ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSについてのお問い合わせ
【CM情報センター】CMの二次利用についてのお問い合わせ

現在、電話・FAXでの受付を停止しております。
詳細は、「CM情報センター」ホームページをご確認ください。

刊行物

TOP > 刊行物 > ACC会報「ACCtion!」 > 広告ロックンローラーズ

箭内: でも、専門学校って2年間ですよね?

篠山: そう、だから日大の3年生のときに卒業したんだけど、そこに求人募集が来てその中にライトパブリシティがあった。そしたら専門学校の先生が、「おまえ、ちょっと受けてみろ」って言うのよ。「オレ、まだ日大の3年なんですよ」って言ったんだけど。

箭内: それでライトに入ったんですね?

篠山: そうなんです。その前からアルバイトはやってたんだけどね。鶴本正三さんってアートディレクターが、いまは東急だけどその頃は日本橋白木屋って言ってた百貨店の宣伝部にいて、そこの仕事をくれてたの。白木屋には沢渡朔さんが紹介してくれたんだけどね。で、バイトで稼いだお金を新しいカメラにつぎ込んで、リンホフ買って、ローライ買って、ハッセルも買ったんだ。それでまたバンバン撮って、その作品をライトに持っていった。

箭内: そりゃ、受かるでしょう。

篠山: いや、そしたら面接のとき早崎治さんが、「君、リンホフ持ってるのかい、ハッセルも? あのねえ若い頃から、こんな高い写真機で撮ってると写真が卑しくなるよ」なんて言うんだよ。で、この野郎と思って、「じゃあ僕の写真は卑しいですかね?」って言ってやったの。そしたら「いやいや、そういうわけじゃないんだけど」って。
要は落っこったっていいから強気なんだ。若者っていうのは生意気なもので、生意気でない若造はダメだよ、いまでも。特権なんだから、そんなのは。

箭内: いいアドバイスです。じゃ、在学中から仕事してたんですね?

篠山: うん、学生なんで給料は安いんだけど。でもね、すごいんだよこれが。ライトにいるカメラマンっていうだけで、どんどんアルバイトが舞いこむ。ライトの隠語でバイトのこと「サンカク」って言うんだけど、それでガンガンお金が入っちゃったから甘いなあと思ったよね。だからみなさん、広告はチョロい仕事だから、勉強してどんどんやりなさい! ここで終わるのはどうかな?

箭内: いや、もうちょっと(笑)。ライトにはどれくらいいたんですか?

篠山: 6年半。

箭内: 結構長いですね。

篠山: あっという間だったね。入ってよかったのは、ライトっていうのはカッコいいんです。なんでもかんでもとにかく新しいものを入れてきて、見ること聞くこと全部新しい。それでもってその頃は、稼いだ金をカメラなんかにガンガン投資してた。最初は不純な動機でね、金が儲かると思って始めたんだけど、だんだん写真というものが面白いと思うようになって。
でも、広告っていうのはやっぱり大変なんだよ。技術がいるから。日立の冷蔵庫を撮ったんだけど、斜めから撮るとどうしても下がすぼんじゃう。それでデザイナーに怒られたりね。テレビでも昔は足が4本付いていて、全部の足にハイライトがきれいに入ってなくちゃいけないとか、色んなルールがあるじゃない?
そういうことができるようになるまでには時間もかかるし、バカにされたりすると悔しかった。あの頃トリスのハイボールが40円ぐらいだったんだけど、仕事が終わってからトリスバーで飲みながら、「チクショー」みたいなこともあったんです。でもライトだと撮るものがやたらなんでもあるからね。日本航空からミキモトのパールまで。それは勉強になった。技術を勉強できてお金が入るのはいいんだけど、なんかつまらないんだよね、広告って。

箭内: 撮りたいものが撮れない?

篠山: うん、やっぱり自分が撮りたいものを撮るのが楽しいんですよ。大学で卒業制作ってあるじゃない? 撮ったものをアルバムに貼って出したら、すごくいいなんて言われてね。卒業制作展にカメラ雑誌の編集者が見に来て雑誌に載ったり。そういうのはうれしいのよ。写真が載るのもうれしいんだけど、タイトルがあってその下に「篠山紀信」って名前が出るよね? 広告だとどんなにいい写真撮ったって名前出ないじゃん。ね? 自己顕示欲の強い我々としては、そっちのほうがいい。

箭内: 我々って(笑)。ちなみになんの雑誌に載ったんですか?

篠山: 『カメラ毎日』。そこの編集者っていうのが超生意気なんだ。卒展を見に来て「あ、これだな。いいじゃない。こいつにアルバム持って編集部に来るように言っておいて」なんて人づてに言ってね。持っていったら何カ月もかけて撮ったものなのに、「お前の写真、5ページ載せてやるよ。これとこれとこれ。タイトルは『栄光』にしてやるから」なんて。山岸章二って人なんだけど。

箭内: よく覚えてますね。

篠山: この人のことはみんな覚えてるよ。いじめられて(笑)。いまは名編集者とか言われてるんだけど。ま、あの頃は若いカメラマンの作品を載せてくれるところがあまりなかったからね。『話の特集』と『カメラ毎日』くらい。『アサヒカメラ』もあったけど、そっちは木村伊兵衛だ、土門拳だ、細江英江だって、大御所がどーっといて写真界のヒエラルキーがすごい。俺なんて下の下だったから。
『カメラ毎日』っていうのは、そういうエラい人が出てこない新参者の雑誌で、自分の作品が載るのは面白いじゃない? ギャラはひどいんだけど、コマーシャルで稼いでそっちにつぎ込む。それでオレはアメリカまで行って、デスバレーの写真集つくったんだよ(『NUDE』)。だからみなさん、広告なんかやめてカメラ雑誌に行きましょう!

箭内: なんか落語を聞いてるような気持ちです(笑)。でも、いまも時々は広告の仕事されてるじゃないですか。僕もお願いしてますし、去年は「きんさん・ぎんさん」の娘さんを撮ったりされてましたけど(ダスキン)、いまの篠山さんは広告をどういうふうに捉えているんですか? 雑誌や写真集の仕事の延長にあるのか、あるいはやっぱり広告って面倒くさいものだと思っているのか。

篠山: いい質問ですねえ。それはね、「篠山に向いてないな」っていう仕事は、さすがに来ないんだよ。箭内さんも、ちゃんと考えてくれるじゃない? 「これなら篠山が面白くしてるんじゃないの?」って。そんなのばっかり来て、基本勝手にやらせてもらってるからね。
でも、たまにいるんです。「こうやって撮ってくれ」みたいな画を描いて持ってくる人が。で、そうなったときの私の写真のつまらないこと! 見事にダメですね。自分で見ても「何? このつまんない写真」って思っちゃう。

箭内: 依頼する側も問われてるっていうことですよね。