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恩返しに温泉をプレゼント
アイデアは雑談の中からも

 地震から1年後の17年4月には、宿泊数が完全に回復したお礼ということで「別府温泉の恩返し」を発表しました。これは、別府温泉のお湯最大11トンをトラックの保温タンクに入れて、応募してくださった方の自宅や施設に無料で直接運ぶというもの。「自宅のお風呂で別府の温泉が楽しめるなんて」と多くの方に喜んでいただけました。47都道府県すべてを回り、市長もスケジュールの許す限り同行しました。お湯の配布先にはメディアからの取材も結構来るので、別府のPRにも一役買っているんです。また、熱海や草津にお湯を届けた際には、逆にそちらのお湯をもらって別府の公衆浴場に入れて、別府のみなさんにもほかの地の温泉を楽しんでもらったり。双方のPRにもなり、また新たなつながりが深まったと思います。
 同時に、別府のみなさん「一人ひとりができる恩返し」として、例えば女子高生が電車を見たら中の観光客に手を振るとか、スナックレディがキス顔を披露するとか、喫茶店がコーヒー50円引きにするとか、感謝の気持ちを込めた12パターンのムービーも公開しました。女将も再びサービスショットを披露してくれました(笑)。別府市民が自分にできる恩返しをする中で、市としては温泉のお湯をお届けしようということだったんです。以前から大分県フェアなどでほかの地域で足湯を催していたので、それを個人宅でやったら面白いのではと企画ができました。ありがとうという気持ちだけではなく、実際にアクションを起こそうという考えがベースにあります。

 今年1月に草津で噴火があり、草津温泉が風評被害に困っているという現状を見て「今は別府行くより、草津行こうぜ。」という新聞広告を西日本新聞に出しました。東の横綱が困っているなら、西の横綱である別府温泉がエールを送りたい。お見舞い申し上げますというのではなく、別府のやり方は「草津行こうぜ。」だろうと。別府の方に怒られるかなという懸念もあったのですが、結果は「よくやった」と多くの方から褒めていただけました。「#草津へ行こう」とSNSでも話題にしていただけて。結果として、草津と別府の相互のPRになりました。
 これらは、観光課の別府ブランド推進係で生み出している企画です。5人のチームなのですが、出張ばかりでなかなか全員で会えることがない。面白いと思うことを考えるのが好きな者ばかりです。市長はだいたいのアイデアをOKしてくれますし。もちろん途中の段階をきちんと踏みますけれど、もし市長が固いお人柄だったなら、途中で止められてしまうものもあるでしょうね。

発信力のある人を巻き込む企画

 別府市には観光情報サイトがたくさんあったので、「温泉スタンダード極楽地獄別府」というサイトにひとまとめにしました。この中では、ただ観光地の紹介をするのではなく、例えば、新日本プロレスの獣神サンダーライガーが九州自然動物公園「アフリカンサファリ」を訪れたり、女子サッカーの川澄奈穂美選手が別府ならではのおもてなしを受けたり、何かしら面白おかしく読める記事にするようにしています。
 ただ、観光課のモットーは“なるべくお金を使わない”なので、ライガーさんは別府で行われたプロレス大会の際に、知り合いを通じてプロレスの広告を入れる代わりにギャラはなしでご登場いただきました。
 また、「湯~園地」のオープニングビデオにコムアイさんが出てくれたのは、この企画に興味を持ってくれたコムアイさんがラジオで「行きたい」と話題にしてくれたのがきっかけで、市長がそのラジオに出演。その流れで本当に別府に来て、ビデオにも出てくれたという経緯があります。ライターのヨッピーさんも、あちらから市長にコンタクトをとってPRしてくれました。普段は企業がお金を払ってPRしてもらうヨッピーさんに、逆に16万円分(入園料20枚分)もご提供いただいて、PRもしてもらって。大分出身の指原莉乃さんも、ヨッピーさんから入園券をもらって突然来てくれて、SNSで発信してくれたりと、企画と人脈でなんとかお金をかけずにできています。

 昨年から始まった「湯ぶっかけ祭」も盛り上がっています。それまでは普通の「湯かけ祭」でしたが、湯量を3トンから30トン(今年は40トン)に増やしまして。3トンの時はかかってもちょろっと濡れるくらいだったのが、30トンはもうびしょびしょですから。この日は付近の温泉がすべて無料になるので、冷えたらいつでも温泉に飛び込めるんですね。参加人数はそれまでの10倍になりました。ポスターとSNSでの拡散が効いたと思います。
 別府にはAPU(立命館アジア太平洋大学)という大学がありまして、半数が留学生です。約90カ国から集まった若者たちの発信力がとても高くて、彼らが広告してくれて、ボランティアもしてくれるという、とてもいいスキームができています。

大切なのは、人の心を動かすこと

 2019年に、大分でラグビーワールドカップが開催されます。別府にも宿泊客が来ることを見越して、市民に「最高のおもてなしをするぞ」という気分を高めてもらうためのプロジェクトを計画しています。ちょっと壮大すぎて実現するかどうかもわからないため口外できないのですが……もしできれば、次の開催地であるフランスにもつなげられるようなPRができないかと考えています。
 別府の観光客は、国内客で言うと横ばいなのですが、インバウンドがどんどん増えている状況です。国外へのPRは重要で、今も同僚のひとりがフランスとイギリスに行って旅行会社やパブを1軒ずつ回っています。パンフレットをつくって、冊子を置かせてもらったり。そういう行動も、「やりたい」と言えば許可してもらえる環境なのはありがたいです。
 制作する動画にしても、企画にしても、大事にしているのは「人の心を動かすこと」。そして、言うだけではなくて「実際の行動に移すこと」。紹介するだけではなく、その次のアクションの部分が重要だと思っています。動画やPRで「楽しそうだな」と参加した人が、本当に楽しんで別府のファンになり、その気持ちを拡散してくれるように。別府は年配の方には認知度が高いのですが、若い人にはまだまだです。今後も若い人たちへのPRを課題としていきたいと考えています。

text:矢島 史  photo:佐藤 翔