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 2017年の「この性を生きる。」は、当時LGBTの認知が社会に広がっていたことに加え、友人にも多かったことからいつか取り上げたいと考えていたテーマでした。友人の好きな人が同性だと打ち明けてくれた時に、本来好きな人の話はハッピーであるはずなのに、つらそうなのはなぜなのかと。この作品では、「Lが何で、Gは何で」ということよりも、「人が人をどう好きであるか」を表現したいと思いました。伊藤さんが何百と考えてきた中のひとつが、このタイトル。カメラの前で覚悟を持って話してくれる方々に寄り添う形につくりたい、コピーで前向きさを表現したいと決めたものでした。
 取材対象の候補となった方々には、何度もお会いしたり、手紙を書いたりして引き受けていただきました。アイデンティティを突き詰めて考えている人が多いので、本当に真摯な態度で話してくれて。とても深い話ばかりで、聞きながら私が号泣してしまったことも。あとで聞いたら後ろでスタッフも涙を流していたそうです。

 2018年は桑山に担当を引き継ぎ、「いま、テレビの現場から。」というテーマで制作しました。この60年の間で我々の見られ方は変化をしていて、テレビ自体の力も下がり、“マスゴミ”と呼ばれて久しい。そんな中で、テレビの報道として伝えることがあるのではないかと。すると必然的に、内側を映す作品となりました。
 テレビを通したテレビの世界は、強く自信満々に映っていると思います。けれど実はつくるほうは迷いながらやっていて、人間らしい弱さもある。報道した内容についていつも自問自答しているし、番組放送のギリギリまで「この表現は正しいのだろうか」と考える。そんなところが伝わるといいなと思いました。

 また、テレビを観ていて「手抜きでつくってるな…」と感じることがあるんです。そういうところへのアンチテーゼや、「もっとがんばろうよ!」という気持ちも込めて。遅すぎるのかもしれないけど、テレビ業界の人間が改めて内省している時期にあるのかなと思います。CMをつくるための撮影や編集の過程で、だんだん自分たちのことが見えてくるという経験をしました。普段何をどう考えているのか、俯瞰することができた。

報道畑とCM畑のタッグ
互いのアプローチ法を取り入れて

 私たちは報道記者なので、CMはまったく経験のない新しい表現です。やってみて、「こんな表現方法があるんだ!」とおもしろみを感じました。物事のとらえ方やアプローチが、両者ではまったく違います。報道は何かが起きるとパッと行って瞬発力で捉えるのが得意ですが、CMは先に世界観やコピーをつくりこんでロケではめていく。だから準備期間がとても長いし、ものすごく緻密につくりこんでいくんだということがわかりました。突発的に起きたことを捉えたとしても、それをCMに落とし込むための緻密な計画がある。そこのおもしろさがありました。

 一方で都築さんは、コピーを考えていたとしても現場に行ったあと書き直したり、「世界観をつくってから」が通じないと感じて、何も用意しないで行くということもあったようです。報道に近いアプローチになって、そのことをやはりおもしろがってくれたんですね。もしお互いにポジティブに歩み寄れなかったら、こんなにたくさんの作品を一緒につくることはできなかったと思います。広告の人が「報道はおもしろい」と言い、私たちも「CMの表現はおもしろい」と感じた。そうやって一緒にやりたいものをつくれて、放送できた。
 お互いタッグを組むにあたって心掛けていたのは、「この作品で言いたいこと」の核の部分を、時間をかけてしっかり共有すること。ニュアンスが変わると核がぶれるので、「言いたいこと」について何カ月でもしっかり話し合う重要性を認識しました。
 今後も、CMづくりで感じた「こんな表現があるなんておもしろい!」という熱量を、報道やドキュメンタリー制作に活かしていけたらと考えています。

text:矢島 史  photo:川面 健吾

主なACC受賞作品

圡方宏史氏と電通中部の都築徹氏のタッグ
2011年 「食卓を守れニッポンの農力」(ACCファイナリスト)
2012年 「キャンペーン 交通安全」(ACCファイナリスト)
2013年 「総集編」(ACC地域ファイナリスト)
2014年 震災から3年伝え続けるキャンペーン」(ACCゴールド)
2015年 総集編 ~戦争を、考えつづける~」(総務大臣賞/ACCグランプリ)
繁澤かおる氏と電通の伊藤健一郎氏のタッグ
2016年 堀川、ヤバくない?シリーズ」(ACCシルバー)
2017年 報道局 公共キャンペーンスポット『この性を生きる。』」(ACCゴールド)
桑山知之氏と電通の高阪まどか氏のタッグ
2018年 報道局 公共キャンペーンスポット『いま、テレビの現場から。』」(ACCブロンズ)
2019年 見えない障害と生きる。