ラジオCM部門【審査委員長】
小田桐昭

今年は、審査員をテレビから分離して、ラジオにのみ集中して審査するようになりました。ACC50年の歴史の中で初めてのことです。
昨年のラジオとテレビの最終審査日のことです。 ラジオの「ベスト5」を選ぶ時になって、特別審査員の方たちから、リストアップされた候補作を「こんなラジオCMなら、もうなくなっても仕方がない」と言われ、ラジオ関係者は大きなショックを受けました。そして、佐々木宏審査委員長とも相談して、今年は「ラジオのためならすべてやる」ということにさせてもらいました。応募料が高いといえば安くしました。応募素材も、もっとカンタンなものにしました。良いラジオCMを集めるためなら文字通りなんでもやるつもりでした。審査員の「分離独立」もそのひとつです。ラジオに専念集中し、あわせてラジオの将来を考えるチャンスにしたいと。
ラジオは死んでいるわけではありません。ラジオをテレビ以上に必要としている人々はいて、依然として人々と深い関係にあります。私たちは、ACCの審査員としてそのことをハッキリと世の中にメッセージしなければなりません。
そんなわけで、「ラジオを愛し、ラジオの今とあしたを考える」11人が集まりました。ラジオの制作者に加えてラジオ局の編成という立場から橋本裕子さんが、放送作家の山田美保子さんが、そしてコピーライターの山本高史さんが加わってくれました。
当然のことながら、審査というより、「ラジオの今とあした」について論議をすることに大部分を費やしたように思います。
審査は3日間にわたりました。 第1日目を「企画CM」に当てました。番組とCMの境にある、定型以外の企画CMに、ラジオの「今」や「あしたの匂い」を見つけられるのではという私たちの期待があったからです。「企画CMからグランプリを」という呼びかけもあって32本の応募がありました。昨年はわずか3本でしたから大幅に増えたとは言えます。企画書や説明のDVDを丁寧に見ながらの審査でした。
第2日目は定型のCMを、第3日目は入賞作からベスト5です。
予選のときから他をリードしていたパナソニック「エコキュート」が投票で第1位になりました。一人暮らしの老人が、パナソニックへの自分の投書を読むというものです。とぼけた語りの中に、かわいい欲望がかいま見え笑いを誘いますが、老人を慰めているものが「エコキュート」の人造音だと知るとドキリとします。自社製品への自己批評と世間から隔離されてしまった「孤独な老人」という、現代の陰の部分を軽妙な笑いの中に潜り込ませた手腕に高い評価が集まりました。
第2位は、日本ユニセフ協会の「Happy Birthday for children」でした。誕生日を迎えることなく死んでしまう600万人の赤ちゃんを救うために企画されたものです。毎日、アーティストが歌う「Happy Birthday」の歌をケータイからダウンロードでき、大切な人にプレゼントした時、課金がそのまま寄付されるという仕組みとアイデア。何よりも、ラジオがキャンペーンの中心にあって、他のメディアを巻き込みながら、影響力を拡大して行く力が評価されました。「これがCMと言えるか?」「番組とCMの融合は必然なのか? 営業的都合の産物ではないのか?」「制作者が目指す技術か?」「クリエーティビティという点では?」「制作者以外の人間がCMに介入してくるが、それでかまわないのか?」などさまざまな意見が出ました。しかし、ラジオの新しい可能性をなんとしてでも示したいという審査員の強い意志が、このCMを2位に押し上げました。
いよいよグランプリです。グランプリは、いわば、審査会のメッセージです。
グランプリを決定する前に私たちは、「私たちのメッセージは何か?」について議論しました。「ラジオは古びたメディアで、すでに人々から見捨てられているのではないか?」という昨年の問いに、明確な答えを返さなければなりません。多くの制作者やラジオの関係者に勇気を与え、そしてラジオに偏見と無視を続ける人たちに、ラジオへの新しい驚きと力を示さなければなりません。果たして、新しい驚きという点で第1位の「パナソニック・エコキュート」が私たちの気持ちをすべて伝えてくれるものか、私たちは少し自信がありませんでした。「企画部門から2位が出たことで充分に今年のメッセージになり得るのでは」という意見と、「いや、グランプリだけがメッセージだ」という意見の間に私たちは揺れ動きました。
そして、グランプリが2つ生まれました。
全体の傾向です。「ラジオの再生」は応募作の中にも浸透していたように思います。できるだけ無駄なものを削り、ラジオの音声のみが持つ力を見直そうという制作者たちの意志を感じとることができました。
特に、パナソニックの一連の入賞作品は意図的に人間の声の力のみに集中したつくりで、人間が人間に向かって発する根源的なことばの力にラジオの究極の表現を求めようとしています。
また、最初は不調に見えた20秒CMが、ベスト5に2本も入ってきたのは「今を生きている元気なCM」を示したいという審査員のメッセージでもあると思います。
2010ACCラジオ審査会は、とにかく無事終えることができました。
私たちが今、ラジオのために何をメッセージとして発しなければならないかを審査員の全ての方々は理解して、審査に加わってくれました。同じ志を持つ人たちが集まる心強さとある種の高揚感が私たちを強い絆でひとつにしてくれたように思います。ひとりひとりの審査員に心より感謝申し上げたいと思います。
どうも、ありがとうございました。みなさんと共に過ごせた3日間をとても愛しく感じています。
ラジオCM部門【審査員】
林屋創一

福本ゆみ

中山佐知子

井田万樹子

山田美保子

中村聖子

岡部将彦

というわけで、今年、一番、素直におもしろかったラジオCMと、今年、一番、素直に新しかったラジオの使い方がグランプリに選ばれました。僕的にはとてもシンプルな選ばれ方でした。
福島和人

直川隆久

橋本祐子

山本高史
