資生堂 宣伝制作部プロデュース室長)効いたキャンペーンはどれか? これがこの賞の審査基準である。最終審査では23件の1次通過作品を1本見てはDVDを止めて議論し、また見ては議論し、を繰り返した。秋元審査委員長が独特の眼力で舞台裏を暴き、鋭い意見で切り込んでくる。いつ終わるかわからない議論が続く…。キリンフリー、サントリー角ハイボールなどの強力なキャンペーンの話をしていると、誰が言い出すともなくお線香の日本香堂が話題に上ってきた。とても新鮮だった。今回のメダリストでマーケッターとクリエイターの両方を評価するこの賞の方向を示すことができたと思う。

恩蔵直人(早稲田大学商学学術院長 商学部長)

恩蔵直人(早稲田大学商学学術院長 商学部長)製品に何の手を加えなくても、広告の力で売り上げが伸びる。これは、今回の審査を通じて改めて得た印象だ。日本香堂の「喪中はがきをもらったらお線香を送ろう」というメッセージは、消費者にお線香を贈るタイミングを教えてくれた。サントリーホールディングスの「角瓶」キャンペーンでは、ウイスキーの新しい飲み方を提案し、当該ブランドだけにとどまらずウイスキー市場全体を押し上げた。広告の効果というと、新ブランドの認知や理解のアップに目が向きやすいが、既存ブランドのリポジショニングや新たな消費提案にも大きな可能性がある。

早乙女治(アサツー ディ・ケイ エグゼクティブクリエイティブディレクター)

早乙女治(アサツー ディ・ケイ エグゼクティブクリエイティブディレクター)すべての広告活動には目的がある。生活者にとっての価値とは? 重要なインサイトとは? 周到に練り上げられた戦略と、計算された語り口。その歯車がうまくかみ合って、大きな成果を手にした仕事に、あらためて広告のダイナミズムを感じた審査だったと思います。秀でたアイデアを称える従来からのACC賞に対して、優れた戦略で答えを出した仕事を称えるAME賞と考えるとわかりやすい。ついつい表現のクオリティに意識がいってしまう自分に、そう言い聞かせながら、他の審査員の皆さんの話に耳を傾けつつの審査は、学ぶところ、思うところの多いものでした。この賞の第一歩に貢献できたことを誇りに思っています。

島崎絋而(味の素 理事 広告部制作企画グループ長)

島崎絋而(味の素 理事 広告部制作企画グループ長)CMが役に立ったか? マーケティング視点をふまえて評価しようとする審査が行われた。本来CMは、目的や目標があって創るわけで、その目標を達成したか否かは容易にわかりそうなものであるが、難しいのである。ただし商品が売れれば会社が元気になることは皆わかっている。そこで売るための広告を創ろうとするのだが、今回グランプリを獲得したキリンのフリーは、近江商人の経営センスでできている珍しいCMだと思う。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」である。私は、これからのCMに「三方よし」のセンスが溢れることを期待している。

白井博志(博報堂 ソリューションビジネス局長)

白井博志(博報堂 ソリューションビジネス局長)これは商品力や営業力ゆえの市場成果じゃないのか? この市場成果の記述は本当に客観的なのか? 広告・コミュニケーションの寄与度はどう判断する? 広告投下量の多寡はどう考える? 2010年度の表彰としての旬な感じは必要か? 等々「?」だらけのエフェクティブネス部門の船出ではありましたが、エントリーシート精読〜第一次審査〜第二次審査を通じ、審査員各位と活発な議論を交わしていく中で、ACC新部門として納得のいく審査結果を導くことができたのではないかと思っています。来期以降も、もっと議論を重ねながら評価軸を磨き続けることが重要ですが。

田中里沙(宣伝会議 取締役 編集室長)

田中里沙(宣伝会議 取締役 編集室長)マーケティング目標を達成するためのコミュニケーションにおいて、鍵を握るのは何といってもクリエイティブ。ゴールに結びつけるさまざまな場面のアイデアと表現を立体的に見る審査は、注目点や切り口が膨大で、議論が尽きなかった。資生堂シーブリーズは対象層を若い女性に設定し直し、ロングセラー商品が鮮烈なものになった。パナソニックのエコナビ商品群は企業のフィロソフィーを商品に落とし込む、大胆でいてきめ細かな戦略。市場の規模に違いはあるものの、キリンフリー、日本香堂は精緻に企画されたCMが気づきとなって新商品を生活シーンの中に位置づけることに成功している。新たな価値を創造する広告の原点に出会うことができた。

津山克則(パナソニック マーケティング本部グループマネージャー)

津山克則(パナソニック マーケティング本部グループマネージャー)新しいクリエイティブを評価する従来のACC賞に、マーケティング成果を問うエフェクティブネス賞が加わったことによって、ACCはこれからの企業経営にとってもより意味のある存在になったと思う。
そういった意味で第一回目のエフェクティブネス賞は日本を代表する、これからの指標になるような答えであること…。
そんな意識で、審査員全員が葛藤し、侃侃諤々の論議で選出した今回の入賞作は大作あり、地味でもキラリと光るものありで、結果的には納得できる作品が選ばれたのではないかと思っています。

三浦武彦(電通 執行役員 エグゼクティブクリエーティブディレクター)

三浦武彦(電通 執行役員 エグゼクティブクリエーティブディレクター)キリンフリー(発見)と角瓶(復活)の決選投票でキリンフリーがグランプリとなった。いずれが選ばれてもおかしくない上質なプロジェクト同士の決選だった。気持ちとモノを動かすことが難しい時代に、この2つのプロジェクトは私たちに勇気と自信を与えてくれた。新賞第一回の審査は何をどう選ぶかが「楽しみ」であり「不安」でもあったが、選ばれた残りの5つの優秀賞とファイナリストが新賞のベクトルを示してくれたと思う。

八塩圭子(学習院大学 経済学部 経営学科 特別客員教授)

八塩圭子(学習院大学 経済学部 経営学科 特別客員教授)何をもってして「マーケティング効果」とするか。その不朽のテーマとがっぷり四つに組んだ審査会は、千秋楽まで興奮の連続だった。その答えは賞の趣旨からすると、テレビCMを中心とした広告効果をまず見て、その先にある販売数量や売上への貢献をはかるという評価がふさわしいように感じた。ただデータが一律でないのが難しいところ。「キリンフリー」対「サントリー角ハイボール」の横綱対決はそれぞれ商品力、営業力にバックアップを受けつつ、決まり手は広告の寄与度であった。飲んべえの私には「飲むか、飲まないか」に負けず劣らず難しい行司だったのは間違いない。

八嶋実(アサツー ディ・ケイ 第一AP局シニアアカウントプランナー/局長)

八嶋実(アサツー ディ・ケイ 第一AP局シニアアカウントプランナー/局長)この場合の効果は?目的は?/圧倒的な商品力。でも広告力は?/複数年のキャンペーンとして応募していたらよかったのに/長期展開でも成果のピークが古いと…/テレビCMありきだと「成果の大きさは予算規模」となりがち/成果は十分だが広告にオリジナリティは?/一般的に新商品の導入より成熟商品の立て直しの方が難しいが…と、初回だからこそ議論百出(これがまた、楽しかった)。そんな中、商品と広告の総合力で社会性のあるメッセージをもって新市場創造をはたしたキリンフリーは、第一回にふさわしいグランプリ。おめでとうございます。